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第37話 【王都の影に笑う者】
しおりを挟む王都、、、。
徴税官の石畳を踏みしめる蹄の音が、冬の冷たい空気を震わせる。
徴税官が汗だくの顔で宮殿へと駆け込み、謁見の間に飛び込んだのは日が傾きかけた頃だった。
「こ、国王陛下っ……っ、大変にございまするぅぅっ!!」
玉座の上から鋭い眼差しが突き刺さる。
王都を支配する男、、現国王ラインハルト王
その声は低く、苛立ちを隠そうともしなかった。
「あんっ?何が“大変”だ? 早く言え。余を待たせるな」
「はっ……はぁっ……湯ノ花の里にて、勝手に市を開き……各村との交易を自由化……そして“上納を拒絶”し、さらには……国王陛下の御座を否定するがごとき暴挙に……!」
「なに……?」
玉座の肘掛けを握る国王の指が、ぎりりと鳴った。
次の瞬間、謁見の間に怒声が響く。
「愚弄かっ……っ!余を誰だと思っておる! 小娘ひとりが、王国の秩序を踏みにじっただと!? 笑止千万っ!!」
重臣たちが顔を見合わせ、青ざめる。
王の怒りは嵐そのものだ。容赦なく吹き荒れる風圧のように場を支配していた。
「陛下。お忙しい所失礼申し上げます」
衛兵が進み出る。その後ろに連れてこられたのは、一人の武人。
戦場でゴブリンを抑え、ゴブリンの村に出兵した際に誰よりも奮戦した隊長だった。
「ほう……貴様か。あの戦で働きがあったと聞く。だが、、、!!」
国王の目がぎらりと光った。
「結果はどうだ? ゴブリンの村は未だ健在。しかもこちらの被害は甚大!しかもっ!!訳のわからん村と和合し、国を嘲るまでに膨れ上がった。……貴様の戦など、犬死ににも劣る!」
「お言葉ですが陛下! 我が兵は命を賭して戦い、敵の首も挙げました! ですが我が目で見た所、、あの地は制圧するまでもない地だと思います」
「黙れ。誰が喋れと言った? 言い訳はそこまでにしておけ…」
その一言で、謁見の間の空気が凍りつく。
国王はゆっくりと立ち上がり、重々しいマントを翻した。
「余の命なくして勝手に策を弄したな? 余に報告せず勝手に“可能性”を語る者は、反逆者と変わらぬ。……兵士の命を盾に己の武功を語るなど、恥を知れ!」
「っ……!」
隊長の顔が蒼白になった。だが必死に言葉を絞り出す。
「お、恐れながら……私は王国のためを思い……!この剣を振るって来たと自負しております……」
「そうか、ならば王国のために牢で朽ち果てよ。寂しいなら剣でも持っていけ!素振りは自由にしてていいぞ!はーはっはっは!!」
笑いながら冷酷な宣告が下される。
兵士たちが無言で隊長を取り押さえ、鎖の音を響かせながら連れ去っていく。
その背に、隊長は一度だけ振り返り、悔しげに歯を食いしばった。
だが国王の表情に一片の情けもない。
「見せしめにせねばならぬ。我が王国を甘く見た愚か者どもに、余の恐ろしさを骨の髄まで教えてやろう」
そのやり取りを、謁見の間の片隅から静かに見つめる影があった。
長い黒髪に、若干の皮肉を帯びた眼差し。王子リュウコクである。
彼は唇の端をわずかに上げ、父の暴君ぶりに冷笑を浮かべ、席を外し歩き出した。
(ははは……やっぱりな。バカ親父は“恐怖”しか振り撒けない。功績を讃えるどころか、牢獄送りとは。……これでは兵も心を失う。だがそれでいい。弱体化した兵は俺の動きやすい駒になる)
表向きは沈黙を守り、恭しく頭を垂れる。
だが内心ではすでに、別の盤面を思い描いていた。
(湯ノ花の女、、ミサト。あいつは血筋も力もない。だが宴会と笑顔とお菓子で人と異種をまとめる……。ふっ、、馬鹿げている。だがその馬鹿げた力が、国王の命令を超えているのも事実だ)
彼は組んだ腕に指を軽く滑らせ、愉快そうに吐息を零した。
(利用するか? それとも潰すか? いずれにせよ、俺にとっては“手札”だ。バカ親父が怒り狂って潰しにかかるなら、その隙に俺は動ける。……ああ、愉快だな。盤上の駒が勝手に踊り出す)
国王は怒りを収めぬまま、重臣たちへと命じた。
「湯ノ花の里を監視せよ。商人の流れを封じ、兵を集めよ。いずれ余自ら、討伐の旗を掲げてやる!」
「「ははっ!」」
重臣たちが一斉に頭を下げる。だがその瞳の奥には、恐怖と疑念が揺れていた。
唯一、笑みを浮かべていたのはリュウコクだけだった。
リュウコクは遠くから深く一礼し、父王に背を向ける。
謁見の間を去るその足取りは、あくまで余裕を漂わせ、傲慢なまでに静かだった。
◇◇◇
謁見の間を去った後、重臣たちはひそやかに言葉を交わした。
「陛下の耳にはまだ入れておりませぬが……東の帝国が国境に兵を集めております。湯ノ花どころではないのでは……」
「ふん、帝国に背を向け、辺境の小村に怒り狂う陛下に未来はあるか……」
その囁きは王都の冷気に紛れたが、確かに国の脆さを映し出していた。
リュウコクはそれを耳にしながら、にやりと笑う。
(重臣のがバカ親父よりまだ賢いか??ふっ、他国の圧力にバカ親父が気づかぬなら……盤はさらに面白くなる。さて、俺はどちらの旗を掲げようか)
◇◇◇
夜、王子の私室。
蝋燭の灯に照らされた机の上に、地図と駒が並べられていた。
リュウコクは駒を指で弾きながら、低く笑う。
「牢に落ちた隊長……親父の短慮で、また一つ不満が積もる。……ふふっ!よし、それでいい。兵も民も疲弊した方が、俺にとっては好都合だ」
駒を一つ、北へと移す。
そしてもう一つを、湯ノ花の位置に置き、にやりと口元を歪める。
「さ~て、ミサト。お前は笑って“世界を一つに”なんて戯言を言っていたな。……だがな、俺にとってはお前こそが最高の余興だ。
親父の国に飲み込まれるか、それとも……俺の盤に従うか。どちらにせよ、お前には踊ってもらう」
蝋燭の炎が揺れ、彼の横顔を照らす。
その目には焦りも恐れもなく、ただ策士の余裕だけが宿っていた。
「クク……“虎の尾”を踏んだ王か。……さぁ、迷い猫ちゃん。どこまで生き延びるか見せてもらおうじゃないか」
その呟きは静かに夜に溶けた。
王都は冷たい闇に沈んでいたが、盤上ではすでに、新たな戦いの灯がともり始めていた。
続
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