【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
87 / 179

第35話 【世界をひとつに? 湯ノ花の日常】

しおりを挟む

 湯けむりの立ち上る湯ノ花の里に、朝の陽光が差し込む。
 子どもたちの笑い声が、通りを駆け抜けていた。

 その笑い声の中心には、エルフのリュシアがいた。銀の髪を揺らしながら、数人の小さな子エルフを連れて湯ノ花の里に遊びに来ている。エルフの子供たちは好奇心いっぱいに石畳を駆け、村の人間の子どもたちと混ざって遊んでいた。

「わぁ……ほんとに賑やかになりましたね。まるで都のようです」
 リュシアは感嘆の息をつき、湯けむりに包まれた街並みを眺める。

「でしょ~? 最近は観光客も増えてるしね~。ほら、温泉とか、温泉まんじゅうのお店、朝から大繁盛だよ~」
 ミサトが胸を張る。

 すると、広場の端で控えていたゴブ太郎が、おずおずと近づいてきた。巨躯ではあるが少し痩せた体にまだ包帯が残っているが、その姿勢はどこか誇らしげだった。

「んっ?エルフ?……あんた、オレたちを見ても驚かねぇのか?」
 ゴブ太郎はリュシアをまじまじと見た。

「えっ?驚く? なぜですか?ふふふ、あなたを見て悲鳴をあげ、泣き叫んだ方がお好みでしたか??」
 リュシアは柔らかく微笑み首を傾げた。
「あなたがいたからこそ、私たちの秘薬は意味を成したのです…。むしろ私達が役に立てた事の感謝を伝えたいのです」

 ゴブ太郎は一瞬、言葉を失った。
 やがてゆっくりと頭を垂れる。
「ふふふ!いや。そのままでいい。……おかげで腕が繋がった。命拾いした……ありがとう」

 リュシアは微笑む。
「その薬は未来を繋ぐもの。あなたが仲間と生きる未来のために役立ったのなら、それが一番です」

 彼女の声に、ゴブ太郎の喉が熱くなった。
 怪物として扱われてきた自分に、ただ「未来」と言ってくれる者がいる、、。
 その事実が胸を震わせた。

◇◇◇

 子どもたちが駆け回る中、リュシアはふと空を見上げた。
「こうして人もエルフもゴブリンも、同じ場所で笑っている……。いつか、世界全体が一つになれるといいですね」

 その言葉に、近くのゴブリンたちが声をあげて笑った。
「ぐへへっ!世界が一つに? ぐははっ! そんなの考えたこともなかったなぁ~」
「だな! オレたちは腹いっぱい食えりゃ十分だからな~」
 ゴブリンたちも村人も笑い、子どもたちもつられて大はしゃぎする。焚き火の跡から漂う温もりに、場は和やかな笑いに包まれた。

◇◇◇

 その輪の中で、ミサトがぽんと手を叩いた。
「あははっ!ならさ! ここにいるみんなで作っちゃえばいいんじゃない? 世界が一つになる場所!」

 一瞬で場が静まり返る。
 カイルが頭を抱え、ため息をついた。
「はぁ~、お前なぁ……そんな簡単に言うんじゃねぇよ」
『はい。ミサト。簡単に言わないでください。世界統一を軽口で語るのは、正気の沙汰ではありませんよ。ミサトには“へそで茶を沸かす”と言う言葉を進呈します』
 リリィも冷ややかに指摘する。

「えー? でもさ、誰かが簡単に言わなきゃ何も始まらないじゃん!そうやってみんな一つになっていったんでしょ??」
 ミサトは口を尖らせてみせる。

 子どもたちがきゃっきゃと笑い、ゴブ太郎が頭をかきながら「へへ……バカみてぇだな」とつぶやく。
 だが、その声色には苛立ちではなく、不思議な温かさが混じっていた。

 リュシアはその光景を見て、そっと微笑む。
「ええ……ミサト。もしかしたら、本当にここから始まるのかもしれませんね」

◇◇◇

 夕暮れ。
 湯けむりが赤く染まる街を、村人とゴブリン、エルフの子どもたちが入り混じって歩いていた。
 異なる種族が並んで笑い合う、、
 それは小さな一歩に過ぎない。
 けれども、確かにここに【ひとつの世界】が生まれ始めていた。

◇◇◇

 夜になると、広場では自然と宴会が始まっていた。
 人間もゴブリンもエルフも、焚き火を囲んで杯を交わし、湯けむりと笑い声が空に溶けていく。

「うひゃー! また宴会やってんの!? この間もやったばっかりなのに!」
 ミサトは両手を挙げて笑った。

『はい。ミサト。この間の酒代と饅頭代を合わせると、今月の経費は赤字です。ミサトのお給料は三ヶ月無しですね』
「三ヶ月!?!?ぶぅぅぎぃぃぃ!!ちょっとぉぉ! 今それ言わないで!楽しめなくなるから!しかも今回は奢るって言ってないしぃぃぃっ!」
 ミサトがジタバタすると、子どもたちが真似をして転げ回り、場がさらに賑やかになる。

 ゴブ太郎は焼いた魚を無邪気な笑顔の子エルフに手渡しながら、ぽつりと漏らした。
「……悪くねぇな、こういうのも」
「ほんとだよね」ミサトが横に座り、杯を掲げる。
「ほら、ゴブ太郎も乾杯! 湯ノ花式ホワイトライフにようこそ!」
 ゴブ太郎は少し照れくさそうに笑い、木の杯を掲げた。

◇◇◇

 宴のあと、ミサトは湯に浸かりながら大きく息を吐いた。
「はぁぁ~……極楽極楽。宴会のあとに温泉、これ以上の贅沢ってある?しかもほぼ毎日☆」
『はい。ミサト。強いて言うなら、宴会の前にも温泉に入れば二倍の効能があります』
「じゃあ一日二回宴会しなきゃいけないじゃん! お財布死んじゃうよ!」
『はい。ミサト。貴女のすでにお財布は瀕死です』
「ぎゃゃゃゃゃーー!!リリィ助けて」
『はい。ミサト。忘れる事です。忘れる事で救われる事実があります。記憶を消しますか??』
「こっわっ!何、記憶とか消せんの??こ~っわっ!!」
『はい。ミサト。嘘です』
「嘘なんかいっっ!!」
 
 ミサトとリリィのやり取りに、隣の湯船でゴブリンたちがどっと笑い、子エルフがきゃっきゃと跳ねる。
 湯けむりの中、笑い声が夜空へと溶けていった。

 その温もりは、嵐の前の静けさを覆い隠すかのように、やわらかく続いていた。


          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...