お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん

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「お前は俺のものになる。それだけだ」

ヴァルター公爵の言葉が耳に残る。
彼は当然のように言ったけれど、こちらの気持ちは完全に無視されている。

私は彼の手を振り払おうとしたが、がっしりと握られたままで動かせない。
やっぱり、この人、力が強すぎる。

「……っ、そんなの納得できません」

震える声で抗議する。

すると、公爵は軽く目を細め、わずかに口角を上げた。

「そうか。では、納得できるようにしてやろう」

「え?」

私が言葉の意味を理解するよりも早く、公爵は立ち上がり、扉を開けた。

「ルドルフ」

「はっ」

即座に現れたのは、執事のような老紳士。
シルバーグレーの髪に黒の燕尾服をまとい、落ち着いた佇まいが貴族社会の重鎮らしさを醸し出している。

「彼女の婚礼の準備を進めろ」

「かしこまりました」

「ええええええええ!?」

私は思わず叫んだ。

「ちょっ、公爵!? 何勝手に話を進めてるんですか!?」

「婚約を発表する以上、それなりの準備が必要だからな」

「私の了承、取ってませんよね!?」

「俺の婚約者なのだから、当然だ」

「当然じゃない!!!」

思わず机を叩く。
だが、公爵は全く動じる様子もなく、ただ淡々と続ける。

「まずは、お前のために相応しいドレスを仕立てる。すぐに仕立て屋を呼ぶから、採寸を——」

「ちょっ、待ってください!!!」

私は勢いよく立ち上がり、彼の言葉を遮った。

「……どうして、こんなに急ぐんですか? もっと時間をかけて、お互いのことを知ってから——」

「時間をかける意味があるのか?」

公爵は静かに私を見つめる。

「俺の気持ちは決まっている。お前は俺の妻になる。それだけだ」

「っ……!」

「それとも、お前は俺ではなく、別の男と結婚したいのか?」

「そ、そういう話じゃ——」

「なら問題ない」

またしても、話を強引にまとめようとする。

「だから、そうじゃなくて!!!」

私は必死に抵抗するが、公爵は一切動じない。
むしろ、微かに楽しそうにさえ見えた。

「ふむ、どうやらまだ覚悟ができていないようだな」

「えっ?」

「ならば、少しずつ慣れさせるとしよう」

「な、なにを……?」

嫌な予感がする。
次の瞬間、公爵は静かに私に近づき、顔を寄せた。

「まずは、これから毎晩、俺と食事を共にしろ」

「は!?」

「婚約者なら当然だろう?」

「いえ、当然じゃない!!!」

「それと、屋敷の中では常に俺のそばにいろ」

「ええええ!?」

「寝室も、俺の部屋の隣に移す」

「いやいやいや!! それは絶対におかしいですよね!?」

私は思わず後ずさるが、公爵は無表情のまま淡々と続ける。

「お前が逃げようとしても無駄だ。王に婚約を認めさせた時点で、お前はすでに俺のものだ」

「そ、そんなの、知らない……!!」

「知る必要はない。お前はただ、俺のそばにいればいい」

彼の冷静な声が耳に響く。
それはまるで、逃げ道を完全に塞ぐような宣告だった。

「……覚悟しておけ。これからじっくり、お前を俺の妻にする」

私はその場に立ち尽くした。

「えっ……?」

頭が真っ白になる。

——この人、本気で私を逃がす気がない。

そして、そう考えた瞬間、私の心臓は、なぜか強く跳ねた。
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