お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん

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「お前を他の誰かに渡すつもりはない」

ヴァルター・フォン・エルンスト公爵のその言葉が、妙に胸に引っかかった。

怖い。いや、怖いんだけど……それ以上に、何か違和感がある。
まるで、私が誰かに奪われることを本気で恐れているような——そんな感じがした。

「……でも、私にはまだ心の準備が——」

必死に冷静を装いながら抗議しようとすると、公爵は無表情のまま、すっと手を伸ばした。

——カチャッ

「えっ?」

手首に何か冷たい感触。

驚いて見下ろすと、公爵の手によって、私の左手首には金のブレスレットが嵌められていた。

「な……?」

「これは俺の婚約者の証だ」

「ちょ、ちょっと待ってください!? いつの間にこんなものを……!」

「さっき準備させた。お前が拒もうが、既成事実を作ってしまえば問題ない」

「問題、大ありです!!!」

私は慌ててブレスレットを外そうとする。だが、これが意外なほどに外れない。

「え、外れない……?」

「当然だ。魔力認証がかかっている」

「ええええええ!?」

思わず悲鳴を上げると、公爵は淡々と説明を続ける。

「俺以外の者が外すことは不可能だ」

「そんなの、強制以外の何物でもないじゃないですか!!!」

「強制ではない。お前が受け入れればいいだけの話だ」

公爵はさらりと答えるが、どう考えても「拒否権なし」の状況である。
私はぐぬぬと唸りながら、どうにか抗議を続けた。

「そ、それに! こんなことをして、世間が納得すると思いますか!? 婚約破棄された令嬢が、いきなり帝国最強の公爵と婚約なんて……!」

すると、公爵は薄く笑った。

「だからこそ、俺がお前を妻に迎えることで、何もかもを覆す」

「は?」

「貴族社会は噂と権力で成り立っている。お前の悪評は、俺が婚約した瞬間に“存在しないもの”になる」

「そ、そんな簡単に……?」

「簡単だ。俺の言葉に逆らう者はいない」

……それはそれで問題があるのでは!?

私は頭を抱えた。
いや、本当に……この人、どこまで自分の力を使って私を引きずり込むつもりなの?

「そもそも、公爵は私と結婚して何の得があるんですか?」

最終手段として、「公爵がこの婚約で利益を得る理由」を突くことにした。
普通、貴族の婚姻は家柄や政略のために結ばれるものだ。

だけど、公爵はすでに公爵家として完成された地位を持っている。
私を妻に迎える理由がないはずだ。

だが、公爵は微かに目を細めると、低く言い放った。

「俺が欲しいのは、利益ではない。お前自身だ」

「————っ!?」

私の鼓動が、一瞬だけ跳ねた。

……な、何、この人。
私をどうするつもりなの?

「そのうち分かることだ。お前は俺のものになる。それだけだ」

そう言いながら、公爵は私の手を軽く握る。
その手は驚くほど熱く、私の心臓が無駄に早鐘を打ち始めた。

——待って待って待って。


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