脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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ぴょんぴょん!

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扉を押し開けたリディアの目に飛び込んできたのは、しっとりとした青い光に包まれた広大な空間だった。そこには水面がどこまでも広がり、その上に大小さまざまな蓮の葉が浮かんでいた。空間全体に涼やかな空気が漂い、ぽつぽつと降り注ぐ水滴の音が静けさを際立たせている。

「わぁ、すごい。水のダンジョンってこういう感じなんだ」リディアは感嘆の声を漏らしながら、足元の蓮の葉にそっと足を乗せた。ふわりと揺れる感触に少し驚いたが、案外しっかりした足場だとわかり、すぐに笑顔になった。

メリーちゃんはリディアの後ろをちょこちょことついてきて、毛をふわふわさせながら水しぶきを避けるように飛び乗った。リディアが一枚の蓮から次の蓮へと飛び移るたびに、軽快な声が響く。「ぴょーん!これ、楽しいね、メリーちゃん!」

メリーちゃんも嬉しそうに「メェ」と鳴きながらぴょんぴょん跳ねる。その様子はまるで水上のアスレチックを楽しむ親子のようだ。

ところが、途中の蓮に降り立ったとき、水面がざわざわと揺れ始めた。リディアが警戒して周囲を見渡すと、水の中から大きな紫色のカエルが顔を出した。体長はリディアの身長ほどもあり、瞳がギラギラと光り、不気味に舌を出し入れしている。

「わ、でっかいカエルだ!…でも、ちょっと可愛くないね」リディアは小さくつぶやき、メリーちゃんを背後に下げた。

カエルの魔物は低い鳴き声を響かせながらリディアに向かって跳びかかってきた。リディアはすばやくポーチからポーションを取り出すと、投げつける準備を整える。「そんなに威張ってたら痛い目見るよー!」

まずは「ピカピカポーション」を放り投げた。ポーションが割れると、強烈な光が辺りを照らし、カエルの魔物が目をつぶして怯む。その隙にリディアは「滑るポーション」を続けて投入。蓮の葉に降りかかった液体で表面がつるつるになり、カエルの魔物がバランスを崩して滑り落ちていく。

「よし、作戦成功!」リディアは蓮の葉の端で小さくガッツポーズを決めた。メリーちゃんも「メェ!」と勝ち誇ったように鳴き声をあげる。

そのままリディアはカエルの魔物を後にし、慎重に蓮の葉を渡り歩きながら進んでいった。水のダンジョンはまだまだ奥深いが、リディアの顔には不安の色はなく、むしろ楽しそうな笑みが浮かんでいる。

「この調子なら、もっと奥まで行けるかもね。いいものが待ってる予感がする!」明るい声を響かせながら、リディアは再び蓮の上をぴょんぴょんと跳ねるように進んでいった。
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