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第48話 【湖畔のピクニック】
しおりを挟む鳥の声が天守閣の窓の外で弾けていた。
湯ノ花の朝。柔らかな陽が障子を透かして、布団の上に白い模様を描く。
その光の中で、ミサトは寝ぼけた顔を半分だけ出して、もぞもぞと動いた。
「ん……んぁ……朝ぁ……?リリィ、、今何時??」
寝ぼけ声と同時に、隣から笑う気配がした。
「ふふ。おはよ、ミサト♡」
「……ん。、、おはよ~……」
半分夢の中で返した瞬間、ミサトの脳が急に覚醒した。
「、、ってあんた!? なんでいんのよ!?!?また人の寝顔見て“ハァハァ”してたんじゃないでしょうねっ!!」
布団の隣、肘枕をしたリュウコクが、爽やかに笑っていた。
陽光に髪がきらめき、微笑みまなこのハンサム王子スマイル。
「えっ?だって、朝のミサトの顔、見たかったんだもん♡そう思ったら眠れなくなって来ちゃった☆」
「遠足前の変態中学生かかかぁぁぁ!! てか!この天守閣のセキュリティどうなってんの!? エルナ、ゴブ太、ゴブ次呼んでこい!!」
『はい。ミサト。朝から大声出すと血圧上がりますよ? リュウコク侵入経路を割り出します。はい。王子のスマイルのようです。物理的防御を超越しています』
「このっ!簡単に物理防を超越してんじゃないよっ!!どんなバフかかってんのよっ! てか、なに!? ハンサム顔でここまで通すのやめてくれない!?そのうちこいつ、パンツ脱いで待ってるよ??」
「えっ?パンツは脱がないよ、、」
「ぶっきゃぁぁぁ!!ボケたのに流すなっ!!あんたは3枚ぐらい履いとけっ!」
枕を投げるミサト。受け止め、お決まりのごとく匂いを嗅ぐリュウコク。
ミサト怒る、そして笑う。
空気が、朝の光といっしょに少しだけやわらいだ。
「すーはーすーはー、、。ごめんごめん。でも、早く行こうと思ってさ。迎えに来たんだ」
「、、人の枕の匂い“すーはーすーはー”しながら謝られても、、。そんなにその匂いが好きなら嗅いでなさい、、。はぁ~……もぉ……。朝からびっくりさせないでよ……。せめてノックして」
ミサトはため息をつき、髪を結い直す。
けれど、その指先の動きが、どこか緩やかだった。
「リュウコク?朝ごはん食べる? パン食べれるよね?すぐ作るから。あとね、こないだザイールの帰りにコーヒー見つけたんだよ。飲むでしょ?」
自然に口をついて出た言葉。
リュウコクが少しだけ驚いた顔をした。
「えっ?いいの? 怒ってないの??」
「はぁ?なんで怒んのよ? あんたが私の寝顔見るのはお決まりでしょうよ、、朝来ただけで怒るほど私は心狭女じゃないのっ☆」
そう言ってミサトは笑った。
台所へ向かい、鍋を火にかける。
香ばしいパンの匂いが、静かな部屋を満たしていった。
リュウコクはその後ろ姿をじっと見ていた。
背中越しに、笑っても笑っていなくても分かるような温もり。
彼の胸に、遠い日の光景がふっと蘇る、、けれど、その記憶はまだ言葉にならなかった。
『はい。リュウコク。笑顔指数、若干上昇中。脈拍も』
「リリィ、空気読もうね?」
『はい。ミサト。空気読んで黙ることにします。……と言いながら喋っていますね。失敗しました』
「はい失敗~。テデー~♪リリィアウト~。あははっ!」
笑い声が天守閣に響いた。
◇◇◇
「このコーヒー? 少し苦い…」
「ふふっ、ちみはお子ちゃまだな。そんな時はこのモーモーパイパイを入れると……」
「うんっ!飲みやすい」 「でしょ~♪」
「よし!朝ごはん終了。じゃ、用意してピクニック行こっか!」
外に出ると、眩しい光の中に、豪奢な馬車が停まっていた。
白と銀の装飾、紋章の入った幌。
手綱を取るのは、リュウコクの私兵のひとり。
「ちょ、ちょっとこれっ!え、なにこの王族仕様!? もうちょっとこう……庶民感ないの!?私いつもの格好で来ちゃったし……」
「ふふ。どんな服だってミサトは似合うよ☆それにだって僕王様だし。ミサトも女王だし♡」
「いやいや、ピクニックだよね?確かに王様と女王の肩書きだけど、、これはやられましたな……」
ミサトは渋々乗り込む。
中はふかふかの座席に香草の香り。
揺れる度に外の光が反射して、まるで空を進んでいるようだった。
「それで、どこまで行くの?」
「えっ?内緒♡」
「出たよ内緒!!あんたの“内緒”ってだいたい碌なことないのよ!」
『はい。ミサト。私は今、空気を読んで静かにした方が良いでしょうか? それとも盛大にボケましょうか?』
「その質問がもう空気切ったよ!切り裂いたよ!!リリィザリッパーかよ!」
『はい。ミサト。了解。空気再接着試行中……失敗しました』
ミサトが頭を抱え、リュウコクが吹き出す。
そんなやり取りの中で、馬車は森を抜け、やがて開けた丘に出た。
◇◇◇
そこには、、
風の通る高原と、透明な湖が広がっていた。
「……わぁぁぁぁぁ……!」
ミサトは思わず声を上げた。
風が頬を撫で、湖面が空を映してきらめく。
草の香り、鳥の歌、光の粒。すべてが生きていた。
「すごい……ラインハルト領内にこんな場所あったんだ……」
リュウコクは微笑んで頷いた。
「うん。ここ、昔から好きなんだ。僕たちの国がまだ地図に小さくしか無い頃、、母さんとよく来てた場所なんだよ」
ミサトが振り返る。
リュウコクの目が、ふと遠くを見るように細められていた。
「母さん……?そーいえば、リュウコクのお母さん見た事ないね??」
「あぁ。ほら、あそこにあるだろ」
指さした先に、お花に囲まれた小さな石の墓があった。風に撫でられても、まるで微笑んでいるような、やさしい形。
「……ごめん、なんか……」
「ううん、いいんだ」
リュウコクは穏やかに首を振る。
「むしろ見てほしかった。僕の“原点”だから」
しばし沈黙。
風が草を渡り、湖面が静かに波を立てる。
「ねぇミサト。せっかくだし、お弁当出そうか。
母さんもきっと、君の作るご飯、喜ぶと思う」
ミサトは小さく頷き、竹の弁当箱を開けた。
卵焼きの甘い香り、ふっくらしたおにぎり、焼いたお肉、色彩鮮やかな野菜。
その一つ一つが、ミサトの奮闘の証。
「うん。すっごく美味しそう。作ってくれてありがとう。じゃあ、、ミサトの美味しいお弁当でも食べながら、少し“二人の昔話”でもしようか?」
リュウコクの声が、風の音に溶けるように響いた。
ミサトは静かに微笑み、湖を見た。
その瞳に映る水面は、どこか優しい光を宿していた。
リリィの声が、そっと囁く。
『はい。ミサト。私、今静かにしておきます』
その言葉だけが、風の中に落ちていった。
湖畔の空は青く澄み、二人の影が寄り添うように並んでいた。
続
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