救国のBASIC

竹笛パンダ

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おっさん、革命を支援する

解放軍結成

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「カイト様、このような機会をいただき、心より感謝申し上げます。」
 サルタンは丁寧に頭を下げ、挨拶した。僕はサルタンの正面に腰を下ろし、その隣にリネットがリリーを抱えて座った。ガゼルさんは僕たちの向かい側に陣取った。この4人とサルタンさんたち8人との会合が始まった。
「まずは今までのいきさつについてお話いたします。」
 サルタンはコレット事件の経緯を語り、その後の記事の拡散により、王侯貴族への怒りが広がり、世の中を変えたいと願う市民感情が高まり、各地で市民運動が勃発している状況を説明した。
「そりゃ誰だって、命を粗末にされると思えば、反発もしたくなるってもんよ、なあ、カイト殿。」
「ええ、そうですね。命が無駄にされてしまう社会を変えていかなければなりませんね。」
「ですが今、市民運動の集会の場に、城の兵士が現れ、そこに集まる市民を攻撃し始めたのです。」
「城の兵士って、皆さんと同じ市民ではないのですか?」
「そうです。彼らの家族は城に囚われ、脅されているのです。中には妊婦もいました。命令違反者には処刑が待っています。そしてその上官は貴族の騎士なのです。」
「なんと、騎士の何たるかをわきまえぬ者たちよ。騎士道に反する行いであるな。」とリネットが憤慨していた。
 コレット事件の記事を書いたルクルがこの巡礼者たちに参加していた。ルクルはその後も王侯貴族の横暴さを訴える写真記事を市民に発信していた。
「あのコレット事件が示した通り、帝国の貴族どもは俺たちのことは人とも思っちゃいねえ。貴族が平民を養っているとまで言いやがる。」
 さて、どうしたものか。
「貴族の中にも市民の声を聴くべきだと主張した人はいましたか?」
「ああ、居ましたとも。」と言いながら1枚の写真を指差した。そこには処刑台に拘束された姿の男性の姿があった。
 その姿を見て、僕は言葉を失った。貴族側にも理解者はいたのだと希望を持っていたのだが、それはむなしく一瞬で打ち砕かれた。

「このように、彼はすぐに粛清されてしまいました。アクレ男爵の領地は田舎で穏やかに暮らしている人々が多く、領主でありながら農民と共に畑を耕していました。その姿が領民たちに慕われていたのです。市民運動にも積極的に話を聞いてくださる、理解がある方でした。」
 まさに恐怖政治であった。言うことを聞かなければ敵味方関係なく処刑されるという恐怖によって人心を掌握する。地球の世界にもあった話だ。
「そうですね、まずは捕らえられている人たちを救出しなければなりませんね。どこに捕らわれているのですか?」
「城の南東、この建物です。」とシュビーで撮った「写真」を指さす。
「どうでしょう?救出作戦は成功しますか?」
「手薄になれば、おそらくは可能じゃねぇか。」とガゼルが言う。
 僕はしばらく考えた後、大きめの紙にフローチャートを描きながら説明を始めた。
「まずは王都各地で同時に騒ぎを起こします。すると、最初に出てくるのは平民兵士たちです。彼らにこちらの作戦を伝えましょう。出て行った兵士が戻ってこなければ、次に騒ぎが起きたときには別の兵士がやってきます。こうして陽動作戦を繰り返すうちに、最後には上官の騎士が出てきます。」
 一同は図を見ながらうなずいていた。
「その彼は強いでしょうが、数で圧倒すれば捕らえることはできますね。しかし、こちらも被害を出すわけにはいきません。そこで、その騎士と対峙するには十分な力を持つ方にお願いしたいのです。リネット、リリー、力を貸していただけますか?」
「おいおい、いくら正義があっても、敵国で姫さんが戦闘してだな、聖獣様のお出ましとは、この国は戦争を吹っ掛けたことになるんだぜ。」
「ええ、承知しております。国ではなく市民に味方をする義勇兵と言ったところでしょうか。今日の話を聞いて憤怒に燃えたリネットとリリーが『軍務大臣ガゼル殿』を振り切って飛び出した。とすればいいのですよ。そのためには『市民』ではなく、ちゃんとした組織に所属する必要があります。助っ人の傭兵としてね。」
「それはどういうことなのでしょうか。」とサルタンさんが僕に聞いてきた。
「まずは組織の名前を決めましょう。それによって、相手にはっきりと“攻めてくる敵”だと認識させることができます。今の状態は市民が騒ぎを起こした程度の認識しかありません。これが、『解放軍が攻めて来た』と言えば、組織化された集団が襲ってくるという認識になるのが重要なのです。」
「なるほど、やっていることは同じだが、相手のとらえ方が変わるってことだな。」
「ええ、なので、明確に意思を示す名前が必要なのです。」
 ああ、ブランディングの会議をやっていたころを思い出すなぁ。自社開発のソフトをどうやって売り出すか。よく深夜まで討論をしたものだ。
「次にトレードマークです。これは商標、じゃなくて、旗印ですね。このマークが描かれた旗が、解放軍の存在を明らかにします。」
「わざわざ自分の居場所を教えるようなもんじゃないか。」
「ええ、今回の戦は貴族たちがどこにいるかわかった上で戦いますので、明確に攻めてきていることを知らせるのです。」
 ルクルはその意図を理解し、「おおっ」と歓声を上げた。
「自分たちは、この旗のもとに集い、敵からは集団が攻めてくるように見えるのですね。その様子を記事にして広げれば、皆に伝わることでしょう!」
 一同はこの提案に賛辞を贈った。

「最後にキャッチコピーですね。これは軍の統一した意志の元に人が集まっていることを示すと同時に、結束を強める合言葉になります。この言葉を皆で唱えながら行進すると、意志を持った集団であることが伝わります。これでただ市民が騒いでいるだけの行動から、意志を持った軍の統率された行動に変わります。まずはこの3つを決めてください。」
 サルタンたちはみんなで協議を始めたが、
「はいはい、難しい話は腹を満たしてからだよ。まずはご飯、あんたたちはここへご飯を食べに来たんじゃないのかい?」と言って、サキさんが料理を運んでいた。これを見てサルタン一行も食事の準備を手伝う。リリーにミナたちを呼んでくるようにお願いすると、喜んで羽をパタパタさせて飛んで行った。
 ガゼルさんは、
「あんたたち、酒もいけるだろう?」と言って銘酒を持ち出し、
「話し合いは楽しく、ざっくばらんにやるもんだ。」と言っていた。
 楽しい宴が始まった。サルタンたちも、やるべきことが見えたおかげで、来た時よりも希望に満ちた瞳をしていた。ルクルがミナと遊ぶリリーをシュビーで撮影していた。

 映したものがその場ですぐに写真になる便利な魔道具のおかげで、このような運動へと発展したことを聞いて、我ながら発明に対して驚きを隠せないでいた。きっと今日の様子も「記事」になるのだろう。日本で言うところのマスコミだな。そうなると次は新聞とか?印刷とかが必要になるのだろうと勝手に想像してニヤニヤしていた。
「カイト殿、何かいいことでもありましたか?」とガゼルさんが聞くと、
「そりゃ、聞くだけ野暮ってものだよ。」とサキさんが答えて、リネットを指さした。
「旦那、今日はよい日ですな。可愛らしい姫さんが、勇ましく正義を語るなんて、めったに見られるもんじゃありませんぜ。」
 ギャップ萌えと言ったか、まさしくその通り。僕は少しだけ嬉しくなった。
「実は私たちの間では、旗につけるマークはもう決まっていたのですよ。」
「そうなんですか、それでどのような。」
「空を飛ぶリリー様をマークにしたいと思います。」
「リリーを、ですか。それはまたいったい?」
「先日の戦役で、戦死者が出なかったことはご存じですか?」

「いいえ、でもそう言われてみると、捕虜になった方の数が多かったですね。早い段階で指揮官が判断されたのでは?」
 僕がそう言うと、今回巡礼者たちに参加している者からから名乗り出る人がいた。
「初めまして、元指揮官のタングです。帝国軍からはあの戦役を最後に引退しました。わたくしも平民兵士でしたので、今回のお話に参加させていただくことは、とても名誉なことです。」
「城の軍事情報をシュビーで撮影したのもタングさんのおかげなんですよ。」とルクルが言った。
「実はあの戦いで、リリー様が我々の前に現れた際、炎のブレスではなく、癒しの魔法をかけてくださったのです。我々としては恩人です。そう思えばこそ、敵対することはできずに、そのまま負けを認めた形になります。これには皆も同じ気持ちでした。今思えば生涯負けなしと言われた指揮官も、こんなに清々しい負け戦で引退できたことに誇りを持っています。」
 リリーはその話を聞いて、僕の胸に顔をうずめて恥ずかしそうに羽をパタパタとやっていた。
「だってカイト様が敵にも被害を出したくないって言ったから。」
「ちげえねえな。あんとき旦那に俺は無理だと言ったんだが、旦那が自信ありげに『2万の軍勢をいただく』とやってのけちまったもんだからそりゃ、たまげたもんだ。」
「我々は最初から負けておりましたな。先を見据えている者が戦に勝てるのです。」と、タングたちがうなずいていた。
「さて、残りはこの組織の名前と合言葉ですな。」とサルタンが言うと、
「覚えやすく短いものにするのはどうかしら、ほら、帝都には昔からある街の名前があったでしょう?」
「ええ、『ラダット』と言います。最も今では帝都と言って、昔の町の名を口にする者はいません。」
「しかし我々が帝国を討ち果たしたなら、街の名は「ラダット」になるわけですよね。」
「それなら、『ラダット解放軍』はどうかしら?」とリネットが提案すると、
 一同はすぐさま賛成の声を上げた。
「残るは戦の合言葉ですか、これは難題ですな。」とサルタンたちは頭を抱えていた。
「いいじゃねえかこの際、旦那が考えちまえば。」
「いいえ、これは市民を一つにまとめる大事な言葉です。例えば、ルクルさんは戦に勝ったらどんな世の中を望みますか。」
「そりゃ、平和で穏やかな生活だろう。ずっと待ち望んでいたんだからな。」
 そういうものでいいんです。皆に呼びかける感じで、サルタンさん、
「待ち望んだ未来」か、そうだな、
「立ち上がれ、市民たちよ!待ち望んだ未来のために!」とサルタンが言うと、
 皆で声をそろえて立ち上がり、
「立ち上がれ、市民たちよ!待ち望んだ未来のために!」と声を高らかに唱和した。
 ここに「ラダット解放軍」は結成されたのであった。

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