脱走聖女は異世界で羽をのばす

エリュディオン事件の打ち上げ

リディアのもとに、熊騎士ことハーゲンからの招待が届いた。黒いクリスタル問題の解決を祝う騎士団の宴会だそうだ。リディアはロリポップキャンディーを舐めながら苦笑した。

「また騎士団の宴会か……治癒魔法の出番がありそうだね。」

メリーちゃんは「メェ！」と張り切った声を上げ、タフィーちゃんは「ぷるぷるん！」と楽しげに跳ねている。そんな中、リディアがふとエリュディオンに目を向けると、彼はいつもの余裕を漂わせながら片眉を上げた。

「ふむ、騎士団の宴会とな？ お前たち人間がどんな騒ぎをするのか、少し興味が湧いてきたぞ。」

「じゃあ、一緒に行こうよ。退屈しないかもよ？」

リディアの誘いに、エリュディオンは肩をすくめながら「まぁ、暇つぶしにはなるかもしれないな」と笑みを浮かべた。

街に着いたリディアたちが騎士団本部の宴会場に入ると、すでに賑やかな雰囲気が広がっていた。冒険者や騎士たちが杯を交わし、笑い声や歌声が響いている。熊騎士がリディアたちに手を振りながら駆け寄ってきた。

「おう、よく来たな！ 今夜はお前たちの功績も祝うんだ。遠慮なく楽しんでくれ！」

リディアは笑顔で頷き、すぐにメリーちゃんとタフィーちゃんが食べ物のテーブルに走っていくのを見守った。そんな中、エリュディオンは騎士たちの陽気な姿に目を細め、どこか呆れたような表情を浮かべた。

「ふむ、人間とは実に面白い生き物だな。こうして己を忘れて盛り上がるとは……」

「でしょ？ 騎士団の宴会はいつもこんな感じだよ。」

リディアがそう言いながら、濃厚なモモジュースを手に取ると、エリュディオンも興味深げにそれを眺めた。彼は騎士たちに話しかけられると、最初は気だるそうに答えていたが、徐々にその輪の中に引き込まれていった。

「エリュディオンさん、あの黒いクリスタルをばらまいた魔族なんだってな！まぁ何だろうが気にしないぜ！ 今夜は仲間だ！」

「はは、それは光栄だな。まぁ、今のところはお前たちを滅ぼす予定はない。安心しろ。」

エリュディオンの冗談に、騎士たちは大笑いし、彼の肩を叩いたり酒を勧めたりしている。その様子にリディアは「案外楽しんでるみたいだね」と口元を緩ませた。

夜が更けるにつれ、騎士たちは酒に酔い始め、歌い踊り、さらにはエリュディオンに「一曲どうだ？」と無茶振りを始めた。最初は断っていたエリュディオンだったが、最後には仕方なく立ち上がり、優雅な動きで手を振りながら騎士たちをからかうように歌い出した。

「この私に歌わせるとは……お前たち、人間も随分と厚かましいな。」

その声は驚くほど美しく、騎士たちもリディアたちも思わず聞き入ってしまった。歌い終えたエリュディオンは「どうだ？」と得意げに笑い、騎士たちは大歓声を上げて拍手を送った。

宴会が終盤に差し掛かると、騎士たちは酒に負けて床に転がり始めた。リディアは苦笑しながら治癒魔法を使って回り、メリーちゃんも悪夢を見てうなされている熊騎士を「メェ！」と鳴いて解放していた。タフィーちゃんはひんやりした体を騎士たちのおでこに当てて癒しを提供している。

そんな様子を見ていたエリュディオンは、ふっと笑みを浮かべた。

「こうして見ると、お前たちも案外悪くないな。人間というのも、なかなか興味深い存在だ。」

リディアは彼の言葉に驚きつつも微笑み返し、「ね、楽しかったでしょ？」と声をかけた。

「ふむ、まぁな。」エリュディオンは視線を逸らしながらも、どこか満足げな表情を見せた。