脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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おかしな戦い

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「よーし、まずはその見た目をどうにかしちゃおうか」
リディアは目玉の魔物を見上げながら、バッグから「色変わりポーション」を取り出した。キラキラと輝く液体が入った瓶を軽く振ると、ふわっと甘い香りが漂う。

「これで少しは可愛くなってね」そう言って、リディアはポーションを魔物に向かって振り掛けた。

ぽたりと液体が触手に触れた瞬間、赤と青の不気味な色合いが、柔らかな黄色と水色に変わっていく。鮮やかだった触手は、まるでおもちゃの飾りのような可愛い色合いになり、魔物全体の雰囲気が一気に軽くなった。

「ほら、全然怖くないじゃない?」リディアは満足げに笑ったが、その瞬間、巨大な目玉がぎょろりと彼女を睨んだ。

「おっと、まだ怒ってるのね」

魔物は触手を大きく振りかざし、リディアに向かって勢いよく襲いかかってきた。その動きは見た目の可愛さとは裏腹に鋭く、周囲の空間が風圧で震えるほどだった。

「きゃっ、危なっ!」リディアは素早く身をかわしながら、今度は「にこにこポーション」を取り出した。手早く瓶の蓋を外すと、魔物に向けてポーションを投げつける。

「これでもくらいなさい!」

瓶が魔物に当たると、ぶわっと紫色の煙が広がり、魔物の目玉がピクピクと動き始めた。触手も力が抜けたようにゆるゆると垂れ下がり、次第に奇妙な音が響き始めた。

「ぐ、ぐふっ、ふふふ、ははははは!」

巨大な目玉の魔物が、笑い声を上げて地面を揺らし始める。触手をばたばたさせながら笑い転げる姿は、先ほどまでの威圧感がまるで嘘のようだった。

「ふふっ、なかなか面白いじゃない?」リディアはくすっと笑いながら、次の一手を考える。そして、バッグの中から「くにゃくにゃポーション」を取り出し、さらに追い打ちをかけるように魔物へ投げつけた。

液体が魔物の体にかかった瞬間、その大きな目玉がぐにゃりと形を変え、触手もとろけるように柔らかくなっていく。

「これで動きにくくなったでしょ?」

リディアは余裕の笑みを浮かべながら、メリーちゃんを振り返った。「ね、メリーちゃん。これならもう怖くないよね?」

メリーちゃんは黄色と水色に変わった触手を見つめ、満足げにメェと鳴いた。魔物はまだ笑い続けていたが、力を失った触手が地面に垂れ下がり、戦う意欲をすっかり失っているようだった。

「ふぅ、これでひとまず突破成功かな」リディアは胸をなで下ろしながら、次の進路を探し始めた。

目玉の魔物は笑いながら触手をくねらせ、最後には降参した様子で生垣を操り始めた。生垣の壁がぐにゃりと動き、やがてリディアに先の道を示すように隙間が開く。

「やればできるじゃない」リディアは満足げに魔物に微笑みかけ、メリーちゃんと共にその道を進んでいった。

道の先に現れた階段を降りると、広々としたフロアにたどり着いた。奥には立派な大きな扉があり、どっしりとした存在感を放っている。しかし、辺りを見回しても魔物の姿はない。静寂がフロア全体を包み込み、少しだけ不気味な雰囲気も漂っていた。

「うーん、この扉の向こうに何かあるのかな?でも、今日はここまででいいや」リディアは扉を一瞥し、フロアの一角に腰を下ろした。

メリーちゃんが嬉しそうに彼女の足元に寄り添うと、リディアはその柔らかな綿菓子毛を撫でながら言った。「メリーちゃん、ちょっと疲れたよね。ここで休憩しちゃおっか」

そう言うと、リディアはメリーちゃんに頼んで綿菓子毛から道具を取り出してもらった。ふわふわのお布団や小さなベッド、さらには食事の準備道具まで次々と現れる。

「これで準備はバッチリ!」リディアは手際よくお布団を広げ、ランプを灯すと、バッグから持ってきた軽食を取り出した。

「いただきまーす」リディアはにっこり笑って、持参していたパンとスープを頬張り始める。その横ではメリーちゃんもご飯を楽しんでいるようだ。

「ここ、静かで意外といい場所だね。明日は扉の向こうを調べてみようかな」そう呟きながら、リディアは満たされたお腹をさすり、お布団にくるまった。

メリーちゃんもすぐそばに丸くなり、彼女のぬくもりを感じながら眠りにつく。フロアの静けさと柔らかな灯りに包まれ、リディアはすぐに夢の中へと誘われていった。

広大なダンジョンの中でも、二人だけの小さな安らぎの時間がそこにあった。
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