脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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きゃっ

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森の奥からひらひらと花びらが舞い散る中、突然現れたのは大きなお花の魔物だった。
茎は太くしなやかで、歩くたびに地面をざくざくと揺らし、鮮やかな花びらが揺れるたびに甘い香りと不気味な気配が入り混じる。
リディアは思わず立ち止まり、目を丸くしてその姿を見上げた。

「うわあ…きれいだけど、なんか怖いね！」リディアは感嘆とも恐れともつかない声を漏らした。

「美しい…が、油断ならないな」セリルが剣を握り直し、慎重に距離を詰めようとする。

「おい、妙な香りだ。気をつけろ！」ハーゲンが鼻をすすりながら警告する。

その時、お花の魔物がぐわんと頭を揺らし、花びらが舞い上がると同時に茎がしなるように動いてリディアたちに迫った。

「よし、任せて！」リディアは慌てずに色変わりポーションを取り出し、「これで気分転換だよ！」と投げつけた。
ポーションは魔物の花弁に命中し、鮮やかな赤と黄色のグラデーションだったその花びらが一瞬で奇抜な紫と緑のまだら模様に変わった。

お花の魔物は動きを止め、じっと自分の花びらを見下ろす。

そして一瞬、森中に響くような低い鳴き声を上げたかと思うと、まるで恥ずかしそうに茎をしゅるりと縮め、顔を隠すように葉っぱを広げた。

「えっ…気にしてるの？」
リディアが首を傾げると、セリルも呆れたように口元を緩めた。「どうやら彼にとって、自分の美しさは誇りだったみたいですね」

「はは、なんだそりゃ、意外と繊細なやつだな」ハーゲンが肩を揺らして笑う。

お花の魔物はもう一度小さく鳴くと、恥ずかしそうに森の奥へと消えていった。
その背中はどこかしおれているようにも見えたが、茎をぴんと伸ばして走る姿にはまだ余裕の名残があった。

「なんか悪いことしちゃったかな？でも、しょうがないよね！」リディアはくすくす笑いながら手の中の空の瓶を振り、メリーちゃんの頭を撫でた。

「まあ、戦わずに済んだのはいいことだろ。次に進むぞ」
ハーゲンが前方を指し示し、また一行は歩みを進め始めた。
森は再び静寂を取り戻したが、その奥にはまだまだ未知の気配が潜んでいるようだった。

森の奥へ進むにつれ、木々はますます高く茂り、薄暗さが一層深まっていく。
リディアはメリーちゃんを先頭に、柔らかな足音を立てながら小道を歩いていた。

その後ろを熊騎士ハーゲンとセリルが慎重に進む。空気は湿っぽく、どこからか鳥の鳴き声が響くが、それすらも遠く感じるほど静かな森だった。

「このあたりは怪しいですね…足跡も途切れている」とセリルが小声で呟き、周囲を警戒する。

「気を抜くなよ、いつ魔物が出てきてもおかしくない」ハーゲンが低い声で答えた。その言葉が終わるか終わらないかのうちに、茂みがガサガサと動き出した。

「わあ、出てきそう！」リディアが声を上げると同時に、巨大な魔物が茂みを割って飛び出してきた。
それはまるで木の根が絡み合ったようなゴーレム型の魔物で、腕を振り上げながらハーゲンに襲いかかる。

「任せとけ！」
ハーゲンはすぐさま盾を構え、ゴーレムの一撃を受け止めたが、その力は想像以上に重かった。
盾を押し返そうと力を込めた瞬間、魔物の別の腕が彼の肩に直撃する。

「ぐっ…！」ハーゲンはその場に膝をつき、肩から鮮血が滴り落ちる。

「ハーゲンさん！」リディアが駆け寄るが、セリルが剣を抜き、素早くゴーレムを牽制した。「リディアさん、治療を！僕が時間を稼ぎます！」

「わかった！」リディアは慌ててハーゲンの肩に手をかざし、治癒の魔法を唱えた。リディアの手のひらから温かな光が溢れ、傷口を包み込むように広がっていく。

「大丈夫だよ、痛いの痛いの飛んでけ～って感じで治るから！」リディアは一生懸命声をかけながら魔法を続ける。
やがてハーゲンの苦悶の表情が和らぎ、肩の傷が徐々に塞がっていった。

「助かったぜ…すまねえな」ハーゲンが立ち上がりながら感謝の言葉を呟いた。

一行は魔物を退けた後、少し進んだ開けた場所で野営の準備を整えた。
火を焚き、簡単な夕食を取ったものの、夜の森は不穏さを増しており、騎士たちは交代で見張りをすることに決めた。

「俺たちで夜を明かす。リディア、お前は休んでろ」ハーゲンが断言すると、リディアは少し困った顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「それなら…私たち、秘密基地に戻るね！」

「秘密基地？おい、何を…」ハーゲンが不思議そうに聞き返す間もなく、リディアはメリーちゃんを抱きしめ、静かに唱えた。「メリーちゃん、帰ろ！」

次の瞬間、リディアとメリーちゃんは目の前からふっと姿を消した。

秘密基地に戻ったリディアは、ふかふかの布団に包まれながらメリーちゃんと美味しいご飯を楽しんだ。
ポーション作りや冒険の計画をぼんやりと考えながら、リディアは満ち足りた表情で眠りについた。
森の夜を戦いながら過ごす騎士たちのことを少しだけ思い出しつつ、「また明日も頑張ろう」と小さく呟いた。

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