脱走聖女は異世界で羽をのばす

ただいま

雪原の中、リディアたちはせっせと雪だるまを作っていた。リディアは目を輝かせながら、雪を丸めて転がしていく。

「よし！ これで体は完成！ 次は顔をつけよう！」
リディアは木の枝を腕に見立て、石で目を作り、手にしていた赤いスカーフを雪だるまの首に巻きつけた。完成した雪だるまを見て満足そうに微笑む。

メリーちゃんは「メェ！」と雪をふわふわの毛で集めて、小さな雪だるまをいくつも並べていた。タフィーちゃんも「ぷるぷるん！」と弾みながら雪の上に跳ね、まるで雪だるまの帽子のように乗っかって遊んでいる。

エリュディオンはそんな光景を少し離れた場所から見ていたが、ふっと口元に笑みを浮かべた。
「人間とは妙な生き物だな……雪を丸めて喜ぶとは。」

リディアはそんな彼を振り返り、にっこりと笑いかけた。
「エリュディオンもやってみたら？ 楽しいよ！」

「俺が？」
エリュディオンは軽く眉を上げ、しばし雪だるまを眺めたが、やがて肩をすくめると雪で小さな球を作り始めた。

「ほら、意外と楽しそうでしょ？」
リディアが声をかけると、エリュディオンは少し照れくさそうに鼻で笑った。

雪遊びに夢中になった一行だったが、やがてリディアが時計代わりの小さな魔法石を確認して言った。
「そろそろ帰ろっか。メリーちゃん、お願い！」

メリーちゃんが「メェ！」と鳴き声を上げると、周囲の空間が一瞬で揺れ、次の瞬間には星の落ちる浮島に到着していた。

「帰ってきたね！ 星がきらきらしてる……」
リディアは周囲を見渡しながら深呼吸をし、肩に積もった雪を軽く払い落とした。

「さて、天蓋の浮島にキルトを飾りに行こう！」
そう言うと、リディアは絨毯を用意し、メリーちゃんとタフィーちゃんを乗せる。エリュディオンはその横を余裕たっぷりに飛びながら並走する。

天蓋の浮島に到着すると、ピンクの肉球を持つ靴下ネコがふわふわのクッションの上で丸くなっていた。リディアが「ただいま！」と声をかけると、靴下ネコはふわりと顔を上げ、のんびりとした足取りで近づいてきた。

「ほほう……この猫は？」
エリュディオンが靴下ネコを見て目を細め、興味を示した。

「この子は靴下ネコ！ ここに住んでるんだよ。ねぇ、靴下ネコ、この人はエリュディオンだよ。」
リディアが紹介すると、靴下ネコはふわっと近づき、エリュディオンの足元をくるりと回りながら、じっと見上げた。

「ふむ、なかなかの眼力だな。この猫……ただの猫ではないようだ。」
エリュディオンが意味深に呟くと、靴下ネコはそんな彼の足元に前足を乗せ、ピンクの肉球でふみふみと押し始めた。

「ははっ、気に入られてるみたいだね！」
リディアがくすくすと笑うと、エリュディオンはわずかに眉を上げたが、靴下ネコのふみふみに身を任せていた。

「まあ、悪い気はしないが……面白い奴だ。」
エリュディオンが柔らかい表情を浮かべるのを見て、リディアは満足げに微笑んだ。

その後、リディアはキルトを天蓋に飾り付けた。虹色の刺繍が浮かび上がるキルトが風に揺れ、天蓋の下はますます心地よい空間になった。

「どうかな？ いい感じでしょ！」
リディアが両手を広げて振り返ると、メリーちゃんは「メェ！」と嬉しそうに鳴き、タフィーちゃんも「ぷるぷるん！」と跳ねて賛成の意思を示した。

エリュディオンは少し離れた場所で靴下ネコを撫でながら、静かに笑っていた。
「確かに、ここは悪くない場所だな。」

リディアたちの新しいキルトと、靴下ネコとエリュディオンの初対面をきっかけに、天蓋の浮島はさらに特別な場所になったのだった。