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おっさん、革命を支援する
開戦前夜
しおりを挟むドラゴンの里では長老が今か今かとリリーの到着を待ちわびていた。
「おお、リリーよ、よくぞ参った。」
「おじいちゃん、あのね、お母様が迎えに来てくれて、それからね……。」
リリーが今まで起こったことを一気に話そうとしていたが、
(ほら、リリーちゃん、カイト様のご用は?)
「あのね、カイト様から手紙を預かって来たの。」と言ってリュックをおろす。
長老は手紙を受け取り、
「ついに、パラギン帝国と決着をつける時が来たようだな……」
長老は静かに目を閉じ、深く息を吐いた。そのまなざしには、怒りではなく、長き苦難への決意が宿っていた。
「この日をどれほど待ちわびたか……。」と不敵な笑み浮かべていた。
「おじいちゃん怖いよぅ……。」とリリーが言うと、
「ああ、すまないね。カイト様には承知したと伝えておくれ。」
「うんわかった。カイト様にそう伝えるね。」
長老は一緒に入っていたリリーの写真を見て、和んでいた。その写真はリリーの両親にもわたり、可愛らしいリリーの様子に癒されていた。
「カイト様の到着まで、あと2日か。それまで、ゆっくり過ごすといい。」
(それじゃ私はカイトのところへ戻るわね。リリー、ちゃんとお母さんに甘えておきなさいね。)と言って飛び去った。
「ふぅーっ、やっと長老さんに会えたな。」
どこからともなく、心地よい風が舞い、青白く光る精霊の姿が現れる。
「おいらはリック。風の精霊だ。リリー様の眷属になったんだぜ。」
長老は目を細めながら静かに頷いた。
「ほう……聖獣の従魔となった精霊か。これはまことに、神々の采配によるものですな。これからもリリーのことを導いてくだされ。」
「ははっ、任せておけって。ちゃんと守ってやるさ。それでな、長老。リリーが戦うことについてはどう思う?これからおいらとともに成長するとかなり高位の風魔法を使うこともできるようになるんだけどな。」
「リリーが戦う力を持つことについてですか。そうですな。アテナ神の眷属様であるカイト殿は、不思議な力と魔力では無双ですが、いざ戦いとなると非力な人間族ですので、カイト様を守るための力であれば、リリーも納得するのではないでしょうか。」
「眷属様を守るためねぇ、わかった。強力な最上位魔法は封印しておこうと思うけど、どうかな?」
「なんと、リリーは風の最上位魔法を扱えるようになるのですか。」
「そうだけど、これはもう災害級の魔法なので、使いようがないものだと思うよ。ファイヤーストームは一面を焼け野原にするだろうし、サンダーストームは竜巻並みに恐ろしいからね。」
「そうですな、万が一そのような魔法が使えるとなると、皆は怖がってしまいます。平和の象徴のリリーが恐ろしい力を持つのはふさわしくありませんな。」
「それよりはもともとの聖属性魔法を伸ばして聖獣として力を見せていくっていうのはどうかな。それが一番似合っていると思うけど、攻撃には向かないけどね。」
「ドラゴンブレスが唯一の攻撃力になりますな。あとは風の初級魔法ですか。いずれにせよ使わないことが一番です。カイト殿は知恵を使って戦いを治めることを良しとしますので、力の行使をしないで済むことが一番です。」
「わかった。その時はおいらも何とかするよ。」
「どうかリリーをよろしくお願いします。」
長老は無邪気に母親と戯れるリリーの姿を見て、
「願わくば、平和な世界で健やかに暮らしてほしいものだ。」と願った。
リリーは久しぶりに母と過ごすことが出来て喜んでいた。今までの出来事や人々との触れ合いなど、夜が更けるまで話し込んでいた。特にガゼル亭に煮込み肉の人気とその味については母親ドラゴンも興味を持ったようだった。しかしその様子に一抹の不安を覚えたのは父親ドラゴンだった。
翌朝、父親とともに狩りに同行することになった。現在リリーは聖獣として人々にあがめられ、食事を提供されているが、自然ではありえないことなので、自ら食事を得ることを学習することになった。
「これから一人で行動することもあるだろうから、自分で食餌を用意するようにならないとな。お弁当を持って飛んでいるドラゴンはいないだろう?」
「そうだね、今日はお父様と一緒に飛ぶのね。」
「ああ、そこで獲物を狩ることを覚えてもらう。我らドラゴンも本来は自然とともに生きるのが当たり前なのだから。そうだな、リリーならば渡り鳥を仕留めるくらいがちょうどいいな。」
2頭のドラゴンは連れ立って湖の近くを飛んでいた。そこには水鳥が羽を休めていたが、ドラゴンの飛来に気づくと一斉に飛び立った。
「ここで風魔法のウィンドシュートを群れに向かって放つと、飛ぶ鳥の周りの気流が乱れて、動きが鈍くなるんだ。それを獲物としていただく。」
父親は群れに向かってウィンドシュートを放つと一羽の水鳥が飛行を乱され群れからはぐれた。そこをめがけて飛んで行き、水鳥を捕らえた。
「ほら、やってごらん。」
リリーは父の言葉を胸に刻み、深く息を吸った。
水面を舞う鳥の群れが、リリーの視界に映る。標的を定め、魔力を集中し、
「ウィンドシュート!」
風が疾風となって鳥の群れを揺らし、一羽が羽を乱しながら落ちる。
「……!」
リリーの心臓が、ひときわ強く脈打った。目の前で、小さな命が静かに終わる瞬間を目にしたのだ。
ただの魔法ではない。これは、生きるために命を奪う行為なのだと。
「リリー、わたしたちはね、ほかの動物たちに命をいただいて生きているのだよ。生きるために狩りをする。だからね、狩った獲物は責任を持って食べるんだ。」と父は諭した。
「私のご飯になってくれてありがとう、命をいただきます。」
そう言ってリリーは水鳥を持ち帰った。
ドラゴンの里に戻ると初めての獲物を得たことをお母さんが喜んでくれた。けれどもリリーの心は晴れなかった。
「リリー、一人で狩りができるということは、一人で行動ができるということなの。いただいた命を糧に、生きていくことに自信を持たないとね。」
「どういうこと?」
「お前のために命をささげた動物たちに恥ずかしくないように生きていくことだよ。だから食べるときにはしっかりお礼を言うんだ。『いただきます』とね。ガゼル亭の煮込み肉だって、森に棲む動物の肉をいただいているんだよ。でもね、自分で狩りをしなければそれがわからないままなんだね。お父様が言いたかったことはそういうことなんだよ。それこそが精霊様との約束なのだよ。」
捕まえた水鳥は羽をむしって丸ごといただいた。「私が今日も生きているのは、ほかの生き物の命に支えられているから……。そう思うと、感慨深い食事だった。
父親からは、
「今日は命をいただいて生きている。生きているお前は人々に聖獣としての役割を期待されているのだよ。堂々とそれにこたえていきていくんだよ。」
「うん、わかったよ。私も生きて為すべきことに責任があって、恥ずかしくないようにしないとね。」
「リリーや。お前は明日、カイト殿とともにパラギン帝国へ向かうのだろう?」
長老はゆっくりと語る。
「確かに、帝国は我らを虐げ、仲間を殺し、卵を奪った。しかし、それを命じた者と、命令に従った者は違うのだ。」
「……?」
「憎しみの連鎖では何も変わらぬ。戦うべきは、力で民を抑えつける『支配』そのものだ。カイト殿は、その道を示してくれるだろう。」
お爺様はそう言いながら、カイト様への返事を持たせた。
「そうね、憎しみからは何も生まれないのよ。」
リリーは悩んでいた。自分を母様の元から引き離した悪い人をやっつけるのではないのなら、何をやっつけに行くのだろう?
明日カイト様の元に、お爺様の返事を持っていく。そのあとカイト様は解放軍とともにパラギン帝国で戦になるだろう。
お爺様の言うことや、父様や母様の言葉を考えると寝付けなかった。
「明日カイト様に聞いてみるといいわね。」そう優しくいって母様は寝かしつけた。
翌朝、リリーはリュックを背負ってカイト様の待つ、パラギン帝国とシナール王国の国境に向かった。
「よし、行こう!ウィンドアクセル!」リリーは力強く飛び立った。
風がリリーを後押しし、速度が一気に上がる。翼をはためかせながら、リリーは大空を駆け抜けた。
「カイト様に聞きたいことがあるの!」
リリーの胸には、まだ答えの出ぬ疑問があった。
しかし、その答えはきっと、戦場の中で見つかるのだろう。
リリーの翼は雲を引き、朝焼けの空に一条の光を描いた。
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