脱走聖女は異世界で羽をのばす

あたらしい冒険

秘密基地に戻ったリディアは、さっそくメリーちゃんのふわふわな毛を撫でながら考え込んだ。「あの水晶、ただの宝物じゃないわね。メリーちゃんがあんなふうに成長するなんて…」

棚に並べたスノードームのような水晶をじっと見つめると、中の光がまるでゆっくりと脈打つように輝いているのに気がついた。「これって、まだ何か隠された力があるのかな？」リディアは指先でそっと水晶に触れたが、特に変化は起きない。

「ま、急がなくてもいいよね。きっとタイミングがくれば分かるはず！」と呟き、リディアは軽く伸びをした。冒険の疲れがじわじわと体にのぼってきて、心地よい眠気を感じる。「とりあえず今日はもう休もう。ね、メリーちゃん」

しかし、そんなリディアの気持ちを察したのか、メリーちゃんは綿菓子毛からまた新しいものを取り出して見せた。それは、今までに見たことのない小さな透明な結晶だった。「なにそれ？」リディアが驚いて聞くと、メリーちゃんは「メェ！」と得意げに鳴く。

「…さっきの冒険のどこかで拾ったの？もしかしてドラゴンの巣穴？」リディアは結晶を手に取って観察する。光を反射してキラキラと輝き、不思議な温かみが手に伝わる。

「うーん、これは…ただの装飾品じゃなさそうね。魔力を感じる…けど、何に使えるのかしら？」リディアは再び考え込む。

その時、机の上に置かれた魔法の地図がまたもや音を立て始めた。「えっ、また何か教えてくれるの？」地図を広げると、先ほどの水晶と結晶について小さな文字が現れる。

「水晶と結晶を合わせて使えば、秘められた扉が開かれる」

リディアは目を丸くしながら、「扉…？どんな扉？」と声に出したが、地図はそれ以上は教えてくれない。

「結局また自分で探せってことね…まったく、もう少しヒントが欲しいんだけど！」リディアは少し肩を落としながらも、その新しい冒険の可能性に心が踊るのを抑えきれなかった。「でも、なんだか面白そう。次はその扉を探しに行くか！」

メリーちゃんも満足そうにふわふわの体を揺らしながらリディアに寄り添う。「まずは明日に備えてしっかり寝て、次の冒険に挑もうね！」リディアは結晶と水晶を丁寧に布で包み、秘密基地の安全な場所にしまい込んだ。そしてメリーちゃんと一緒にふかふかのベッドに潜り込むと、また新しい夢を見るような気持ちでゆっくりと目を閉じた。

次の冒険がどんなものになるのか、期待と少しの不安を胸に抱きながら、リディアの秘密基地には静かな夜が訪れた。



翌朝、リディアはダンジョンの裏手にある小川で水浴びをしていた。透明な水が冷たくて気持ちよく、空には雲ひとつない青空が広がっている。「あー！気持ちいい！」髪の水滴を払いながら、リディアはにっこりと笑った。

「さ、そろそろ戻ろっか。朝ごはんも食べたいし！」水辺に佇んでいたメリーちゃんに声をかけると、彼女も嬉しそうに「メェ！」と返事をした。

秘密基地に戻ると、机の上に広げたままの魔法の地図が小刻みに震えていた。「あれ、どうしたの？また何か教えてくれるの？」リディアが急いで地図を覗き込むと、地図の中央に新しい場所が光っている。

「ん？ここって…街の中？」リディアは目を細めて場所を確認した。「え、ダンジョンじゃないの？街の中に冒険があるなんて、なんだか変な感じ！」

メリーちゃんも地図の光をじっと見つめ、まるで「行こうよ」と言いたげにリディアの足元をくるくる回った。
「そうだね！街なら美味しいものもいっぱいあるし、ちょうどいいや！」
リディアは地図を丸めてバッグにしまい、綿菓子毛に隠してもらった。

「準備オッケー！じゃあ行ってみよっか！」

街へ向かう道中、リディアは鼻歌を歌いながら軽快な足取りで進む。メリーちゃんもその横でぴょんぴょん跳ねながらついていく。
「でも街のどこだろう？また宝物とか隠されてるのかな？それとも誰かが困ってるのかも？」次々と思いついたことを口にするリディアに、メリーちゃんは「メェ！」と相槌を打った。

街の門をくぐると、活気ある人々の声や香ばしいパンの匂いが迎えてくれた。

「うーん、やっぱり街はいいね！なんだかほっとする！」リディアはまず広場に向かうことにした。「地図が示してたの、どの辺だろう？…あっちかな！」

地図が指し示しているのは、どうやら街の商店街のあたりらしい。「お買い物の途中で宝物見つけちゃうなんて、そんなことあるかな？」リディアはワクワクしながら歩き出す。