救国のBASIC

竹笛パンダ

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おっさん、革命を支援する

作戦開始

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 僕とリネットはラダック解放軍の幹部たちとともに、国境にあるカミンの街に到着した。かつて賑わいを見せていた交易の玄関口、カミンの街。広場には異国の商人が品物を並べ、酒場には陽気な声が響いていたのであろう。
 しかし今、街は静寂に包まれ、人々は痩せ細った顔でうつむきながら歩いていた。市民の多くは働く場を失い、子供たちは飢えに耐えている。
 恐怖政治がこの街の光を奪ったのだ。
 その街の元交易所がラダック解放軍の新たな拠点となった。
「作戦の猶予はあと4日。」
 サルタンが重々しく言いながら、交易所の広いフロアに帝国全土の地図を広げた。
 その地図には、帝都を中心に張り巡らされた街道、駐屯地、そして貴族たちの邸宅の位置まで細かく記されていた。
「これは……」リネットが息をのむ。
「かつて、この町が交易の拠点だったころのものです。貴族どもはこれを利用し、帝国の支配を盤石なものにしました。」
 だが、今はこの地図が解放のための武器となる。ドラゴンの長老との約束の日までにどう攻略するか考えなければならない。
「それにしても現在は少し寂しいですね。」と僕が尋ねると、
「国の政策で、外部からの人の流れを減らし、国を富ませてようとしましたが、経済は混乱し、国民は困窮し、結局は力で他国を奪うことにしたようです。」
 不景気からのファシズム。どこかの世界でも同じようなことがあったな。
「そうして今回の大敗の後、もう誰も王族のことを信用していません。そうして恐怖政治が始まったのです。」
「なるほど、それではみなさんにはまず食糧支援が必要なのですね。それから心のよりどころです。それはアテナ神信仰で来ていますので、ちょうどいい。」
 僕は地図の上で、活用されていないところを見つけて、促成エリアと定義した。
 僕は静かに祝福の杖を掲げた。
 杖の先端が黄金色に輝き、光の粒子が舞い散る。
「この地に生命の息吹を取り戻せ。」
 プログラム起動
 10 DIM “パラギン帝国”=FIELDS(255,255)
 20 DIM “促成エリア”=AREA(214;237,219:242)
     ・・・
 70 PUT “祝福” ON “促成エリア”
 RUN

 大地が震え、枯れた土地が瞬く間に青々とした畑へと変わっていった。
 人々が息を呑む中、小麦が芽吹き、ニワトリが卵を産み落としていた。
「……神の奇跡だ。」と誰かが呟いた。
 そのエリアでは約50日間にわたって、時間を早く進め、作物の収穫ができるようにした。
 この街の人たち総出で収穫して、交易所に備蓄し、その後は布教活動先に運んでもらうようにお願いした。
「もちろんこれはみんなが飢えないための一時的なものです。永久にあるものではありません。この間に復興を果たしてくださいね。」
「まさしく神の御業であります。有難く頂戴いたします。」
「それから次の作戦ですが、私は帝都をぐるっと囲むように布教活動をしますので、各地の教会に食料を運び込んで、炊き出しを行ってください。人々は教会に集まりますね。それを見た地方領主がどう動くか判断します。」
「どうされるのですか?」
「民を守るため、この活動に協力すれば、無傷で市民運動に参加していただきます。その際には民を先導してもらいます。しかし我々を良しとしないということであれば、市民革命が終わるまでおとなしくしてもらいましょう。」
「まさか殺してしまうのか?」とリネットが心配そうに言ったので、
「見張りを付けて領主邸から出られないようにしてもらうだけですよ。もちろん食糧は与えてね。解放軍からの食料と知れば、改心するでしょうから。」
「そうだな。市民革命が終われば、王族の支配はなくなるのだからな。どちらについたほうが得かは明白だろう。」
「こうして布教活動と市民運動が並行して行われて、各領地の上空に解放軍の旗を出現させていきます。帝都の王城から見える位置にね。」
「これは帝都が取り囲まれるように見えますな。いやでも帝都決戦という雰囲気に持ち込むわけですね。」
「そして最終日の作戦は以前伝えたとおり、最後に人質の救出をすれば、王族は戦力を無くして丸裸になります。」
「まさか討伐してしまうのか?」とリネットがまたも心配そうに聞いてきた。
 僕は一息ついてから、
「それは僕たちが決めるべきではないよ、リネット。この国の人が決めることだ。サルタン殿はどのようにお考えですか?」
「彼らはこの国の民を殺しすぎた。だからと言って我々が裁くことではないが、今まで周辺の国やドラゴンの一族にまで恨まれているので、逃げるところはないと思いますよ。」
「では、西の方角に逃げてもらいましょう。我々は西の方では何もしない。むしろ退路に使ってくださいと言った感じにしましょう。」
「捕らえずに逃がしてしまうのか?」
「いいえ。」僕は静かに首を振った。
「捕らえれば、我々が裁かねばならなくなる。しかし、我々が手を下す必要はない。」
 サルタンが鋭く問い返す。「まさか……?」
「彼らには、自らの犯した罪と向き合う時間が必要だ。だから、逃がしてやろう。」
「それでどうなる?」
「行き着く先は……ドラゴンの里だ。」
 解放軍の一同は沈黙し、僕の真意を考えていた。
 そして、静かにサルタンが笑った。
「なるほど……ドラゴンの長老が、王に会いたがっていた理由が分かった。」
 リネットは不思議そうな顔をして僕を見ていた。これだけ平和を貫く姿勢を見せた僕が、王族の処遇については意外とあっさりしていたからだ。よもやドラゴンまで操ろうとは、考えも及ばなかったらしい。
「これが今日を含めた3日間の動きです。僕は皆さんに策を授けたにすぎません。この国を取り戻すのは、あなたたちです。」
「そうですな、これだけ助力をいただいたのですから、なんとしても成し遂げようではないか。」
「立ち上がれ、市民たちよ、待ち望んだ未来のために!」
 ラダック解放軍は、合言葉を口にしながら結束を強めていった。

 南西の空に、銀の閃光が走った。
「……何だ?」
 キラキラと光る小さな影が、旋風のように街の上空を舞う。
「カイト様、ただいま戻りました!」
 リリーの声が響き渡る。
 その姿はまるで 神話に語られる聖獣の如く、荘厳で、そして愛らしかった。
「リリー、お帰り。どうだった?ドラゴンの里は。」
 リリーは誇らしげに羽を広げた。
「あのね、お母さんと一緒に飛んで、ドラゴンの飛び方を習った!それからね、リックと友達になったの!」
「お初にお目にかかります。リリー様の眷属、風の精霊リックと申します。」
 風が舞い、青白く輝く精霊が姿を現す。
「カイト様、よろしくお願いします。」
「シルフィと違って話せるんだね。」
「おいらはリリー様から意思疎通と他種族言語をいただきました。こうしてカイト様ともお話ができてとてもうれしいです。」
「それじゃ、リリーをよろしくね。」
「はい、お任せください。」
「それじゃリリー、ドラゴンの長老からのお返事をもらえるかな?」
 リリーはリュックを下ろして、中から長老の手紙をカイトに渡した。
「えっと、予定通りに作戦に参加してもらえるようだね。収容所へはリリーのお父さんが来てくれるんだ。『長老は、西側の街道で待つ』か。」
「もう長老殿は王族が敗走することを読んでいるようですね。」
「そうだね、僕もそう思うよ。だんだん味方を減らしていく作戦だからね。王様一人で立ち向かってはこないでしょう。」
「リリーはこの国でラダック解放軍の旗が上がっているところに飛んで行って、市民運動をしている仲間を応援してほしいんだ。その時に攻撃はなしだよ。リリーは平和の使者なのだからね。」
「うん、わかった。治療をして助けてもいい?」
「できるだけ自分たちの力で勝ち取ってほしいから、あまり手出しをしない方がいいのだけどね、死んでしまいそうなら、手を貸してあげて。」
 リリーは帝国中を飛び回り、解放軍の士気を高めていった。
「さてと、僕たちも始めようか。」
 まずは解放軍の軍旗を空に向かって投影した。その上で教会に出向いて炊き出しを行った。僕は平和のために無暴力の市民運動を説いて回った。そういう時にこそ、この法衣は役に立つ。さらにアイドル化が発動し、リネットと二人で並び立つと、光輝く姿がアテナ神の眷属として一層畏怖の念を抱かせた。
 僕たちは一つでも多くの街を巡って教会で炊き出しを行い、そのたびに上空にラダック解放軍の軍旗を出現させた。帝都から見ると、周りを囲まれているように見せる目的と、帝都に向かって進軍していると見せることが目的だ。
 帝都にいた領主たちはいっせいに領地へ戻り、民たちを率いて市民運動に参加した。この状況になるともう市民運動に異を唱える者はいなくなっていた。
 こうして帝国全土にラダック解放軍の軍旗が掲げられ、教会では僕とリネットが平和のための市民運動を説き、サルタン率いる解放軍のメンバーは炊き出しと食料の運搬を行った。
 作戦を始めて3日間、僕たちはついに帝都にたどり着いた。ここまで一人として犠牲者は出ていない。
「カイト様、本当に無暴力で帝都まで来ましたね。」
 サルタンは本当に成し遂げられたことに驚きを隠せない。
 帝都の外壁にはいくつかの集団が帝都を取り囲んでいた。その中心ではラダック解放軍のメンバーが演説をしていた。皆口々にスローガンを唱え、結束を強めていた。
 僕はリリーを呼び寄せた。ここでもリリーは大人気だった。
「リリー、お疲れ様。しっかりと役目を果たしてくれたね。市民運動には聖獣リリー様がついているって、みんながそう思えば作戦は成功だよ。」
「そうなの、特に何もしていないけれど。」
「それがいいんだよ。応援しながら静かに見守っている。」
「ねぇリリー、あの旗に描かれているのは、間違いなくあなたなのよ。だからみんなはカイト様の話よりも、あなたに元気をもらっているんだよ。」
「そ、そうかなぁ。」と言ってリリーは僕に抱かれて顔をうずめていた。
「残るは王族たちだけですね。」とリネットが言った。
 僕には王族たちを捕らえたり、裁いたりすることはできないのだけれども、この市民運動を終結させるためにどうしてもやらなければならないことがあった。戦力の象徴である近衛騎士団長を打ち負かすこと、これを市民に見せなければならない。
「リネット、リリーよく聞いて、明日はこの運動でどうしても避けられない戦いがあるんだ。前にも話をしたように近衛騎士団長とは刃を交えることになるだろう。二人で連携して勝って欲しい、できれば『降参』させてほしいのだけれども、できるかな。」
「いや、カイト殿、最初から投降を促すのは失礼です。相手は王族を守る騎士団長なのですから、戦って武勇を示すと思います。その後は力の差を見せつければよいのです。投降を呼びかけるのはその後ですね。」
「できれば新しい国造りに参加してほしいのだけれどもね。優秀な人材は多いに越したことはないから。」
「そうですね、なるべく頑張ってみます。」
「ああ、頼んだよ。」

 僕は帝都の外壁を見上げた。その向こうには、長きにわたり市民を苦しめてきた王族と貴族たちがいる。だが、今この瞬間、帝都を囲むように ラダック解放軍の旗が揺れていた。
 市民の声が、夜空にこだました。「立ち上がれ、市民たちよ、待ち望んだ未来のために!」
 僕は静かに目を閉じ、リネットとリリーとともに市民の声を聞いていた。
「明日は、決して負けられない戦いになる!」
「しかし、戦いの果てに待っているのは、破壊ではない。新しい世の創造である!」
「さあ、未来を掴みに行こう!」
 市民たちの歓声が轟いていた。

 いよいよ、あすは帝都で決戦となる。ドラゴンの長老との約束の日にちょうど間に合った。あとはサルタンたちがどう決着をつけるか。僕たちは静かに見守ることにした。
  
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