脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

文字の大きさ
175 / 209

大団円

しおりを挟む
すっかり空中庭園を気に入ったエリュディオンは、ある日どこからか見つけてきた立派な城のある浮島を拠点にすることを決めた。その島は他の浮島とは少し離れた場所にあり、大理石の城壁と高い塔がそびえ立つ威風堂々たる佇まいだった。

「ここなら飽きることはないだろう。ああ、私の新たな暇つぶしの楽園だ。」
エリュディオンは城のバルコニーから空を見渡しながら、満足げに微笑む。リディアがその様子を見上げて手を振ると、彼も軽く手を振り返した。

「ねえエリュディオンさん、もう変なクリスタルは作らないって約束だよ?」
リディアが念を押すように言うと、エリュディオンは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「もちろんさ。こんなに楽しい空中庭園があれば、そんな暇はないよ。」

「ならいいけど……本当にだよ!」
リディアは少し不安そうにしながらも、信じることにした。エリュディオンが落ち着いてくれるなら、もう騎士団も困ることはないだろう。

空中庭園からリディアたちが騎士団本部へ帰還すると、報告を受けた熊騎士が大きな笑い声を上げた。
「おいおい、そりゃあいい話じゃねえか! あの厄介な黒いクリスタルともおさらばってわけだな!」
セリルも、少しほっとした表情で頷いた。
「これで一安心ですね。彼が庭園でおとなしくしてくれるなら、それに越したことはありません。」

「でしょ! エリュディオンさんも空中庭園が気に入ったみたいだし、これでもう村や森に変な影響はないはず!」
リディアが胸を張って報告すると、騎士団長からたっぷりの報酬が手渡された。

「リディア、君の力がなければ今回の問題はもっと厄介になっていただろう。感謝する。」
「へへへ、また何かあったら呼んでね!」
リディアは報酬を手に、メリーちゃんやタフィーちゃんと一緒に冒険者ギルドを後にした。

街に戻る途中、リディアはふと空を見上げた。遠くに見える空中庭園の浮島が夕陽に照らされ、美しい光景を作り出している。あの中でエリュディオンがどんなひまつぶしをしているのかはわからないけれど、少なくとも平和が続きそうな気がしていた。

「次は何をしようかな……」
リディアは足元のメリーちゃんに目を向けると、ふわふわの毛を撫でながら微笑んだ。

報酬を受け取って秘密基地へ戻ったリディアたちは、さっそくリビングでのんびりとくつろいでいた。テーブルにはタフィーちゃんが用意した蜂蜜チョコとフルーツサラダが並び、メリーちゃんはふわふわ毛から温かい紅茶を取り出して準備万端だ。

「やっぱり基地に帰るとホッとするね。今日はいっぱい動いたし、ゆっくりしよう。」
リディアは椅子にもたれかかりながら、テーブルの上のチョコをつまんで満足そうに笑う。メリーちゃんは「メェ!」と同意の鳴き声を上げ、タフィーちゃんはぷるぷると弾みながら机の上で跳ねている。

「それにしても、エリュディオンさん、あの城をどう使うつもりなのかな。」
リディアは蜂蜜チョコをかじりながらつぶやいた。夕暮れ時に見た空中庭園の景色が頭をよぎり、彼がひとりで城にいる姿を想像すると少し可笑しさを感じてしまう。

「また何かおかしなことを始めなきゃいいけど……」
リディアが呟いたその時、窓のない秘密基地の扉が小さくノックされた。誰も通れないはずのダンジョンの隠し通路なのに、誰かが訪ねてくることはめったにない。リディアは驚いて立ち上がり、慎重に扉を開ける。

そこに立っていたのは、なんとエリュディオンだった。彼はいつもの余裕たっぷりの表情で、片手を軽く挙げて言った。

「よぉ、小さな冒険者。退屈しのぎに来てやったぞ。」

リディアは呆気に取られたまま口を開けたが、すぐに笑みを浮かべて言った。
「エリュディオンさん、空中庭園はどうしたの?」

「ふん、あれはあれで気に入っているが、たまにはこの基地というやつも見ておこうと思ってな。こうして来てやったのだ、感謝するがいい。」
尊大にそう言いながら、エリュディオンは秘密基地のリビングを興味深そうに見回していた。

「まあまあ、せっかく来たならお茶でも飲んでいったら? ここで退屈することはないと思うよ!」
リディアは笑顔で彼を招き入れると、タフィーちゃんが用意していた蜂蜜チョコをすすめた。

エリュディオンは椅子に腰を下ろし、目の前のチョコを一つつまむと口元に運んだ。甘い香りが漂う中、彼の表情が少し緩んだのをリディアは見逃さなかった。

「これは……思った以上にいい味だな。」
「でしょ! タフィーちゃんの特製なんだよ。気に入ったなら、また遊びに来てね。」
リディアがにっこり笑うと、エリュディオンは少し驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの余裕の笑みを取り戻した。

「考えておこう。では、ひとまず今日はこれで満足してやる。」
そう言い残して、エリュディオンはふっと消えるように姿を消した。

「来てくれるのはいいけど、ほんと気まぐれなんだから……」
リディアは呆れながらも、どこかおかしさを感じて笑ってしまった。

秘密基地には再び穏やかな時間が流れ、リディアたちはお茶とお菓子で優雅なひとときを楽しむ。新たな冒険の準備が始まるのは、もう少し先の話である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

処理中です...