あやかし喫茶店エコー:時巡る風流一座と街の秘密

チャイ

文字の大きさ
45 / 48
後編 影追い、戦う者たち編

44話 風流を護りし者たち

しおりを挟む
着流しの肩肌を脱いだ狛犬の体に刻まれた凹凸のある紋様。
それが、鈍いながらも確かな光を放ち始めた。

その光は瞬く間に狛犬の全身を覆い、彼の肉体を、一段と引き締まった、神々しい姿へと変貌させる。
尻尾はより長くしなやかに伸び、耳は鋭敏さを増し、僅かな風の動きさえも捉える。

「古文書にあった、力の解放だ……!」

月彦が驚きの声を上げる間もなく、狛犬は動いた。これまでとは比較にならない速度とパワーで、目の前の護衛集団に突っ込んでいく。

「そいやぁっっ!」
護衛たちが反応する間もなく、彼はその懐に飛び込み、紋様が輝く拳を放った。
一撃で護衛が数メートル先まで吹き飛ばされる。次の瞬間、尻尾がむちのようにしなやかに振るわれ、横から迫った二人の護衛を同時にぎ払った。

月彦のヘッドセットから、虎二の焦燥した声が響く。「狛犬、その動きは危険です!敵の連携がさらに強化された!」

「助かるでやんす!」
狛犬は素早く耳を動かし、背後から迫る気配を察知。振り返ることなく、背後から振り下ろされた刃を、肩に浮かんだ文様が放つ霊気で弾き返した。

「こうでやんすか!」
狛犬の体から滲み出る、白く薄いオーラに、護衛たちは本能的な畏怖いふを覚えたのか、一瞬、足が止まる。その隙を見逃さず、月彦は自身の霊力を操り、狛犬の行く手に微かな霊力の道を作る。

「狛犬、3時の方向!護衛の連携に僅かなズレ。そこを突いて、鳴動器めいどうきの基部に回れ!」月彦のヘッドセットから、虎二の鋭い声が響いた。
鳴動器めいどうきの防御シールドが、一瞬だけ弱まっています!狛犬、右から敵をかわして基部に回り込め!」

 「了解でやんす!」 狛犬は迷いなく地面を蹴り、虎二の指示通り、敵の隙間を一気に駆け抜けた。

狛犬は迷いなく、光をった足で地面を蹴る。まるで空気を切り裂くような速度で、彼は護衛の僅かな隙を縫い、鳴動器めいどうきの巨大な姿に肉薄していった。

鳴動器めいどうきの巨大な本体が、目前に迫る。その表面に刻まれた禍々まがまがしい文様が、嫌悪感を抱かせる。

「虎二、最終ターゲットはどこだ!?」月彦が叫ぶ。

月彦のヘッドセットから、虎二の興奮した声が響く。「月彦様、解析完了!鳴動器めいどうきの最も脆弱なポイントは、メインコア直下の『共鳴増幅器』です!そこを狙えば、内部から崩壊させられます!」

狛犬は、鳴動器めいどうきの側面を駆け上がり、月彦が示された一点に狙いを定めた。彼の体に浮かんだ紋様が、眩いほどの輝きを放ち始める。月彦は狛犬の背後に回り込み、掌をその背にかざす。
月彦の純粋な霊力が、狛犬の覚醒した「対の力」と共鳴し、狛犬の口元に眩い光が集束していく。

「風流を……護るでやんす!」

狛犬が、神社全体が揺れるほどの「咆哮」を放った。それは単なる音波ではない。狛犬の魂と「対の力」が凝縮された、物理的な衝撃波だ。

咆哮は鳴動器の「共鳴増幅器」に直撃し、巨大な本体に亀裂が走る。同時に、狛犬の尻尾が巨大なつちのように振り下ろされ、咆哮ほうこうでひび割れた鳴動器めいどうきに決定的な一撃を加える。

ズドォォン!!

轟音ごうおんと共に、鳴動器から激しい火花が散り、妖しげな紋様が崩れ落ちていく。町中に響き渡っていた禍音が、断末魔の叫びのように歪みながら、ついに途絶えた。
鳴動器の残骸の中には、からくり時計のコア部品が、禍々しいエネルギーを失い、ただの歪んだ塊と化していた。

団長とチンドン屋のメンバーたちは、呪縛から解放され、糸の切れた人形のように次々と倒れていく。町に満ちていた異様な熱狂は消え去り、静寂が訪れた。

その光景を目にした悪徳政治家は、一瞬、顔色を失った。
「な、なんだと!?この私が……この計画が……!」
彼は焦燥にかられ、周囲の黒服護衛に逃走を指示する。

マスターが硬い声で言い放つ。「みんな手分けして探そう!」

悪徳政治家は、井戸のそばの秘密の隠し通路を使用し逃げ切ったことが発覚。
「奴があの場所をなぜ?まさか、神社に内通者が?」
ノリさんがわなないた。

「まさか……そんな」
月彦がはっとした顔で口を押えた。
あれは、本当に些細な違和感だった。いつもの何気ない会話だったはずが、話が終わった後、指先に刺さった見えない棘のように、ずっと疼いていた感覚。探しても見つからないほどの小さな棘が、今、確かな痛みとなって蘇る。

「何か心当たりが?」

月彦は、苦渋の表情で顔を上げた。
「はっきりしたことは今は言えません。もし我らに不忠の徒がいたとすれば、誠に申し訳ない。必ずや真実を暴いてみせます。」

そうだ曾祖父は、こんな言葉をあの日記に残していた。
『古くから人は、あやかしや魔を恐れてきた。だが、本当に恐ろしいのは、その心に魔を宿した人間の方だ』

あの人の生きた時代、あれは本当に、厄介な時代だったのだろう。
そして、今……。
月彦は、形のよい唇をわずかにゆがめ、皮肉げに息を吐いた。
あの人の苦労が、今なら痛いほど理解できる気がした。

悪徳政治家は禍音の鳴動器まがねのめいどうきを失い、かなりの手下を失った今、これまでのようには力を発揮できないはずだ。
しかし、その目ざとい逃走劇は、彼らがこの町に深く根を張っていることを物語っていた。
新しいその朝は、おだやかで晴れやかな秋の朝日に包まれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...