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山へお散歩
しおりを挟む秘密基地でのんびりしていたリディアは、ふとあることを思い出した。前回の騎士団からの遠征依頼――確か、無事に達成して報酬をもらえるはずだったのに、それをすっかり忘れていたのだ。
「しまった! せっかく頑張ったのに!」
慌てて秘密基地の扉を開けたリディアは、メリーちゃんとタフィーちゃんを呼び寄せた。
「メリーちゃん、タフィーちゃん、一緒にギルドまで行こう! 報酬をもらい忘れてたの!」
「メェ!」
メリーちゃんはふわふわの毛を揺らして返事をし、タフィーちゃんも元気よく体をぷるんと震わせる。三人はすぐさまギルドダンジョン支部に向かって出発した。
ギルドのカウンターに到着したリディアは、見慣れた受付嬢に元気よく声をかけた。
「こんにちは! この前の遠征依頼の報酬、もらい忘れちゃってて!」
受付嬢はリディアを見るなり、苦笑いしながら小さな包みを取り出した。「リディアさん、気づいてよかったです。こちらが報酬のポーション素材セットと金貨10枚です。」
「やったー! ありがとう!」
包みを受け取り、金貨の輝きに目を輝かせるリディア。その様子に受付嬢も微笑みを返した。
「また何かありましたら、ぜひお願いしますね。」
「もちろん! また依頼があったら声かけてね!」
帰り際、ギルドの掲示板に目を向けたリディアは、鮮やかな色の紙に目を止めた。「珍しい草花の採集」という依頼が目を引く。そこには、山奥に咲く青い光を放つ花の絵が描かれていた。
「わあ、これすごくきれい! きっとポーションにも使えるよね。」
詳細を読んでみると、依頼主は街の錬金術師で、報酬は貴重なポーションのレシピらしい。リディアの冒険心に火がついた。
「よし、この依頼やってみよう!」
メリーちゃんとタフィーちゃんに向き直ると、二匹ともやる気に満ちた様子で返事をしてきた。
「メェ!」
「ぷるん!」
三人の新たな冒険が、掲示板の一枚の紙から静かに始まろうとしていた。
リディアはギルドを出ると、掲示板で見つけた依頼のことを思い浮かべながら歩き出した。冒険の舞台が山奥だと知ると、どんな景色が待っているのか想像して胸が高鳴る。
「今日は散策を楽しみながら行こうか。ゆっくり歩くのもいいよね」
リディアの提案に、メリーちゃんが「メェ!」と返事をする。タフィーちゃんもぷるぷると揺れながらついてきた。
山道へ向かう途中、野原でぴょんぴょんと跳ねる小さなうさぎを見かけた。リディアは目を輝かせて足を止めた。
「見て、かわいい! あの子たちも楽しそうに遊んでるね」
うさぎたちはリディアを一瞥すると、少し警戒しながらも草むらの奥へと姿を消した。その様子に彼女はふふっと笑う。
さらに歩を進めると、たんぽぽが群生する一角にたどり着いた。リディアはしゃがみ込み、一本摘み取る。
「せーの!」と息を吹きかけると、綿毛がふわりと舞い上がり、風に乗ってどこまでも広がっていった。メリーちゃんも興味深そうに鼻を近づける。
「こんなにのんびり散策するのも久しぶりだな」
穏やかな道中の時間を楽しみながら、リディアたちは少しずつ山奥へと進んでいく。
やがて、森が開け、遠くから滝の轟音が聞こえてきた。リディアは立ち止まり、周囲を見渡す。滝の向こうにそびえる崖の天辺に、淡い青い光がぼんやりと揺れているのが目に入った。
「あそこだ! あの青い光が目的の花だね!」
リディアの声に、メリーちゃんが「メェ!」と頷き、タフィーちゃんもぷるんと体を震わせて答える。
「でも、崖の上まで登るのはちょっと大変そう……こういうときこそ!」
リディアは小型の絨毯を取り出し、その上に乗る。カラフルな刺繍が施された絨毯は、彼女の意思を受けてふわりと浮かび上がった。メリーちゃんとタフィーちゃんも器用に乗り込む。
「よし、いくよ! 絨毯さん、あの崖の上まで連れてって!」
絨毯はリディアの指示に応じてゆっくりと滝の上へと向かう。冷たい水しぶきが頬を撫でる中、彼女は高鳴る心を抑えられなかった。崖の天辺に近づくにつれて、青い花の光が一層鮮やかに輝いている。
「あと少し……!」
彼女はしっかりと絨毯にしがみつき、仲間たちと共に崖の上を目指した。
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