救国のBASIC

竹笛パンダ

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おっさん、革命を支援する

帝都決戦

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 夜が明けた。帝都に集結して市民たちは、外壁の門から一斉になだれ込み、スローガンを高々と叫びながら、王城へと迫っていった。王城からは平民の兵士団が出撃するが、事前の打ち合わせの通り、市民たちは帝都の各地でバラバラに解放運動と称してデモを行い、兵士団を引き入れた。平民の彼らは市民とともにデモに参加することになった。
 午前10時30分、上空に一体のドラゴンが飛来し、風のドラゴンブレスを放った。これにより王城の障壁が崩れ、人質が収容されている建物の壁が破壊された。リリーが上空に向かって、
「お父様!」と声をかけると、王城の上空を旋回し、そのまま西へ飛び立った。
「人質を救助するぞ、続け!」
 市民たちは家族の救助に向かい、兵士たちはその護衛をした。兵士の家族たちは再会を喜ぶとともに、市民によって保護され、教会で炊き出しを行うカイトたちの元へ案内された。
「これで安心して王城へ攻め込める。」とサルタンたちが息巻いていた。
 この状況を見た近衛騎士団が王城より出撃し、王城前の広場に集結した市民たちに、強行にデモの解散を訴えながら威嚇を始めた。平民の兵士たちは、市民運動の先頭に立ち、堂々と市民を守る行動とったため、近衛騎士団と市民たちの間に一定の距離が置かれ、双方にらみ合いが続いていた。
 その均衡を破るかのように、近衛騎士団長、ゼバス・ローゼン卿が市民の前に進み出た。
 そこでリネットとリリーが応対するように前に出た。
「これはリネット姫ではありませんか。まさか隣国の姫君が愚民どもに加勢していたとは驚きです。これは帝国の問題ですので、どうか引き下がっていただきたい。これより先は王の居城にて、王を守ることが我が使命であります。これより先に通すわけにはいきません。」
「いいやローゼン卿、この市民運動の代表サルタン氏は、我が国のアテナ神の神殿に救援を求められたのだ。そこでアテナ神眷属のカイト様とともに、この状況を治めに来た。貴殿こそ今すぐ市民への攻撃をやめ、カイト様に慈悲を乞うのだ。」
「あくまで信仰上の理由とおっしゃるのですな。」
「ああ、そうだ。人道主義により、貴殿たちの行いを厳しく糾弾するものであり、場合によっては武力行使も辞さない構えである。」
「帝国市民は我ら貴族の庇護のもとに暮らしているのです。市民は王族や貴族の施しによって生きているのです。おとなしく主である国王に従っていれば、安寧な生活もできるのですよ。」
「神は人を選んだりしない、まして貴族や王族がその生を受けることは特別ではない、同じ人である。であるならば、その力は万民のためにふるうべし。貴族とは何か、騎士とは何か、王族とは何か。万民のために尽くしてこそ、民の支持を受けるのである。民なくして国はありえない。」
「神は人を選び、高貴なる我らに使命をお与えになられた。民を導けと。」
「生まれながらにして人は平等である。神は人を差別しない。」
「愚民たちを導くことこそが、我ら貴族の使命である!」
 近衛騎士団長のこの言葉に一同は沈黙し、怒りをあらわにした。
「もはやこれ以上を語るは言うに及ばず。セバス・ローゼン、圧して参る!」
 セバスは単騎でリネットに襲い掛かった。リネットも巧みな槍さばきで初撃を躱すと、馬の鼻先に槍を振りかざし、馬の足を止めた。馬が嘶き、セバスは馬を降りることを余儀なくされた。
 セバスは初老ではあるが数々の戦歴を飾った名将であるとともに、優秀な武人でもある、いくら長年修練を積んだリネットでもその剣には容易にかなうものではなかった。
「人道主義とはよく言ったものだ。力無き理想はただの妄言に等しい。」
「理想無き力は、暴走し、破滅を招く。」
 市民たちがリネットを応援しだした。その声には熱気がこもり、リネットを後押しした。その声に紛れてリリーは、
「お姉ちゃん、頑張れ!」と言いながら体に魔力を帯びていた。
「ウィンドアクセル!」と唱えると、リネットの身体に風が纏い、リネットは素早く動けるようになった。
 力こそはないが、セバスの攻撃を槍先でかわし、スピードを生かして振り向きざまに袈裟懸けを放った。
 セバスはよろめくが、すぐに体勢を立て直してリネットと向き合う。
「ほう、風の補助魔法か。だがこの攻撃は見切れまい。」
「雷光一閃!」とスピードのある剣技を繰り出した。
「月下の槍突」とリネットも突き技を繰り出した。
「……かはっ。」リネットの槍先がセバスの鎧を突き抜け、セバスの剣はリネットの顔をかすめて肩にけがを負わせた。リネットの頬にも一筋の流血がみられた。
 セバスは膝をつき、リネットは槍を抜いた。
 次の瞬間、近衛騎士たちが、
「王を守れ、王の意に従え!」と言い、リネットを攻撃しようとしたが、セバスが腕を上げて制した。
「我が騎士団よ、投降せよ。故郷に戻り復興に勤めよ。もはや我らの時代は終わりを告げた。見よ、市民たちの歓喜を。これが答えである。」
 近衛騎士団はそのほとんどが地方貴族の子息であった。そのためセバスのこの言葉に従い剣を収めた者も多かった。しかし一部は王族の親戚にあたるため、王の護衛のために王城の中へ向かった。

「おいおい、勝手に負け戦にすることは許さんぞ。」と言いながら魔法の詠唱を始めたものがいた。
「メガフレア!」と唱え、火球はセバスとリネットに向かって放たれた。
 ドーンとすさまじい音とともに激しく炎の柱が立った。
 もはやこれまでとセバスは腹をくくったが、そこに立ちはだかったのは、かつての戦役で指揮官を務めたタングだった。
 全身を焼き尽くされても、身を挺してセバスとリネットを守ったのだ。
「名将セバスはこんなことで死んではならない。その剣は民のため、国のためにふるわれる……我は敗戦の将、これで誇りを持って逝ける。」
「タング……わが友よ!」とセバスは肩を抱き上げた。
「リネット様、カイト様とともに、民を、この国を頼みましたぞ。」
 そう言い残し、タングは息絶えた。
「エリアハイヒール!」と僕は急いで回復魔法をかけたが、タングの命は尽きた。タングの亡骸はサルタンたちによって教会へ運ばれた。
 セバスとリネットの傷は回復し、リネットはセバスに肩を貸した。
 セバスは立ち上がると、
「なりません、アウグスト殿下。アテナ神に剣を向けてはなりません。世界を敵に回すおつもりですか。」と、王族の天才魔術師アウグストに向かって言った。彼は、
「何を言う、我らこそが世界、我らこそが秩序なのだ。貴様、愚民どもの肩を持つか」と言い放った。
「民の信仰を穢してはなりません。アテナ神信仰こそ、彼等の心の支えであります。」
「愚民どもにとって、神とは我々王族である。家畜に神はいない!」
「……!」
「失せよ、愚民ども……メガフレア!」
「間に合え!」

 プログラム起動!
 10 DIM “王城&広場”=FIELDS(63,63)
 20 DIM “結界”=AREA(16;32,48:63)
 30 DIM “防御”=HP±0、MP-300
 40 PUT “防御” ON “結界”
 50 OUTPUT
 RUN

 僕は民衆を取り囲むように防御結界を張った。
 アウグストの放った魔法は防御結界に阻まれたが、同時に結界も消滅した。
「いいね、ようやくお出ましかい?アテナ神眷属のカイト様。」
「ああ、命が無駄に削られていくことは許さない。」
 僕は怒りに震えていた。こんな気持ちになったのは久しぶりだった。
「ははは、力ある者はその技術を使ってこそだ。愚民どもへの仕置きには丁度いいではないか。」
「なんてやつだ。俺たちのことを何だと思っているんだ。」
 市民たちの怒りが頂点に達した。
「カイト様、やっつけていい?」
「いいやリリー、僕たちが皇子を攻撃してしまったら、侵略戦争になってしまうんだ。ここは市民たちに委ねなければならないのだよ。」
 リネットも怒りで震えていた。しかしカイトがそう言うならば、従うしかなかった。
「プロテクションウォール!」
 アウグストが王城全体を包みこむ魔法をかけた。
「これで誰もこの王城には手出しができない。」
 セバスの剣も、リネットの槍も受け付けない強固な壁ができた。リリーのウィンドシュートも通さない。ブレスももちろん駄目だった。
「俺はこっちから魔法を放てるんだよ。お前たちは俺を攻撃できない。だからこれで終わりなんだよ。」
 そう言って再びメガフレアを放った。込められた魔力が大きいので、それに見合う魔力をこちらも用意しなければならない。

 プログラム起動! RUN「防御結界」
 僕は再び結界を張るが、いつまでもそれだけしかできない。
「我が意に添わぬ民などいらぬ。」と言うと、
「灰燼と化せ、我が王の願いを聞き入れ、天の理を操り、遠きジュピターより参れ……。」
「これって隕石の魔法!土属性の極大魔法の『メテオ』よ。この皇子様は街ごと壊滅させるつもりだわ。」
 なんてやつだ。術者の詠唱が終わるまでに彼を何とかしなければならないが、強固な防壁で守られている。
 リネットはセバスとともに、とにかく攻撃をしてみる。リリーもブレスを放つが小さい体ではびくともしなかった。
 防壁を消す方法?ファイヤーウォール?ハッキング!
「そうだよ、魔法上書きしてをキャンセルさせればいいんだよ!」

 プログラム起動!
 CLS……何も起こらない。
 CLS 2
 ああ、コマンドだけではだめだ。もうプログラムを組む余裕はない。
「リネット、詠唱の邪魔をして時間を稼いで!」
「わかったわ、やってみる。」と言ってリネットは、
「お前なんかの魔法に負けるかよ!カイト様はすごいんだから!」
 アウグストを挑発し始めた。
「だからどうした、お前たちは間もなくチリになるんだ。」
「あんたは無事なわけ?その防壁が崩れたら、あんたも死んじゃうんだよ。」
 いい調子だ。やはり皇子はまだ子供。簡単に挑発に乗ってくれた。
 自分は絶対に無事だという確信から油断が生まれたのだ。
「うるさいな、お前らなんか一緒にチリになってしまえ。」
 アウグスト殿下は再びメテオの詠唱を始めた。

 プログラム起動!
 10 FOR X=0 TO 63
 20 FOR Y=0 TO 63
 30 LOCATE(X,Y)
 40 PRINT“”
 50 NEXT Y:NEXT X
 RUN

「カイト様急いで、もうすぐ詠唱が終わる!」
 僕はこのフィールド全体に“”:NULL を書き込んだ。これでこのフィールドに展開された魔法がキャンセルされるはずだ。
 アウグストは「メテオ」の詠唱を続けていた。
「間に合え!」
 プログラムによりプロテクションウォールの魔法の効果が消えた!
 次の瞬間、セバスが殿下に詰めよった。リネットもアウグストに詰めよるが、セバスに制された。
 「御免」と言ってセバスはアウグスト殿下の脇腹に剣の柄で一撃入れ、気絶させた。
 間一髪、「メテオ」の発現はキャンセルされた。
「捕らえよ」
 セバスがそう命じると、近衛兵が皇子を拘束した。
「教会の懺悔室にでも入れておけ。民を危険にさらした愚かな行いを反省していただこう。」
 皇子の身柄はサルタンに引き渡された。
 その時、アウグストはかすれた声で言った。
「貴様らが…この国を導けるわけがない…。」
 誰もその言葉には答えなかった。ただ、静かに時代の終焉を見届けていた。
「残るは皇族だけですな。帝国の剣と盾を失っては、もはや成す術もあるまい。」
「『帝国の剣』がその役目を終えたのなら、もはやこの国は次の時代へ進むべきですね。」
 リネットがそう答えた。その顔には、静かな微笑みが見られた。
  
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