【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第36話 【ミサト式楽市楽座☆社畜OL式フリーマーケット宣言】

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 ある日の湯ノ花の里の広場に、重苦しい空気が流れていた。
 朝からやって来たのは、王都の徴税官一行。金と朱に彩られた服をまとい、鼻持ちならぬ態度で馬を並べている。

「お~いっ!湯ノ花の里の代表は誰だ?話しがしたい」先頭の徴税官が高圧的に言い放つ。

 カイルが一歩前へ出て頭を下げた。
「……この里の商いを取り仕切っている者だ。何用か?」

 徴税官は鼻で笑う。
「ふんっ!王都の許可なく市場を拡大し、各地の村と交易を行って随分と儲かっているそうだな? よって今後、国への上納金を納めてもらう事となった。税率は売上の三割。加えて交易は今後王都の座を通さねばならぬ!これは国王命令だっ!」

 ざわっ、と場が揺れた。
 国王命令、、三割、、村にとっては死活問題だ。
 シルヴァン村やカッサ村から来ていた商人や使者たちも顔を青ざめ、互いに視線を交わす。

 徴税官はさらに声を張った。
「拒めば違法交易と見なし、兵を差し向ける。国の威光を忘れるな!国民共よっ!!」

 広場の空気は一気に凍りついた。
 村人たちは息を呑み、誰も声を上げられない。

「……あの~、、ちょっといいですか??」
 沈黙を破ったのは、ミサトだった。
 彼女は両手を腰に当て、きょとんとした顔で徴税官を見つめる。

「なんでそんなに難しくするのかな~? 誰かが得して、誰かが損する仕組みってさ、疲れちゃわない?」

「な、なにを……なんだ貴様はっ!」徴税官は顔をしかめた。

「あっ?私、里長のミサトね☆!よろしく。 そんでね、私、思いついちゃったんだけど……だったらいっそ、全部の村が自由に商売できるようにすればいいじゃんって思うのよ! 関所も座も、ぜーんぶ無し! よし!決めた!!ここ湯ノ花の里は、今後オープン経済でいきま~す!」

 ミサトが両手を広げてにっこり宣言すると、、
 一瞬、場は呆然とした静寂に包まれた。
 徴税官が眉をひそめ「何をバカな事を……」と言いかけると、、
 次の瞬間、シルヴァン村の使者が叫んだ。
「ミサトさんっ!そ、それは……本当か!? 関所も税も取らぬと!?」
 続いてカッサ村の代表も身を乗り出す。
「もしやすれば……これが本当に実現すれば……国を経由せずとも、我らの品を直接ここに卸せるのか!」

 その瞳は一気に輝き、歓声が上がった。
「やった! これで村の荷がもっとさばける!」
「湯ノ花に持って行けば、儲けは倍だ!」

 広場に一気に熱気が戻っていく。

 ゴブ太郎は頭をかきながらぼそっと漏らした。
「……なんかよく分かんねぇけど、すげぇことになってんのか?」
 隣でエルナもきょとんと首を傾げる。
「う、うん……? 市場を自由にすると……どんな風に……?なんか凄い事が起きそうなんだけど…」

『はい。みなさん。説明しますね』
 リリィの冷静な声が響く。
『これは歴史上で織田信長がやった“楽市楽座”と呼ばれる政策です。市場の独占権を撤廃し、誰でも売買できるようにすることで、人と物の流れを一変させます。、、ただし』
 そこで声の調子をわずかに落とす。
『これは同時に、国の支配権に真っ向から喧嘩を売る行為。湯ノ花の里を、王都が見過ごすはずがありません。んー、、今後の衝突は不回避になります。どうしますか?ミサト』
「あははっ!売り言葉に買い言葉ってやつだね…少し反省……。ごめん。後でみんなで考えよ☆」

 カイルが額を押さえ、深いため息を吐いた。
「考えようって……本気でやるのか、ミサト。これで湯ノ花は確実に、国の目に映ったぞ」
 
 その言葉に、周囲がざわめく。
 けれど、ミサトは笑って肩をすくめた。

「えへへ☆でもさ、みんなで自由にやる方が楽しいじゃん! その方が絶対ホワイトライフだよ!王都の人もこっちで買い物すればいいじゃん!」
 その無邪気な笑顔に、シルヴァン村とカッサ村の使者や商人は揃って拳を掲げた。
「湯ノ花に従う! ここでこそ未来が開ける!」

 広場の熱狂の裏側で、一人だけ冷めた目をしている青年がいた。
 リュカ、、いや、王都に名を持つ者としては、、
 【リュウコク】と呼ばれるべき男だ。

 人もゴブリンも入り乱れて歓声を上げるその光景を見て、彼は小さく笑みを零した。
「ははは、、……ほらね。やっぱりヤバい奴だな、あの女は……。虎の尾を踏んだのか?猫の尾を踏んだのか?? さぁて。バカ親父、、どう手懐けるのか見ものだな…」
 その声は湯けむりに紛れて誰の耳にも届かない。だが確かにそこには、王子としての直感と畏怖が混じっていた。

 民をまとめる者を何人も見てきた。けれどミサトは違う。力でも血筋でもなく、笑いと宴会とおやつで人と異種を引き寄せる。
 それは人の世の常識から外れていて……だからこそ手が付けられない。
 リュウコクは、未来の王国の姿に自らの胸騒ぎを重ねていた。

◇◇◇

 夜。
 人波が去った後の広場を歩きながら、ミサトはカイルと肩を並べていた。

「……そんでさ、相談なんだけどね……カイル??」
「ん?」
「国に納める税金って、結局どっから出すんだろうね……?」
 ミサトが困ったように眉を寄せる。

「はははっ!おいおい、今さら気づいたのかよ?」
 カイルは頭をかきながら笑う。
「商売自由化はいいが、その分しっかり数字を回さねぇと、あとで一気にツケが来るぞ。国は“おめでとう”なんて言わねぇ、“払え”ってしか言ってこねぇからな!」

「うぅっ……リリィ…ちゃん…」
 ミサトはポケットの中のリリィをつついた。
「リリィ…様…なんかいい節税スキルとか無い?」
『はい。ミサト。ありません。王国に対する脱税は即死エンド直行です』
「えぇぇぇ!?やっぱり~!?!」

 カイルは肩を震わせて笑いながら言う。
「くくくっ!ま、せいぜい今から帳簿とにらめっこするんだな。帝王学ってのは数字から逃げられねぇんだろ?」
「うぅぅ~~ブラック……!ブラック帝王学だぁぁぁぁぁぁ……!!誰か助けろぉぉぉぉぉ!!!」

 ミサトの叫びに広場がまた笑い声で転がり、夜の湯けむりに消えていった。

◇◇◇

 遠ざかる徴税官の馬の蹄が、石畳を重々しく叩いていた。
 彼の顔は怒りと焦りに歪み、、
 王都への報告は決まっていた。

「ぐぬぬっ!湯ノ花の里の思想は危険だ……今のままでは、国の秩序を脅かす!早く国王様にお伝えしなくては…!」

 そのつぶやきは、夜の闇に溶けていった。


          続
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