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後編 影追い、戦う者たち編
44話 風流を護りし者たち
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着流しの肩肌を脱いだ狛犬の体に刻まれた凹凸のある紋様。
それが、鈍いながらも確かな光を放ち始めた。
その光は瞬く間に狛犬の全身を覆い、彼の肉体を、一段と引き締まった、神々しい姿へと変貌させる。
尻尾はより長くしなやかに伸び、耳は鋭敏さを増し、僅かな風の動きさえも捉える。
「古文書にあった、力の解放だ……!」
月彦が驚きの声を上げる間もなく、狛犬は動いた。これまでとは比較にならない速度とパワーで、目の前の護衛集団に突っ込んでいく。
「そいやぁっっ!」
護衛たちが反応する間もなく、彼はその懐に飛び込み、紋様が輝く拳を放った。
一撃で護衛が数メートル先まで吹き飛ばされる。次の瞬間、尻尾が鞭のようにしなやかに振るわれ、横から迫った二人の護衛を同時に薙ぎ払った。
月彦のヘッドセットから、虎二の焦燥した声が響く。「狛犬、その動きは危険です!敵の連携がさらに強化された!」
「助かるでやんす!」
狛犬は素早く耳を動かし、背後から迫る気配を察知。振り返ることなく、背後から振り下ろされた刃を、肩に浮かんだ文様が放つ霊気で弾き返した。
「こうでやんすか!」
狛犬の体から滲み出る、白く薄いオーラに、護衛たちは本能的な畏怖を覚えたのか、一瞬、足が止まる。その隙を見逃さず、月彦は自身の霊力を操り、狛犬の行く手に微かな霊力の道を作る。
「狛犬、3時の方向!護衛の連携に僅かなズレ。そこを突いて、鳴動器の基部に回れ!」月彦のヘッドセットから、虎二の鋭い声が響いた。
「鳴動器の防御シールドが、一瞬だけ弱まっています!狛犬、右から敵をかわして基部に回り込め!」
「了解でやんす!」 狛犬は迷いなく地面を蹴り、虎二の指示通り、敵の隙間を一気に駆け抜けた。
狛犬は迷いなく、光を纏った足で地面を蹴る。まるで空気を切り裂くような速度で、彼は護衛の僅かな隙を縫い、鳴動器の巨大な姿に肉薄していった。
鳴動器の巨大な本体が、目前に迫る。その表面に刻まれた禍々しい文様が、嫌悪感を抱かせる。
「虎二、最終ターゲットはどこだ!?」月彦が叫ぶ。
月彦のヘッドセットから、虎二の興奮した声が響く。「月彦様、解析完了!鳴動器の最も脆弱なポイントは、メインコア直下の『共鳴増幅器』です!そこを狙えば、内部から崩壊させられます!」
狛犬は、鳴動器の側面を駆け上がり、月彦が示された一点に狙いを定めた。彼の体に浮かんだ紋様が、眩いほどの輝きを放ち始める。月彦は狛犬の背後に回り込み、掌をその背にかざす。
月彦の純粋な霊力が、狛犬の覚醒した「対の力」と共鳴し、狛犬の口元に眩い光が集束していく。
「風流を……護るでやんす!」
狛犬が、神社全体が揺れるほどの「咆哮」を放った。それは単なる音波ではない。狛犬の魂と「対の力」が凝縮された、物理的な衝撃波だ。
咆哮は鳴動器の「共鳴増幅器」に直撃し、巨大な本体に亀裂が走る。同時に、狛犬の尻尾が巨大な槌のように振り下ろされ、咆哮でひび割れた鳴動器に決定的な一撃を加える。
ズドォォン!!
轟音と共に、鳴動器から激しい火花が散り、妖しげな紋様が崩れ落ちていく。町中に響き渡っていた禍音が、断末魔の叫びのように歪みながら、ついに途絶えた。
鳴動器の残骸の中には、からくり時計のコア部品が、禍々しいエネルギーを失い、ただの歪んだ塊と化していた。
団長とチンドン屋のメンバーたちは、呪縛から解放され、糸の切れた人形のように次々と倒れていく。町に満ちていた異様な熱狂は消え去り、静寂が訪れた。
その光景を目にした悪徳政治家は、一瞬、顔色を失った。
「な、なんだと!?この私が……この計画が……!」
彼は焦燥にかられ、周囲の黒服護衛に逃走を指示する。
マスターが硬い声で言い放つ。「みんな手分けして探そう!」
悪徳政治家は、井戸のそばの秘密の隠し通路を使用し逃げ切ったことが発覚。
「奴があの場所をなぜ?まさか、神社に内通者が?」
ノリさんがわなないた。
「まさか……そんな」
月彦がはっとした顔で口を押えた。
あれは、本当に些細な違和感だった。いつもの何気ない会話だったはずが、話が終わった後、指先に刺さった見えない棘のように、ずっと疼いていた感覚。探しても見つからないほどの小さな棘が、今、確かな痛みとなって蘇る。
「何か心当たりが?」
月彦は、苦渋の表情で顔を上げた。
「はっきりしたことは今は言えません。もし我らに不忠の徒がいたとすれば、誠に申し訳ない。必ずや真実を暴いてみせます。」
そうだ曾祖父は、こんな言葉をあの日記に残していた。
『古くから人は、あやかしや魔を恐れてきた。だが、本当に恐ろしいのは、その心に魔を宿した人間の方だ』
あの人の生きた時代、あれは本当に、厄介な時代だったのだろう。
そして、今……。
月彦は、形のよい唇をわずかにゆがめ、皮肉げに息を吐いた。
あの人の苦労が、今なら痛いほど理解できる気がした。
悪徳政治家は禍音の鳴動器を失い、かなりの手下を失った今、これまでのようには力を発揮できないはずだ。
しかし、その目ざとい逃走劇は、彼らがこの町に深く根を張っていることを物語っていた。
新しいその朝は、おだやかで晴れやかな秋の朝日に包まれていた。
それが、鈍いながらも確かな光を放ち始めた。
その光は瞬く間に狛犬の全身を覆い、彼の肉体を、一段と引き締まった、神々しい姿へと変貌させる。
尻尾はより長くしなやかに伸び、耳は鋭敏さを増し、僅かな風の動きさえも捉える。
「古文書にあった、力の解放だ……!」
月彦が驚きの声を上げる間もなく、狛犬は動いた。これまでとは比較にならない速度とパワーで、目の前の護衛集団に突っ込んでいく。
「そいやぁっっ!」
護衛たちが反応する間もなく、彼はその懐に飛び込み、紋様が輝く拳を放った。
一撃で護衛が数メートル先まで吹き飛ばされる。次の瞬間、尻尾が鞭のようにしなやかに振るわれ、横から迫った二人の護衛を同時に薙ぎ払った。
月彦のヘッドセットから、虎二の焦燥した声が響く。「狛犬、その動きは危険です!敵の連携がさらに強化された!」
「助かるでやんす!」
狛犬は素早く耳を動かし、背後から迫る気配を察知。振り返ることなく、背後から振り下ろされた刃を、肩に浮かんだ文様が放つ霊気で弾き返した。
「こうでやんすか!」
狛犬の体から滲み出る、白く薄いオーラに、護衛たちは本能的な畏怖を覚えたのか、一瞬、足が止まる。その隙を見逃さず、月彦は自身の霊力を操り、狛犬の行く手に微かな霊力の道を作る。
「狛犬、3時の方向!護衛の連携に僅かなズレ。そこを突いて、鳴動器の基部に回れ!」月彦のヘッドセットから、虎二の鋭い声が響いた。
「鳴動器の防御シールドが、一瞬だけ弱まっています!狛犬、右から敵をかわして基部に回り込め!」
「了解でやんす!」 狛犬は迷いなく地面を蹴り、虎二の指示通り、敵の隙間を一気に駆け抜けた。
狛犬は迷いなく、光を纏った足で地面を蹴る。まるで空気を切り裂くような速度で、彼は護衛の僅かな隙を縫い、鳴動器の巨大な姿に肉薄していった。
鳴動器の巨大な本体が、目前に迫る。その表面に刻まれた禍々しい文様が、嫌悪感を抱かせる。
「虎二、最終ターゲットはどこだ!?」月彦が叫ぶ。
月彦のヘッドセットから、虎二の興奮した声が響く。「月彦様、解析完了!鳴動器の最も脆弱なポイントは、メインコア直下の『共鳴増幅器』です!そこを狙えば、内部から崩壊させられます!」
狛犬は、鳴動器の側面を駆け上がり、月彦が示された一点に狙いを定めた。彼の体に浮かんだ紋様が、眩いほどの輝きを放ち始める。月彦は狛犬の背後に回り込み、掌をその背にかざす。
月彦の純粋な霊力が、狛犬の覚醒した「対の力」と共鳴し、狛犬の口元に眩い光が集束していく。
「風流を……護るでやんす!」
狛犬が、神社全体が揺れるほどの「咆哮」を放った。それは単なる音波ではない。狛犬の魂と「対の力」が凝縮された、物理的な衝撃波だ。
咆哮は鳴動器の「共鳴増幅器」に直撃し、巨大な本体に亀裂が走る。同時に、狛犬の尻尾が巨大な槌のように振り下ろされ、咆哮でひび割れた鳴動器に決定的な一撃を加える。
ズドォォン!!
轟音と共に、鳴動器から激しい火花が散り、妖しげな紋様が崩れ落ちていく。町中に響き渡っていた禍音が、断末魔の叫びのように歪みながら、ついに途絶えた。
鳴動器の残骸の中には、からくり時計のコア部品が、禍々しいエネルギーを失い、ただの歪んだ塊と化していた。
団長とチンドン屋のメンバーたちは、呪縛から解放され、糸の切れた人形のように次々と倒れていく。町に満ちていた異様な熱狂は消え去り、静寂が訪れた。
その光景を目にした悪徳政治家は、一瞬、顔色を失った。
「な、なんだと!?この私が……この計画が……!」
彼は焦燥にかられ、周囲の黒服護衛に逃走を指示する。
マスターが硬い声で言い放つ。「みんな手分けして探そう!」
悪徳政治家は、井戸のそばの秘密の隠し通路を使用し逃げ切ったことが発覚。
「奴があの場所をなぜ?まさか、神社に内通者が?」
ノリさんがわなないた。
「まさか……そんな」
月彦がはっとした顔で口を押えた。
あれは、本当に些細な違和感だった。いつもの何気ない会話だったはずが、話が終わった後、指先に刺さった見えない棘のように、ずっと疼いていた感覚。探しても見つからないほどの小さな棘が、今、確かな痛みとなって蘇る。
「何か心当たりが?」
月彦は、苦渋の表情で顔を上げた。
「はっきりしたことは今は言えません。もし我らに不忠の徒がいたとすれば、誠に申し訳ない。必ずや真実を暴いてみせます。」
そうだ曾祖父は、こんな言葉をあの日記に残していた。
『古くから人は、あやかしや魔を恐れてきた。だが、本当に恐ろしいのは、その心に魔を宿した人間の方だ』
あの人の生きた時代、あれは本当に、厄介な時代だったのだろう。
そして、今……。
月彦は、形のよい唇をわずかにゆがめ、皮肉げに息を吐いた。
あの人の苦労が、今なら痛いほど理解できる気がした。
悪徳政治家は禍音の鳴動器を失い、かなりの手下を失った今、これまでのようには力を発揮できないはずだ。
しかし、その目ざとい逃走劇は、彼らがこの町に深く根を張っていることを物語っていた。
新しいその朝は、おだやかで晴れやかな秋の朝日に包まれていた。
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