ノクティルカの深淵 ーThe Abyss of Noctilucaー

常夏でバカンス

なぜだか恥ずかしい

セラフィーナの睡眠時間が日に日に長くなっていく様子に、ヴァレリオの心は次第に不安でいっぱいになった。彼女がどれほど無理をしてでも、毎日必死に頑張り続ける姿を見守っていたが、その疲れが蓄積されているのだろうか、今はもはや普段の彼女らしい活力を感じることができなかった。

ヴァレリオはその不安に耐えきれなくなり、ある晩、彼女が眠っている間に決心した。彼女に何か異常があれば、すぐにでも彼女を守らなければならないと感じたからだ。セラフィーナを支えることができるのは、彼だけだという強い思いが、彼を焦らせた。

その夜、セラフィーナがふわふわとした眠りに落ちていた頃、ヴァレリオは静かに部屋に足を踏み入れた。月明かりが窓から差し込み、セラフィーナの顔をやさしく照らしている。彼女は穏やかな寝息を立てているが、どこか彼女の体調に不安を感じさせるような静けさがあった。

ヴァレリオは一歩ずつセラフィーナの寝床に近づくと、彼女の手をそっと握りしめた。眠っている彼女の顔を見つめながら、心の中で何度も言い聞かせる。『君がどれほど頑張っても、もう無理しなくていいんだよ。』

そして、何かしらの決意が彼を突き動かし、彼はゆっくりとセラフィーナの体を優しく抱き寄せた。彼女の手が少しだけ動き、彼の存在に気づきそうな気配を見せる。その瞬間、ヴァレリオは心を決めた。

「セラフィーナ…君を守りたい。」その声は静かで力強く、彼女に届くように、耳元で囁いた。「君が辛くて無理をしているなら、僕が支えるよ。もう何も心配しなくていいんだ。」

目を覚ましたセラフィーナは、最初はその優しさに戸惑いを感じたが、すぐにその温もりに包まれ、安心感が広がっていった。しかし、彼女の内心では、ヴァレリオが強引に迫ることで、彼との距離感に変化が生まれることへの恥じらいが湧き上がった。体が熱くなるのを感じ、どうしても目を合わせることができない。

「ヴァレリオ…こんなこと…私はまだ準備が…」セラフィーナは言葉を続けようとするが、彼の深い眼差しに引き寄せられ、うまく言葉が出てこなかった。

ヴァレリオはその恥じらいを感じながらも、焦りの中で確信を持って言った。「君が怖がることはない、セラフィーナ。僕は、君をただ守りたいだけだ。」そして、優しくそのまま彼女を抱き寄せ、顔を近づけてその唇に軽く触れる。

その瞬間、セラフィーナは心の中で次第に彼の言葉と気持ちに従うように感じ始め、心地よい温もりを感じた。しかし、ヴァレリオが強引に迫ってきたことへの戸惑いが完全に消えるわけではなかった。彼にすべてを委ねることが、少し怖く感じる自分を感じている。

それでも、彼女はその胸の中に浮かぶ温かさと安心感に身を任せることが、今は一番大切なことだと理解しつつあった。

セラフィーナはしばらくの間、ヴァレリオの腕の中で身動きが取れなかった。彼の温もりが心地よく、それに安心感を覚えながらも、彼女の内心には迷いと恥じらいが渦巻いていた。彼が手を伸ばすたびに、胸の鼓動が高まるのを感じる。恥ずかしさと同時に、心の奥底で抑えきれない期待が芽生えていることにも気づいた。

「ヴァレリオ…」セラフィーナは顔を赤くしながら、言葉を絞り出す。彼の顔を見つめることができず、目線を逸らす。「こんな…急に、私、まだ…」震える声で言葉を続けようとするが、言葉にならない。

ヴァレリオはその気持ちを理解していた。彼女が戸惑う気持ちも、恥ずかしさも、すべて彼の心に響いていた。だが、彼の想いは確かで、セラフィーナが自分に近づいてくれることを心から望んでいることもわかっていた。そのためには、無理に急かすことはないと感じていたが、彼女の変化が気になり、少し強引に進みたくなってしまう自分がいた。

「セラフィーナ、君がどうしても嫌なら、僕は待つよ。」彼は優しく、でも真剣な表情で彼女の目を見つめた。「でも、もし君が少しでも気持ちを伝えたいと思うなら、僕はいつでも受け入れる。無理はしないから。」

その言葉に、セラフィーナの胸はさらに高鳴った。彼の言葉がまるで心の中の不安を溶かしてくれるようだった。待ってくれる、そう言われると、なぜか安心して心が穏やかになる。それでも、彼に自分を委ねることには大きな決断が伴う。

「ヴァレリオ…私は、あなたに…」セラフィーナは言葉を呑み込み、少しだけためらいながらも、彼に向かって手を伸ばす。今までとは違う感情が心に広がり、彼をもっと近くに感じたいという思いが強くなっていく。

ヴァレリオはセラフィーナの手を優しく握り、彼女が動くのを待つ。その瞳に映るのは、彼女の戸惑いと迷い、そして確かな想い。彼が思っていることを、セラフィーナも少しずつ理解し始めていた。これまでの自分と、これからの自分が交錯しているような感覚に包まれている。

「怖くないよ、セラフィーナ。」ヴァレリオは、ほんの少しだけ、甘い笑みを浮かべた。「君が僕を必要とするなら、僕はその手を取るだけだ。」

その言葉に、セラフィーナは思わず頬を赤らめたが、その温かさに引き寄せられるように、彼に身を任せることを決めた。そして、二人の距離は少しずつ縮まり、最後には言葉にできなかった想いが、すべてひとつにまとまる。

その瞬間、セラフィーナは自分の中で確信した。ヴァレリオが必要だということ、そして彼に自分を委ねることが、これからの二人にとって最も大切な一歩であることを。