脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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作戦会議

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街の騎士団本部は、石造りの重厚な建物が目印だった。

リディアが門をくぐると、広い中庭には鎧をまとった騎士たちが整列し、指揮官からの指示を受けている。
ハーゲンやセリルのような面々も、こうして日々の訓練や遠征準備に追われているのかもしれない――そんな想像をしながらリディアは受付で名前を告げた。

「ええと、契約冒険者のリディアです。呼び出しがあったと聞いて来たんですが…」
受付の騎士が「ああ、リディアさんですね。お待ちしていました」と慇懃な態度で頷き、奥の部屋へ案内する。

そこは遠征の作戦会議室のようで、地図や書類が並んだテーブルを囲む騎士たちが何人もいた。リディアが顔を出すと、何人かの視線が集まる。
中にはハーゲンやセリルの姿もあるが、彼らの背後には、まだ見ぬ騎士たちがずらりと居並んでいた。

「来たか、リディア。遅れなかったな」
ハーゲンが腕を組んで声をかける。その視線は一瞬リディアの隣にいるタフィーちゃんへと移り、「ん? それが噂のチョコスライムか?」と眉を上げる。

「はい、タフィーちゃんです。メリーちゃんに続く、わたしの頼もしい仲間!」
リディアが笑顔で紹介すると、チョコレート色の体をぷるんと揺らしながら、タフィーちゃんはまるで「よろしく!」といわんばかりに跳ねた。周りの騎士たちはその様子に驚いた顔を見せつつも、興味深そうに目を細めている。

セリルがやわらかい微笑みを浮かべて、「リディアさん、お久しぶりです。あなたの新しい仲間にも会えて嬉しいですよ」と声をかける。タフィーちゃんに軽く手を振り、チョコレートの香りに気づいたのか「いい香りですね」とつぶやいて笑った。

話を切り出したのは、テーブルの地図を示していた指揮官らしき人物だった。「さて、本題ですが、今回の遠征は国境付近の森での大規模な魔物討伐を行います。そろそろ人里近くまで魔物の被害が及びそうだとの報告があり、早急な手を打つ必要があるんです」

リディアは地図を覗きこみ、指で示された森林地帯を確認した。確かに国境近くの広い森で、道が少なく険しい地形が続くように見える。「なるほど、あの辺りだと大軍での行軍も大変ですよね」

「そこで、あなたには後方部隊として回ってもらいたい」と指揮官が続ける。「治癒魔法やポーションの使い手として、傷病兵の治療や物資の管理などに協力していただきたい。もちろん、メリーちゃんやタフィーちゃんの力も頼れるなら助けになるでしょう」

リディアは素直に頷き、「わかりました。わたし、力の限り頑張ります!」と答えた。後方支援ならば酷使される心配もないし、契約冒険者としての範囲内できちんと働ける。指揮官もその言葉に安心したようだ。

リディアは得意げに微笑む。
「実はわたし、先日 ‘空飛ぶ絨毯’ を手に入れたんですよ! だから、それに乗って行こうと思って。重い荷物はメリーちゃんにお任せですし、タフィーちゃんも一緒に乗せれば大丈夫そう!」

周囲の騎士たちが「空飛ぶ絨毯?」とざわめき始める。ハーゲンは腕を組んで「なんだそりゃ……」と呆れつつも、おもしろそうだという視線を隠しきれない。セリルも「なるほど。なら、移動がだいぶ楽になりますね」と頷く。

「よし、ほかの部隊とは別行動ができるな。後方から自由に動いて、傷病兵のもとへ急行できるのは助かる」
指揮官は納得した様子で書類に何か書き込むと、「では、リディア、君の部隊は独立して行動してもらう形で手配する」と言い放った。

リディアは心の中で「やった、自由行動だ!」と小さくガッツポーズを取り、メリーちゃんの背をぽんぽんと叩く。タフィーちゃんも「ぷるん!」と身体を揺らして嬉しそうだ。

「ありがとう。そしたら準備ができしだい出発しますね。あとは当日よろしくお願いします!」
そう言ってリディアは依頼書をまとめ、騎士団の面々に一礼する。ハーゲンとセリルが「くれぐれも気をつけろよ!」と声をかけるのを聞きながら、三人(リディア、メリーちゃん、タフィーちゃん)は部屋を後にした。

こうして再び、リディアの旅立ちが始まる。今度は国境付近の森の魔物討伐の後方支援だが、空飛ぶ絨毯のおかげでどんな冒険が待っているのか――期待と少しの不安を胸に、秘密基地での最終準備を固めるために帰路につくのであった。
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