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おっさん、革命を支援する
帝国の終焉
しおりを挟む僕たちはセバス騎士団長とともに王城内に入った。謁見の間までは手向かうものもなく、戦闘が行われることはなかった。
謁見の間では、王と王妃、公爵家の者たちなど、王家の血筋を引く者たちが集まっていた。
僕たちが謁見の間の扉を開け、中に入るとセバスが、
「王よ、シナール王国より参られた、アテナ神眷属のカイト様と、神殿騎士のリネット様、聖獣リリー様でございます。わたくしがここに彼らをお連れした意味は、お判りでございますね。」
「ああ、わかっておる。アウグストは敗れたのだな。我らは『帝国の盾』を失ったのだ。しかしまだ、『帝国の剣』は折れてはいないようだな。」
セバスは黙って首を横に振った。
「なんと、そうであったか……。」と王は黙り込んでしまった。
「王よ、皆に投降するように指示してください。これ以上の争いは無意味にございます。」
「無意味だと?この力が支配する世界で、我が力を行使することが『無意味』だと?」
王は自ら剣を手に取ろうとしたところ、第一皇子のアルフレッドがそれを制し、剣を構えながら一歩前に出た。
「アウグストは生きているのだな、では我がここで果てても皇族の血統は守られる。父上、母上、どうか脱出してください。しんがりは我がお勤めいたします。」
アルフレッドの周りに近衛騎士の残党が集まり、僕たちに切りかかってきた。
セバスは彼らの初劇を躱すと、アルフレッドと切り結んでいた。近衛騎士たちはリネットが薙ぎ払い、リリーが炎のブレスで威嚇すると、すでに戦意を失っていた。
「なりませぬ、アルフレッド殿下。アテナ神に剣を向けることがあってはならないのです。」
「ではどうしろと。力を失ったものは甘んじて支配をうけるべきと、そう言うのか。」
「ここはアテナ神眷属のカイト様に縋り、和平への模索をいたしましょう。」
「許せ、セバス……我が師よ。我も皇族として、王と王妃を守らねばならない。皇族である以上、屈することはできぬのだ。」
アルフレッドは、皇族たちが謁見の間から退出したことを確認すると、
「不肖アルフレッド、師の恩に報いることが出来ず、申し訳ございません。どうか最期の愚行を見守っていてください。これにてご免。」
「殿下!!」
「リネット殿、民をよろしくお願いしますぞ!」
そう言ってアルフレッドは皇族たちの後を追った。
「馬鹿者が、命を粗末にするものではない。」そう言ったセバスも、もはや見送ることしかできなかった。
帝都から西に延びる街道には、そこはカイトの策により、あえて戦力を配置していなかった。皇族を乗せた馬車が帝都の外壁を出て、霧の中を平原まで逃げ延びていた。
急に馬が嘶き、馬車はそこで止まるしかなかった。
街道に一人の老人が立っていた。白い東洋に着物を纏い、小柄な老人だったが、静かにたたずむ姿に、一切の隙が無かった。
頭には角が生え、立派なひげを蓄えていた。
一見して只者ではないとわかるが、皇族を逃亡させるためには対峙せざるを得なかった。
「パラギン帝国の王とその一族とお見受けするが、いかがか。」
「いかにも我は第一皇子、アルフレッドである。」
騎乗して先導していたアルフレッドだが、馬がおびえて止まってしまったため、馬から降りて老人と対峙した。
「我が要件はただ一つ。帝王の身柄を渡せ、さすれば危害は加えぬ。」
「もし断れば?」
老人は杖で地面に打ち鳴らすと、周囲に風が起こり、霧が晴れていった。
曇天のもと、そこには2体のドラゴンが姿を現し、にらみを利かせていた。
「西の森のドラゴンの長であったか。しかし我も父をおいそれと渡すわけにはいかぬ。」
「なに、我が直接手を下さぬとも、カイト殿が裁くであろう。しかし断るとなれば、そうもいくまい。」
「では、長殿は我が父に如何なる要件がお在りか?」
「知れたこと、先日の我が一族に行った件について、真偽を確かめ、投降を促すのだよ。」
アルフレッドは悟った。ここで断れば我ら皇族はドラゴンの襲撃を受けてここで全滅するだろう。ドラゴンの襲撃は『天災』であるから、どうすることもできないのだ。いきなり襲われても文句は言えないことだった。それどころか帝都そのものが襲撃を受けてもおかしくはなかった。
「カイト殿は争い事を良しとしない。我らはカイト殿の意向に沿って、まずは勧告を行うまでだ。」
「感謝する、長殿。」
「いい判断だ。のう、アルフレッド。時代の流れの潮目には、あのような御仁が現れるのだよ。『この地を治める者は力にあらず。しかし力に抗うほどの知恵と勇気のある者』という『運命の花嫁』の話は知っているのだろう?あの二人がここに現れた。我が一族から聖獣が誕生したとあれば、これから何が起こるかは想像に難くないであろう。」
「ええ、確かにその通りです。」
「我は見てみたいのだ。争わずに力を示したあの御仁の為すことを。」
ドラゴンの長にここまで言わしめる人物。そしてドラゴンの大魔法一つで帝都は滅んでいたが、それをさせなかった人物。カイトの正体を恐ろしく思えてならなかった。
「ここは我に従え、賢王ならばよし、愚王ならば切り捨てよ。世の変革には犠牲を伴うものと知れ。」
アルフレッドは、ドラゴンの長老の言うとおり、父王に投降を進言した。
「小癪なドラゴンが!我が従わせようぞ。」
その様子を見た王妃は、
「アルフレッド、私は王とともに長老の元に参ります。そして許しを乞うてみます。王の態度がこのまま変わらなければ、二度と会えぬものと覚悟をなさい。」
「母上!」とアルフレッドは叫んだ。
「私たちは馬車を降ります。どうかアウグストとアリスを頼みます。」
そう言って二人は馬車を降り、老人の前に進み出た。
アリスが場所を降りて王妃の後を追おうとしたが、アルフレッドが抱きしめた。
「いや、いやよ母様、私も行く。おいていかないで。」
「行きなさいアルフレッド、どうか無事で。幸せに生き延びることを考えなさい。長老殿の言うとおり、カイト様に縋りなさい。決して悪いようにはしないはずです。さぁ!」
アルフレッドはアリスとともに馬車に乗り込むと、
「反転!我らは帝都に向かう。」
そう指示を出し、出発した。
「おのれ、ドラゴンごときが我に刃向かうか!我が一族がドラゴンを従えて来たのだ。この剣でな。」
そう言って、名剣「ドラゴンスレイヤー」を抜いた。
王は剣を振り上げ、唸るように突きかかった。しかし、長老は微動だにせず、まるで風が流れるように身をかわした。次の瞬間、杖の一撃が王の顎を捉え、さらに振り向きざまに向きざまに杖で一撃を入れた。
「愚かな。」
帝王はその場に倒れ、動かなくなった。
王妃はしばらく動けずにいたが、王に縋って、泣いていた。
「こうして戦を終わらせるという選択しか、この人にはなかったのね。」
曇天より雨がしとしとと降ってきた。
「長老様、感謝いたします。これでこの人も誇りある武人として逝きました。」
王妃は小声でそう長老に伝えた。
「して汝はいかがする。」
「王の亡骸を運び、この戦を終わらせます。」
「それが良かろう。」
帝都では、サルタンたちが戦いの終結を高らかに宣言した。
「戦は終わった。我々ラダック解放軍の勝利である。」
市民たちは圧政からの解放を喜び、互いに勝利をたたえ合っていた。
帝都は久しぶりに活気があふれた。人々は街に繰り出し、戦の終結と、何よりも自分たちの力で運命を切り開いとことに、大きな喜びを感じていた。
今日ばかりは僕もリネットも、そしてリリーまでもが祝杯を挙げた。
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