あやかし喫茶店エコー:時巡る風流一座と街の秘密

チャイ

文字の大きさ
47 / 48
後編 影追い、戦う者たち編

46話 未来へ繋がる絆

しおりを挟む
狛犬は、児珠神社での掃除や雑用の合間を縫って、街角のペットのおもちゃ屋でアルバイトを始めていた。覚えることも多く大変だが、遊びに来る可愛い猫やワンちゃんに囲まれ、癒される日々だ。

彼の新しいアパートは居心地が良く、隣人のゆるキャラさんとはすっかり打ち解けていた。ゆるキャラさんは、一人暮らしや人間界での生活のこまごました知恵を教えてくれる、よき先輩だ。

ある日の夕方、狛犬がスーパーへ向かおうとすると、ゆるキャラさんがひょこりと顔を出した。

「特売品1人1個、一緒に並ぼ」
「わかりやした、魔魔マートの卵!ですな」さぁ、出発でござんす。
またあるときはこんなかんじだ。

「肩こり、手が届かない、ここここ」
「あ~ここでござんすかね」もみもみ。

「今日もおじゃま、エアコン代節約」
「いつでも来てください、ゆるキャラさん!」
狛犬は気前よく胸をたたいた。

ゆるキャラさんはぺこりとおじぎをし、紙袋に入れたパンの耳で作ったラスクを差し出した。
「これはいける!!ニッキの匂いがいいでやんすね」狛犬は鼻をクンクンさせた。

今晩は皆で、狛犬の新しいアパートで引っ越し祝いの鍋パーティーだ。狛犬は近所のスーパーでどっさり食材を買い込み、狸の音吉と慣れない手つきで下ごしらえに精を出していた。

その夜、湯気の立つ鍋を囲み、懐かしい温かい笑顔が並んだ。

賑やかな笑い声が響く中、ノリさんのスマホがクラッシックにリーンと鳴った。「神崎君からだ!」と声を上げる。
画面には月彦の端正な顔立ちが映し出された。
少し疲れた様子ながらも、その瞳には確かな光が宿り、隣にはどこか得意げな様子の虎二がいる。

「皆さん、風流市での活躍、遠くロンドンまで聞こえていますよ。
我々の調査も詳しくは言えませんが、内通者の特定も、もう時間の問題かと」月彦の声には、静かながらも確かな決意がにじんでいた。

「二人とも元気そうでよかった!そうそう、この前送ってくれたお菓子おいしかったよ!今度はさ、テディベア送ってもらえる?親戚の子がさ、今欲しがってんのよ」ノリさんが無邪気にねだる。

「はぁ?あなたと言う人は!く、クマのぬいぐるみ?狸で我慢してもらってください!」虎二が珍しく感情を露わに、電話口で憤慨する声が響いた。

音吉がポンとおなかをたたいて見せて、皆から笑いが起こる。

「ふふ、海外にも噂が届くなんて、音吉君すごいじゃないか」マスターが優しく微笑みかけた。
「はい、おかげさまで、動画配信も自分たちで慣れてきました」
なんか、じいじさんが人気なんですよ、ストイックで渋いって」

風流市で人気のチンドン屋風流一座は、一度は団長が体調不良で解散するという噂もあったのだが、今は元気に再スタートを切った。

狸の音吉のアクロバティックなダンスも板についてきた。もちろん、あまり上達はしないが、クラリネットも吹いている。

そして団長からは、次世代の「女形のエース候補」とされているらしい。
「えーボク、あれはお酒の力で!ボク女装は無理です!って言ってるんです」と、音吉が赤面して抗議する声が、賑やかな部屋に響き渡った。

鍋パーティーが終わり、それぞれの場所で新しい日々が始まっていた。
風流市の一角、かつて闇に消えたキツネ横丁の入り口に、ささやかながらも温かい光を放つ場所が生まれた。

タウン情報誌記者の川田が話題の新店を聞きつけ、さっそく取材に訪れた。
「あやかしコロッケのキッチンカーねぇ。
へ~結構スペース広いな。
ふむふむ、イベント告知、週末には風流一座に猫妖怪か」

あやかしコロッケとは、マスターの喫茶エコーがある本町1丁目の商店街、おしまれつつ先日閉店してしまった「あやかしコロッケ店」のキッチンカーである。
父のあの味を継ぎ、娘夫婦が始めたのだ。

真新しいキッチンカーからは、香ばしいあやかしコロッケの匂いが漂ってくる。
カラフルなパラソルの下には、いくつかのベンチが並べられ、小さな休憩スペースが作られていた。この一角は、これからチンドン屋一座のパフォーマンスの場ともなるだろう。

キツネ色の揚げたてコロッケをパクリと一口ほおばった川田、思わず「うまい!このコロッケ」と叫んだ。
「これが幻のあやかしコロッケ、コロッケパンもいける!」
食べるのに忙しくて取材が進まない川田であった。

そして、向こうに立っているのは、キツネママと、沈痛な面持ちがいくらか和らいだチンドン屋の団長だった。

「まずは小さな場所からでいいじゃないかって、決めたのさ」
キツネママの声には、力強い決意が宿っていた。

団長は、キツネママの隣で深く頷いた。
「今回のことは、キツネ横丁の復活を急いだり、一座の人気を手っ取り早く復活させようとした、私が悪かった。あの鳴動器に魅了されてしまったばかりに…………。

これからは、地道にやっていこう。そして、音吉君のアクロバティックなパフォーマンス、じいじのロックな三味線も取り入れて、新時代のチンドン屋として再出発だ」
彼の言葉には、心からの後悔と、未来への強い希望がにじんでいた。

一方の猫社長は、商売に精を出す一方、悪徳政治家が使っていた悪質な業者からの嫌がらせに対し、これまでの証拠を手に警察へ毅然と訴え出た。

ノリさんの元には、彼の知り合いの記者から「特ダネになりそうな面白い情報」が届き、目を輝かせている。
さらに、マスターの知り合いである郷土史研究家からも、悪徳一族の過去を解き明かすための協力的な回答が寄せられ始めていた。

彼らの地道な行動と、それぞれの繋がりが、まるで糸を紡ぐように一つに結びつき、徐々にあの闇の連中を追い詰めていくだろう。

――その日の午後、小さなスペースに、懐かしいけれど新しい音が響き渡った。
「東西、東西、隅から隅までご覧あれ~~!」 朗々とした団長の声が、かつて闇に覆われた横丁の入り口に、温かい光を灯す。 

「ここは平和な風流市、山は狸温泉ほっかほか、川に遊ぶはカッパの伝説! 昼は人、夜はあやかし。商いの奥に妖の影、祭りの裏に笑いと涙!」 音吉のアクロバティックな動きに合わせて、クラリネットが軽やかに舞い、じいじの三味線が粋な音色を奏でる。

「さてさて風流一座、吹き込むは音の風。鳴らす太鼓に願いをのせて、響く音色は過去と未来を繋ぎます。三味線じいじの糸には、百年の町の記憶が宿り、街の笑顔も涙も、みな音に染めてお届けつかまつる!」 


ひらひらしたドレス、王子様のような格好をした幼い猫妖怪たちが、自分たちで考えた振り付けで踊っている。

立ち止まって見入る人々、そしてあやかしの子どもたちも、その音色に吸い寄せられるように、自然と笑顔になっていく。

「ほらおいで!飛び入り参加大歓迎!」
団長が子供たちに声をかけると、あやかしと人間の子供だちがダンスに加わった。どの顔も笑顔だ。

川田は、その心温まる光景を一枚の写真に収めた。

社に戻ると、先輩に頼まれていたあやかしコロッケのお土産を渡した。「へ~川田君、これなかなかいいじゃない」珍しく褒められ、川田は得意げになった。
「でしょ、うまいですよね、コロッケ」
「ちがうわよ、その写真のことよ」先輩はくすりと笑った。

11月になり、喫茶エコーのテーブルにタウン情報誌がそっと置かれていた。
キツネママが発売日に持ち込んだのだ。
表紙を見たノリさん、マスター、猫社長は顔を見合わせ、喜びの声を上げた。

表紙には、あやかしの子供たちと人間の子供たちが手を取り合い、満面の笑顔でダンスする姿が写し出されていたからだ。
常連客もみなこの表紙を喜び、口々に「子供たちの笑顔に、新しい風を感じる」と語り合った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...