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第47話 【社畜と恋と、お弁当の法則】
しおりを挟む風が緑の葉を揺らし、林道の上を柔らかな日差しが跳ねていた。
リュウコクの白馬と、ミサトのラクダが並んで歩く。
「それで、リュウコク。どこ行ってたの?ザハラ女王と何話したの?西って何? あとさぁ、今まで何やってたの??」
「あははっ!すっごい聞くじゃん☆。 ん~、、どこから話せばいいのかな??特に何もやってないし、、ザハラとは世間話しみたいなもんだしなぁ、、 まっ!とりあえず明日、迎えに行くから。ピクニックだよ☆」
「……は?なんだそれっ!?ピクニック??」
ミサトは目を瞬かせた。
「なにそれ。戦でも会議でも悪巧みでもなく、ピクニック?」
「そう。たまには仕事を忘れないとね。ミサト、お弁当作っておいてよ♡」
「ちょ、ちょっと待って!? なんで私が作んのよ??」
「え~、いいじゃないか。ミサトの作るご飯、美味しそうだしぃぃ~」
そう言ってリュウコクは、軽く微笑んだ。
その笑顔。ずるい。あれは人を惑わす外交兵器だ。
ミサトの口元がピクピク震える。
「ぴゃぁぁぁ!!な、なにその顔……。ズルいでしょ……。あざとかわいすぎるって…あんた鏡の前で練習してんでしょ!」
「えっ??じゃあ、行かないの?」
その瞬間、リュウコクの声が一段低くなった。
穏やかな風が頬を撫で、目が合う。
「ずっるぅぅぅ!! う、うるさいっ!行くわよ!行けばいいんでしょ!」
ラクダの上で身をよじるミサトを見て、リュウコクはくすっと笑った。
「ふふ、よかった☆じゃあ明日迎えに行くよ。ミサトのお弁当、楽しみにしてる♡」
背を向けて去るリュウコクを見送りながら、ミサトは唇を尖らせた。
「ぷぅわぁぁぁん!!なによ……私の事好きな方のくせに人の予定勝手に決めて……っ」
『はい。ミサト。いいえ。恋愛戦略、敗北確認です』
「うるさいっ!!まだ、ぜっんぜっん負けてないからね!!」
◇◇◇
湯ノ花のミサト式楽市楽座は、夜になると香りと喧騒に満ちていた。
香辛料の赤、野菜の緑、湯気の白。どれも鮮やかに光を返す。
ミサトは籠を片手に、露店の間をぶつぶつと歩いていた。
「まったく……なんで私が弁当なんて……。しかもあいつの……。あっ?好きな物聞いとくの忘れた。…けっ!何でも詰め込んで持って行ってやるか!残したらボコしてやるし!けっけっけっ!!」
『はい。ミサト。怒りながら楽しそうです』
「はぁぁぁんっ!怒ってないしっ!楽しんでもないっ!」
『はい。ミサト。ではその顔のゆるみは私の錯覚で宜しいですね?』
「むっきぃぃぃ!あんたほんっと性格悪いAIね!」
通りかかった八百屋の親父が笑った。
「おう!ミサトさん、今日も元気だねぇ!」
「あ、親父さん、トマトと卵ちょうだい!」
「へい、まいどっ。んっ?一人で食うには多いな?……なんだい、男の弁当でも作るのか?」
「えっ?べ、別に!?ちょっとしたピクニック!!」
その声が広場に響き、周囲がどっと笑った。
ミサトの頬が赤くなる。
籠がいっぱいになったころ、ゴブ次郎が息を弾ませて駆けてきた。
「あれっ?ボス、買い物かぁ? 荷物運び手伝う?」
「あははっ、ありがと!じゃあこの袋お願い!」
「へいっ!任せてもらいやす!」
ゴブ次郎が器用に荷物を担ぐ姿を見て、ミサトは思わず笑顔になる。
「ふふ……やっぱり、こういう時間が好きかも」
『はい。ミサト。ピクニック準備指数と共に心拍数も順調に上昇中』
「リリィうるさい、実況すんな!!それに心拍数が上がってるのは歩いてるからだよっ!」
◇◇◇
天守閣に戻ると、夕日が部屋の中をオレンジに染めていた。
ミサトは袖をまくり、調理台に向かう。
「さて、久々の弁当作り開始っと!」
並ぶのは湯ノ花特産の野菜、ふかした穀物、そして黄金色の卵。
まずは卵焼き。社畜時代、深夜残業でよく作った《自己慰労飯》だ。
、、ジュウッ。
「あっっっつ!! 油跳んだ!!」
『はい。ミサト。火加減オーバーです。冷静さが失われています』
「至って冷静です!リリィのせいよっ!」
『はい。ミサト。私のせいにしないでください。恋によっての判断ミス、、未知の現象です。恋と火加減の関係性を解析中……』
「解析しなくていいの!集中!集中!……てか、、私恋しちゃったんだ?多分気付いてないでしょ、、って言わせんなって!! あぁぁぁぁーー!焦げた~!」
卵焼きは焦げ、もう一度挑戦。
リリィが温度を調整し、三度目でようやく黄金色の巻き上がり。
「ふふっ、ほら見ろっ!やっと理想の色!」
『はい。ミサト。恋も料理も焦らないことです』
「もう!今日のあんた、リリィ語録がいちいち胸に刺さるのよ!」
次は握り飯。塩加減を確かめ、形を整える。
湯ノ花の米は粒が大きく、ほんのり甘い。
手のひらに残る温もりに、ミサトの心が少し落ち着いた。
「ねぇ?リリィ、これ、なんか不思議だね」
『はい。ミサト。何がですか?』
「人のためにご飯作るってさ、疲れるけど……なんか楽しい♪」
『はい。ミサト。社畜の辞書には“楽しい残業”という言葉もありましたね』
「いやいや、無いし…。楽しい残業なんてないから…。それと一緒にしちゃダメよ!」
ミサトは最後におかずを詰め、竹の箱に布をかけた。
鼻歌まじりで小さく笑う。
「おっしっ!完成~。ふふ、こんな気持ち、久しぶりかも」
◇◇◇
夜。湯気の立つ温泉に体を沈めると、疲れがふっとほどけた。
星々と月がキラキラと湯面に揺れている。
「……ねぇ?リリィ。ピクニックってさ、仕事じゃない約束だよね」
『はい。ミサト。労働の無い外出。社畜にとって未知の体験です』
「な~んかドキドキするんだよね。変だなぁ……」
『はい。ミサト。恋愛フラグ進行率、22パーセントになりました』
「はいはい!リリィちゃん。のぼせる前にもう出ますよ~」
◇◇◇
湯上がりの髪をタオルで拭きながら、布団に入る。
枕元のリリィから淡い光が覗く。
「ねぇ、明日……ちゃんと笑えるかな」
『はい。ミサト。笑顔の確率、98パーセント。残りの2パーセントは焦げ弁当の危険性です』
「あははっ。うっせっ! よし、寝る!おやすみ、リリィ」
『はい。ミサト。おやすみなさい』
湯ノ花の夜は静かに、やさしく更けていった。
ミサトの枕元では、竹の弁当箱がほんのり香っていた。
続
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