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第46話 【リュウコクの安いナンパ】
しおりを挟む小さな村の民とコーヒーを楽しんだ後、砂漠を発つ前にミサトはあの“苦豆”を炒っていた老人のもとを再び訪れた。
「おじいさん。よかったらこの豆、定期的に湯ノ花に卸してもらえませんか?お値段ははずみますよ☆」
ミサトは紙に金額を書いた。老人は目をまん丸にして、にたぁ~と微笑み頷いた。
「まさか苦豆がこんな値段になるとはなぁ、、そしてお前さんの飲み物、悪くなかった。取引成立だ!」
ミサトは両手を合わせ、にっこり笑う。
「よっしゃっ!ありがとっ! 湯ノ花の朝は、、いや、、世界の朝はこれで安泰だねっ!」
その笑顔に、小さな村の老人も小さく笑った。
、、そして今、湯ノ花へ帰る旅が始まる。
砂漠の道を抜け、国境の森を抜けると、ようやく湯ノ花の里の賑わいが見えたころ。
夕日の光が山裾に差しこみ、白い湯気が村のあちこちから立ちのぼっていた。
「みんな~!ただいま~!」
ミサトが声を張ると、温泉通りを掃除していたニアがぱっと顔を上げた。
「ミサトはん! えっらい元気な顔してまんなっ!」
湯気の向こうから駆け寄るニアの笑顔。
その後ろでエルナが腕を組み、呆れ顔で言った。
「もぉ~、、……帰りの予定より半日以上も遅れて、、また砂漠で何かあったと思ったじゃないですか!」
「あははっ、ごめんごめん!ちょっとコーヒー探してて!」
「?? コーヒー……? またよく分からないことを」
「あははっ!飲んだら分かるってば。社畜が朝に目覚めるための、文明の味だよ!一口で飛ぶぞ!あははっ!」
ミサトが胸を張ると、ゴブ次郎が後ろから豆袋を掲げた。
「この“苦豆”ってやつ、め~っちゃうまいっす!」
ニアが興味津々で覗きこむ。
「うぇ~!あかんあかん!これむっちゃ苦いやつやん。これ食べたら、目ぐわぁ~なって、全然眠れなくなるでぇ~。しかもこれの別名ギンギン豆やでぇー!」
「“ぎ、、ギンギン~!!”なんでそんな事言うんですかぁ~!! でもニアこの豆知ってるの??」
「あぁ、知ってるで!砂漠では有名や。どぉ~しても夜に砂漠超えなあかん時に、寝てられへんからガリッと噛みながら行くやつや!」
エルナがふっと笑みを漏らす。
「まったく。ミサトさんは戻るたびに、新しい風を連れてきますね」
「でしょ~? じゃあ私、ちょっと片づけしたら、、」
ミサトは天守閣へ向かいながら振り返った。
「夜のうちにお湯沸かしといてね。みんなで試飲会するから!あと“モーモーパイパイ”も用意しておいて~♪」
「モーモーパイパイっちゃなんやねん??」
「牛さんのミルクですよ……。ミサトさんはなぜかモーモーパイパイって呼ぶんですよね、、。そしてミサト女王、また新事業の予感です」
エルナのぼやきが聞こえる。
◇◇◇
天守閣のだだっ広い部屋は相変わらず端っこに布団があり、テーブルがあるだけだった。
部屋の端に掛けられたままの豪奢なマントが、夕日の光を受けて淡く光っている。
リュウコクのマントだった。
あの夜、大泣きの中で差し出された、重く温かい布。
「ふふ、……返さなきゃね」
ミサトは小さくつぶやいて、肩に掛けてみた。
柔らかい手触り。思ったより似合ってしまって、思わず苦笑する。
「あっ、、洗ったのに内側ガビガビだ……あいつ怒るかな? まっ、怒んないか?てか、まだうっすらいい匂いって、、クンクン、、」
そこへエルナの声。
「ミサトさん。持って来てくれたコーヒーの準備出来ましたよ~」
「うっぎゃぁぁぁ!!びっくりしたぁ!いやっ、その、別にクンクンしてないよ。うん。絶対してない!あっ、準備出来た。うん。ありがとう。それ終わったら私明日またちょっと出かけてくるね!」
「また出かける……?どちらに? 一人でですか?」
「うん。ラインハルト。同盟国だし、リリィもいるしね!」
胸ポケットからぴこっと光がのぞく。
『はい。ミサト。エルナ、ラクダもおりますし、安全です』
リリィの冷静な声に、エルナは目を細めた。
「えっ?……女王なのに、また居ないんですか……」
「あははっ!留守番よろしく~☆」
ミサトは笑って手を振り、広場に行きみんなでコーヒーを楽しんだ。
◇◇◇
次の日朝、爽やかな林道を、ミサトとラクダ一頭が進む。
風がやわらかく、空はどこまでも澄んでいた。
「ねぇリリィ、このラクダってさぁ~、なんかさ~、歩き方にグルーヴがあるよね。すっごくお気に入りなんだよね~。スピード感とか、まつ毛とか」
『はい。ミサト。ラクダさんは社畜とは違い、荷を背負っても愚痴を言いません』
「いまの、完全に社畜に悪意あったよね!? あったよね!?」
『はい。ミサト。あまり詰めるとパワハラです。いいえ。事実陳列したまでです』
「は~い!事実陳列罪で逮捕します。え~と現在時刻朝の早い時間、リリィ容疑者現行犯逮捕です!」
『はい。ミサト。……まさかテンション上がってます??リュウコクに会えるから、テンション上がってます??」
「はぁぁぁん!んな訳ないでしょ!あんたバッカじゃないの??朝、濃いめのコーヒーぶち込んだからでしょ!!」
『はい。ミサト。……そう言うことにしておきます』
そんなやり取りが、爽やかな林道にこだまして笑い声になった。
◇◇◇
ラインハルトの城門が見えたとき、ミサトは自然と背筋を伸ばした。
旗がはためき、城下町には人の声があふれている。
かつてくすんで見えていた通りが、今は活気に満ちていた。
「久々に来たらすご~い……。変わったねぇ~」
ミサトは立ち止まり、通りを見渡す。
子どもたちが笑いながら走り、商人たちが声を張る。
「これが、あのリュウコクが作った国かぁ……」
『はい。ミサト。経済成長指数、前回の国王時からおよそ170%増加』
「えっ?170パー??すっごいねぇ~」
城門の兵士がミサトに気づき、慌てて敬礼した。
「湯ノ花の女王ミサト様!? どうぞお通りください!」
「あ、ありがと~。どうぞお構いなく~。本日観光でーす☆」
軽く手を振って通るミサトに、周囲の人々が興味深げに目を向ける。
リリィが小声で言う。
『はい。ミサト。もう少し社畜女王の風格を……』
「なんじゃ社畜女王とは、、しかも無理。女王っていうよりどっちかって言ったら、私は旅芸人のがあってるんだもん…」
◇◇◇
城に着くと、門の前に見慣れた影があった。
「よう、湯ノ花の女王さん」
カリオスが片眉を上げて立っていた。
「リュウコクなら今朝からどっかに出かけてるぞ。要件があるなら伝えようか?」
「えっ?出掛けてんの?? うーん、いいや。また来るから」
ミサトは少し残念そうに笑う。
「……そっか。こないだザハラが来てから忙しそうだな。西に行ってみたら居るかもな……」
「ん? 西? そっか?まっ、会えなかったら無駄になるから今日は帰るよ!」
「おう!わかった。来たのだけでも伝えとくな」
カリオスは手を振って去っていく。
ミサトは豪奢なマントを見つめた。
「あ~あ!せっかく返そうと思ったのになぁ。タイミング悪いな」
『はい。ミサト。王族は忙しい生き物です』
「う~ん、、知ってるけど……なんかさ、避けられてる気がする。ザイール終わってから全然会えてないし、、」
『はい。ミサト。あれれ~? “興味ない”って言ってませんでしたっけ?』
「あっ!?うるさい、AIのくせにニヤニヤしないっ!」
ミサトはふくれっ面でラクダにまたがった。
夕陽が地平線を赤く染め、木々が金色に輝いている。ゆっくりと帰路に向かうその背中に、風がやさしく触れた。
◇◇◇
少し進んだその時だった。
背後から、地を蹴る馬の足音。
ミサトが振り向くと、砂埃を上げて一騎の馬が駆けてくる。
夕陽を背負い、髪が風に舞った。
「あははっ!……こんなところに素敵なお姫様が一人でお散歩とは☆もし良かったら僕とお茶でもどうですか?」 リュウコクの甘い声。
ミサトの口元がふっとほころぶ。
「はーぁぁぁん!やっすいナンパしてんじゃないわよ、王子様っ!あははっ!」
リュウコクが苦笑して手綱を緩めた。
「あははっ!ナンパじゃないよ!……迎えに来たんだよ~☆妻になる気になったと思ってね♡」
「残念でした!“まだなりませんよ”!マント返しに来ただけだから!」
ミサトが笑い、白馬の鼻先を軽く撫でた。
「えっ?“まだ”?? おいっ!機械、今ミサト、“まだなりませんよ”って言ったよね??」
『はい。完全に言いました。しかもリュウコクに会えない時間を楽しんでおりました。悲劇のヒロインみたいな顔で、西野○ナ流してって言ってました』
「むっきゃぁぁぁ!!やめろぉぉぉぉ!楽しんでねぇし、言ってねぇぇぇぇ!!」
林道を通る風が三人の間を吹き抜け、笑い声をさらっていった。
続
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