気まぐれ令嬢と微笑みの調停役〜お兄様もいるよ！

おてんばな日々

ルシアンに対する美少女ポーズ指導

クラリスの部屋は、いつにも増して賑やかだった。鏡の前に立つルシアンは、どこか所在なさげに視線を彷徨わせている。その横では、クラリスが腕を組みながら考え込んでいた。

「ルシアン、いい？美しい顔立ちを持つ者として、完璧なポーズは必須なのよ！」

「……僕は男なんだけど」柔らかな口調ながらも、ルシアンの声にはほんのり困惑が滲んでいた。

「そんなの関係ないわ！見なさい、こうよ！」クラリスは鏡の前で軽やかに片足を前に出し、片手を顎に添えて首を傾けた。「どう？これぞ美少女ポーズ！」

ルシアンは目を細めて彼女の姿を見つめる。「確かに、君には似合ってるけど……僕にはちょっと無理があるんじゃない？」

「無理？そんなこと言わせないわ！」クラリスは彼の腕を引っ張り、無理やり鏡の前に立たせた。「ほら、まずは真似してみて！」

仕方なくルシアンはクラリスの指示に従い、片足を前に出して首を傾ける。だが、その様子を見たクラリスはすぐさま首を振った。「違う違う！全然ダメよ！もっと繊細さを意識して、指先まで美しく！」

「それ、かなりハードルが高いと思うけど……」

「だめだめ、これじゃただの中途半端な美形だわ！」クラリスはさらに近づき、ルシアンの腕や指先を微調整し始めた。「こう！もっとこうして！」

数分後、ルシアンは一見完璧なポーズをとっていた。しかし、その顔には微妙に浮かない表情が。「……これ、誰が得するんだろう？」

「私が楽しいのよ！」クラリスは満足げに微笑んだ。「でも、まだ何かが足りないわね。あ、そうだ！」

彼女が突然走り出した先には、廊下を歩いていたガイウスの姿があった。「兄様！ちょうどよかったわ！」

「どうした、クラリス？」ガイウスは振り返ると、妹の勢いに圧倒されつつも、にこやかに答えた。

「今から一緒に美少女ポーズを決めるの！ほら、部屋に来て！」

「美少女……なんだって？」ガイウスは一瞬固まったが、クラリスに強引に引っ張られて部屋に連れ込まれた。そして、そこに立つルシアンの姿を見て吹き出した。「おいおい、ルシアン坊主、なんだその格好は！」

「僕も聞きたいよ……」ルシアンは小さく肩をすくめた。

「さあ、兄様も参加して！」クラリスはガイウスの背中を押しながら、ポーズを指導し始めた。「兄様は力強さと可愛らしさを融合させるのよ！ほら、こんな感じで！」

「クラリス、無茶言うなよ！俺がそんなポーズを……」ガイウスが文句を言いかけた時、クラリスのキラキラした目に押され、渋々ポーズをとった。

「もっと腰を落として、顎を引いて！」

「ああもう、こうか？」

「そうそう！いい感じ！」

こうして部屋の中は、クラリスの無茶振りによる「美少女ポーズ大会」の場と化した。最終的に、ルシアンは無難に場をまとめようと「みんなで同じポーズをして締めよう」と提案し、なんとかこの混乱に終止符を打った。

その後、鏡に映る三人のポーズを見ながら、クラリスが満足げに頷いた。「やっぱり私の指導は完璧ね！」

ルシアンは微笑みながら心の中で呟いた。「この状況を楽しめるのは君くらいだろうね……」




クラリスの部屋から聞こえる笑い声と大騒ぎに、廊下を行き交うメイドたちは自然と足を止めた。何事かと耳を傾けていると、クラリスの弾んだ声が響いてくる。

「いいわ！その角度よ、兄様！あと少しだけ顎を引いて！」

「こ、こうか？」ガイウスの低い声が続き、さらにルシアンの困ったような声も重なる。

「兄様、肩の力を抜いて！ルシアンはもっと優雅に！」

扉の外に集まったメイドたちは、顔を見合わせてクスクスと笑い始めた。

「一体何をしてるんでしょうね？」若いメイドの一人が首を傾げる。

「お嬢様のことですから、きっとまた何か突拍子もないことを始めたんですよ」年配のメイドが微笑みながら答えた。

「でも、ガイウス様まで巻き込まれているなんて珍しいですね」別のメイドがそっと扉を覗こうと身を屈めるが、すぐに咳払いをして姿勢を正した。「覗き見は良くありませんね、失礼しました」

しかし好奇心には勝てず、数人がそっと耳を扉に近づける。

「ルシアン、その微笑みをもっと自然に！美少女らしさを表現して！」クラリスの声が明るく響き渡り、メイドたちは一斉に顔を覆った。

「美少女……ルシアン様がですか？」

「さすがにそれは無理があるような……」

「いえいえ、ルシアン様なら意外と……」そう言いかけたメイドたちは、次に聞こえたガイウスの声に笑いを堪えた。

「このポーズでどうだ、クラリス？」

「うーん、兄様、ちょっと可愛げが足りないわね！」

その瞬間、扉の外にいるメイドたちは耐えきれずに肩を震わせた。

「きっと、あの部屋の中はカオス状態ですよ」

「でも、なんだか楽しそうですね」

そのうちに、廊下のさらに奥から別のメイドがやってきて声を潜める。「あなたたち、何しているの？お嬢様たちのプライベートな時間を邪魔しては……」

しかし、部屋の中から聞こえる声がそれを遮った。

「これでどう？みんなで同じポーズで揃えれば完璧よ！」

「待て待て、俺の腕がもう限界だぞ！」

「君の指導に付き合うのも大変だよ、クラリス」

新たに来たメイドも声を聞いて目を丸くし、それから小さく笑った。「まあ、平和でいいですね」

扉の向こうの喧騒を背に、メイドたちは仕事に戻りながらも、微笑みを抑えることはできなかった。クラリスが引き起こす騒動が、屋敷にどれだけの笑顔を生んでいるかを実感していた。