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出発
しおりを挟む遠征の準備を大方終えたリディアは、翌日からの長旅に備えて最後の夜をゆったり過ごすことにした。
向かう先は国境付近の森。後方支援とはいえ、歩き疲れや緊張が続くかもしれない。そんな考えから、彼女は自然と溶岩フロアのお風呂エリアへ足を運んでいた。
「いやあ、やっぱりお風呂は最高!」
リディアはタオルを肩にかけ、メリーちゃんとタフィーちゃんを連れて浴槽のそばに立つ。噴水が湯船に向けて勢いよく温水を落とし、湯気がほんのりと揺らめいている。
メリーちゃんは「メェ!」と鳴きながら、ふわふわの尻尾を振って嬉しそう。タフィーちゃんも、ぷるるんとチョコレート色の体を揺らしている。
「あはは、二人とも入りたそうだね。タフィーちゃん、あんまりとろけないように注意してね!」
軽くジョークを交えながらリディアはそっと湯船に浸かると、ほどよい温度が体を包み込み、うっとりするような感覚が走る。
メリーちゃんもさっそくお湯のそばでくつろぎ、タフィーちゃんも端っこでぷるぷるとアヒルのおもちゃにちょっかいを出している。
こうして溶岩フロアでのラグジュアリーな温泉タイムを楽しみながら、リディアは心身ともにリラックスする。
しばらく汗を流し、湯気を浴びているうちに明日の出発への不安よりも楽しみが増してきた。
「明日は空飛ぶ絨毯に乗って行軍か……すっごく楽しみだなあ。準備は万端だし、今日はぐっすり寝て早起きしよう!」
湯船から上がってタオルで体を拭きながら、リディアはメリーちゃんとタフィーちゃんにも優しく声をかける。その日の夜は、湯上がりのままふかふかの布団に潜り込み、三人で幸せな眠りについた。
朝早く、リディアは秘密基地を後にして街の外れで騎士団と合流した。
行軍用に長い隊列が組まれ、騎士たちは馬にまたがり、物資を積んだ荷馬車も続いている。ハーゲンやセリルの姿を見つけると、リディアは手を振った。
「おう、来たか! 今日から数日は馬で移動するぞ。お前は……それか?」
ハーゲンが視線を向けた先には、リディアが広げた空飛ぶ絨毯がふわふわと浮いている。メリーちゃんは楽しそうに乗り込み、タフィーちゃんも絨毯の端にちょこんと乗っかって安定感を確かめているところだ。
「うん、こっちはこっちで行くから大丈夫だよ。万が一、怪我人が出てもすぐに駆けつけられるし!」
リディアはにこりと笑い、絨毯にひらりと飛び乗った。ハーゲンは苦笑しながら「まあ、お前らしいな」とつぶやき、セリルも「お気をつけて」と穏やかに頷く。
「それじゃあ、後方部隊、出発!」指揮官の合図で騎士団が馬を進め始める。馬蹄の音が地面に響き渡り、大きな荷馬車がごとごとと続く様子はまさに行軍の風景だ。リディアはその少し後ろに絨毯を浮かせ、ついて行く。
「わぁ、すごい……こんなに大勢で移動するんだ」
リディアがわくわくしながら辺りを見回すと、メリーちゃんはふわふわ毛の中から小さなバスケットを取り出し、「メェ!」と鳴いてリディアに差し出す。「ん?ああ、おやつとお茶のセット?」
どうやら軽いティータイムをしながら行軍をのんびり追えるように、メリーちゃんが用意していたらしい。タフィーちゃんもぷるんと体を弾ませ、チョコブロックの塊を一口サイズに出してくれたりする。
「なんだか申し訳ないくらい優雅だね……でも折角だから楽しもう!」
リディアは笑みを浮かべてバスケットを開け、魔法のキャンディやクッキーを取り出した。お湯もちゃんと用意してあって、バッグからティーバッグを取り出し、絨毯の上でささやかなティータイムを始める。馬に揺られている騎士たちの後方でこんなにくつろいでいる姿に、通りがかった兵士が目を丸くして行く。
「メリーちゃん、タフィーちゃん、ほんとにありがとう。おかげで疲れずに行軍できちゃうよね!」
ふわふわの毛に寄りかかり、タフィーちゃんのチョコをちょっぴり味見しながら、リディアは風を受けて心地よさそうに眼を細める。ときどき人々が振り返り、「おお、あれが空飛ぶ絨毯か!」と驚いたり、羨望のまなざしを送ったりしているけれど、リディアは笑顔で手を振って応じるだけだ。
その後もずっと絨毯での移動が続き、時にはリディアが地図を確認しながら「この先、山を回り込むからちょっと遠回りするかも」といった情報を伝えたり、怪我人がいないか騎士団の列を上空から見渡したりと、後方支援ならではの便利さを発揮していく。
「こんな感じなら遠征も悪くないね。さあ、みんな、がんばろう!」
陽射しを背に受けながら、リディアは絨毯を少し前に移動させて、騎士団の様子を確認する。馬に揺られながらも真面目に行軍を続ける騎士たちの後ろで、ティータイムやブラッシングを楽しむ光景は、まるで自由で平和そのもの。リディアは、メリーちゃんとタフィーちゃんに囲まれて、また新たな冒険が始まった予感に胸を弾ませるのだった。
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