脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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えーい!

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リディアたちは森を歩き回りながら、やたらとカラスが多い地点に気がついた。木々の間から、カアカアという鳴き声が何度も響いてくる。その鳴き声に何か不吉なものを感じたのか、ハーゲンが眉をひそめて言った。

「どうも妙だな。あのカラスたち、ここらにばかり集まってやがる。」

セリルも周囲を見回しながら、頷くように言葉を継ぐ。「ええ、たしかに。何かあるのかもしれません。調べてみましょうか。」

リディアは少し緊張した面持ちで、メリーちゃんの背中を撫でた。「カラスってなんだか不気味だよね。でも、ここに集まってるってことは、やっぱり原因が近いのかも……。」

一行がその地点へと近づくにつれ、空気がじわじわと重くなっていくのを感じる。嫌な感じの風が吹き、カラスは周りの木々にとまったまま、ぎょろりと彼らの動向を見つめていた。

「うわ……あれ、なんか変じゃない?」リディアが呟き、指さした先には小さな泉があった。だが、その泉は澄んだ水とは程遠く、黒く濁った水面が不気味に波打っている。

泉のまわりには、動く木や花の魔物たちが集まっていた。人為的に呼び寄せられたかのように、茎や枝を揺らしながら、禍々しい波動を放っているようにも見える。

「これが森の異変の原因か……?」ハーゲンが低い声で唸り、手にした剣の柄を握りしめた。

セリルが、厳かに泉を見つめて言う。「あの中央にあるのは……クリスタルでしょうか。黒い結晶が鎮座しているように見えますね。」

確かに、泉のほぼ中央には黒いクリスタルのような物体があった。それが水を濁らせ、魔物たちを引き寄せているのかもしれない。凍りついた水面のように闇色を帯びたその結晶は、不気味な輝きを放ち、周囲に禍々しい雰囲気を漂わせていた。

「やっぱり、こいつが元凶だと思う?」リディアはメリーちゃんに目をやりながら、まだ遠巻きに状況を伺う。

「さあな……だが、見逃すわけにはいかねえ」ハーゲンは大きく息をつき、セリルも頷くように剣を握り直した。

遠巻きに様子を見ている動く木や花の魔物たちも、まるでこの泉とクリスタルを守っているかのようだ。リディアは手の中のポーションをそっと握りしめ、緊張の糸をはらりと張りめぐらせた。


騎士たちの視線を合図に、リディアとメリーちゃんは黒いクリスタルのほうへ駆け出した。

途端に、泉のまわりに群がっていた木や花の魔物が一斉に反応し、動きが早い者たちがリディアたちの行く手を阻むように飛びかかってくる。

「任せろ!こいつらは俺たちが引きつける!」ハーゲンが大剣を構えて吠えるように叫び、セリルは瞬時に脇に回って魔物たちの背後を狙った。二人の連携は抜群で、大柄の魔物さえも一瞬で怯ませてしまう。

「ありがとー!行ってきまーす!」
リディアは笑顔でそう呼びかけると、メリーちゃんとともにガラ空きになった泉への道を走り出した。黒いクリスタルが視界に入るたび、彼女の鼓動が高まる。

しかし、あと少しというところで、小型の花の魔物が泉の側から飛び出してきた。「きゃっ!」悲鳴をあげながら慌てて後ずさるリディア。魔物の触手のような蔓が、鋭い音を立ててリディアを狙う。

「やばっ、どうしよう!何でもいいから投げちゃえ!」焦りから、リディアは無造作にポーチに手を突っ込み、適当に掴んだ瓶を何本か泉へ思い切り放り投げた。瓶はくるくると回転しながら闇色の水面に落ち、パリンと音を立てて割れる。

「やばっ、何投げたか分かんない……!」リディアは顔を強張らせたまま、魔物の攻撃が空振りした隙を見て泉から距離を取った。目を凝らすと、泉の水に溶けていくのは治癒ポーション、色変わりポーション、そしてニコニコポーションのようだった。

「ええっと、色変わりとニコニコに治癒ポーション……?」状況を把握しながら、リディアは苦笑を浮かべる。「大丈夫かなぁ、変な反応しないといいけど……」

メリーちゃんも少し離れた位置で「メェ!」と心配そうに鳴いている。とにかく泉に近づけない今、リディアは仕切り直すように深呼吸し、「まだ魔物がうじゃうじゃいるし、まずは落ち着いて体勢を整えよう!」と決意を固めた。

周囲では、騎士たちがまだ激しい応戦を続けている。「あのクリスタル、どうにかしなきゃならないのに……!」リディアは唇を噛みながら、次の作戦を練り始めるのだった。
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