気まぐれ令嬢と微笑みの調停役〜お兄様もいるよ！

おてんばな日々

狩猟大会

ルシアンがガイウスの部屋で書類整理を手伝っていると、紙束の間から一枚の封筒がひらりと滑り落ちた。厚手の上質な紙でできた封筒には、王宮の紋章が刻まれている。

「これは……王宮からのものですね」ルシアンは封を切り、中身を確認した。

「狩猟大会への招待状？」

その言葉にガイウスが顔を上げる。「狩猟大会だと？どれどれ、見せてみろ」

招待状を手に取ったガイウスの顔がにやりと笑みに変わった。「俺の腕が認められたってわけか。いいだろう、見事な獲物を仕留めてやるさ！」

そこへ、話を聞きつけたクラリスが勢いよく部屋に飛び込んできた。「狩猟大会ですって？お兄様、私も一緒に行くわ！」

「おいおい、これは狩りをする者の大会だぞ？クラリス、お前に弓が引けるのか？」ガイウスは苦笑しながら妹を見たが、クラリスは全く動じない。

「別に弓なんて引かなくていいのよ。私が行けば、きっとみんな盛り上がるじゃない！それに、王宮のパーティーにも参加できるでしょ？」

ルシアンは書類を整理しながら溜息をついた。「クラリス、狩猟大会はそんな軽いものじゃないと思うよ。それに、君が行ったら、きっと何か騒ぎが起きるだろうね」

「まあ、そんなこと言わないで。ルシアンも一緒に来るんでしょう？」クラリスは微笑みながらルシアンに歩み寄った。

「僕は君たちの後始末をするためについていくような気がするけどね」と肩をすくめながら答えるルシアンだったが、クラリスの期待に満ちた瞳を前に、何も言えなくなった。

ガイウスはクラリスの肩をぽんと叩き、「まあ、いいじゃないか。俺が一緒にいればクラリスも問題を起こさないだろうしな！」と大らかに笑った。

「兄様がそう言うなら決まりね！」クラリスは満足げに頷くと、「王宮で何を着ていこうかしら」と早速計画を立て始める。

ルシアンはその姿を見つめ、これから起こるであろう騒動の数々を想像しながらも、静かに招待状の封筒を整えた。王宮への道のりがまた波乱に満ちたものになることは間違いなさそうだった。



王宮の裏に広がる広大な森。その入口には、王宮主催の狩猟大会に集まった参加者たちが、それぞれ狩猟に適した装いで武器を手に整列していた。クラリスもその中に混じり、やる気満々で網を構えている。

「見て、ルシアン！これで鳥やうさぎを捕まえるわ！」クラリスは自慢げに網をひらひらと揺らしてみせた。

「クラリス、それはどう見ても虫取り網だと思うけど……」ルシアンは穏やかな声で指摘したものの、彼女の熱意に圧されてそれ以上何も言わなかった。

そのルシアンの手には小ぶりな弓が握られている。「君が騒ぎを起こさないように見守りながら、僕も少しは頑張るよ」

「ふふん、私が捕まえる姿をよく見てなさい！」とクラリスが得意げに宣言している間、少し離れたところでガイウスが大ぶりな槍を手に、余裕の笑みを浮かべていた。

「さあ、始まるぞ。妹に負けるなよ、ルシアン坊主！」ガイウスは大らかに笑いながら、槍を肩に担いで森の奥を見据える。

競技が始まると、参加者たちはそれぞれの武器を使い、それぞれの技量で森を駆け回る。クラリスは相変わらず網を振り回し、木陰でのんびりしていたウサギを追いかけ回している。一方、ルシアンは冷静に弓を引き、小型の鳥を仕留めることに成功していた。ガイウスに至っては、まるで巨大な獣を狙うような迫力で槍を構え、周囲の参加者から一目置かれている様子だ。

そんな中、参加者のひとり、吹き矢を持った優雅な身なりの青年がクラリスに目を留めた。彼は彼女の気まぐれな振る舞いに惹かれたらしく、森の中でそっと視線を送る。その度に、クラリスが無邪気な笑顔で網を振る姿が彼の心を奪っていった。

狩猟の時間が終わり、参加者たちは森を出て集合場所へと戻る。審査が行われている間、青年がクラリスに近寄った。

「お嬢様、先ほどの姿、まるで森の女神のようでした。今夜の打ち上げで、ぜひ私と一曲踊っていただけませんか？」

突然の申し出にクラリスは目を瞬かせたが、すぐに微笑み、「まぁ、私に目を留めるなんてお目が高いのね」とあっさり受け入れた。

その会話を聞いていたガイウスはにやりと笑い、「待て待て。どうせなら祭りの主役が妹と踊る方が盛り上がるだろう？」と声を張り上げた。

ガイウスの提案を聞いた周囲の参加者たちが次々と賛成の声を上げ、最終的に狩猟大会の優勝者がクラリスとダンスを踊るというルールが決定された。

「さすが兄様、良いアイデアね！」クラリスは拍手をして兄を褒め称えるが、隣でルシアンは小さく息を吐いた。「こうなると、何だか君が優勝する未来しか見えないよ……」

夕闇が近づき、王宮の宴の準備が始まる中、クラリスはひときわ楽しそうにその場を見渡していた。