脱走聖女は異世界で羽をのばす

靴下ネコのお願い

歯車とからくりの島に戻ったリディアたちは、さっそくタフィーちゃんの生成したカカオバターを使い始めた。
リディアは小さなブラシを手に取り、錆びついていた歯車の隙間に丁寧にカカオバターを塗り込んでいく。

「よし、これで動きやすくなるはず！」
リディアが力強く頷きながら歯車を回すと、金属同士が擦れる嫌な音が消え、滑らかな動きが復活した。

島中の歯車にカカオバターを塗り終えた頃、からくり装置全体が息を吹き返したかのように、リズミカルな音を立て始めた。リディアは最後に大きなレバーを引き、装置を動かすと、からくり人形たちが自動で踊りだし、島全体が生き生きとした空間に変わった。

「これで猫たちの仕事もおしまいだね！」
リディアが振り返ると、猫たちは次々と遊び始めていた。歯車の上をぴょんぴょんと跳ねる猫、からくり人形の上に乗って日向ぼっこをする猫――みんなが思い思いの時間を楽しんでいる。

「猫さんたち、やっとのんびりできるようになったんだ……よかったぁ！」
リディアはホッと胸を撫で下ろし、微笑みながらその光景を眺めた。

その時、リディアの足元に一匹の猫が近づいてきた。それは黒と白の模様を持つ、ひときわもちもちとした靴下ネコだった。ふっくらした体が特徴で、可愛らしい肉球を見せながら「にゃあ、にゃあ」と何かを伝えたそうに鳴いている。

「どうしたの？ 何か困ってるの？」
リディアが問いかけると、靴下ネコはリディアの目をじっと見つめて、さらに大きな声で「にゃあ！」と鳴いた。その鳴き声には、まるで特別な意味が込められているようだった。

「あ、もしかして……これが『猫の願いポーション』の出番かも！」
リディアは慌ててバッグから、猫使いのおばあさんにもらった「猫の願いポーション」を取り出した。キラキラと光る瓶を手に、リディアは慎重にその中身を数滴、靴下ネコの前に垂らした。

ポーションが地面に染み込むと、淡い光が猫の足元から広がり始めた。靴下ネコはリディアを見上げて大きく一鳴きすると、光がふわりと漂い、リディアの頭の中にイメージが流れ込んできた。

「えっ、これって……」
リディアの脳裏に浮かんだのは、島のどこかに隠された小さな扉。その向こうには、猫たちのための特別な空間が広がっているらしい。靴下ネコはそれを伝えたかったのだ。

「隠された部屋があるんだね！ ありがとう、教えてくれて！」
リディアは靴下ネコの頭を撫でながら微笑み、猫たちにとってさらに素敵な場所を見つけるため、扉を探す決意を固めた。

猫たちの幸せを願う靴下ネコの想いを胸に、リディアの冒険はまた一歩前へと進んでいった。