気まぐれ令嬢と微笑みの調停役〜お兄様もいるよ!

ねむたん

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ルシアン、また振り回される

音楽会の驚き

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「屋敷で音楽会を開きたいの!」クラリスが唐突に宣言したのは、昼下がりの穏やかな午後だった。

ガイウスは少し驚いたように眉を上げ、「音楽会?急にどうしたんだ、クラリス」と問いかけた。

「だって退屈なんですもの!この広い屋敷をもっと華やかに使わなくてどうするの?」クラリスは腕を組みながら言い放ち、すでに自分の中で完璧なイメージを描いているようだった。「お兄様にはお客さまを集めてもらうわ。私は、飾りつけと衣装を考えるから!」

「任せておけ!」ガイウスはいつものように胸を叩いて快諾したが、ふと眉間に皺を寄せた。「でも、演奏は誰がするんだ?」

クラリスの動きが止まる。「演奏者……?」

「音楽会には、音楽が必要だろう?」

「あら、それくらい簡単に見つかるでしょ!」クラリスは余裕そうに笑ってみせたが、現実はそう甘くなかった。

数日後、音楽会の準備が整いつつある中、肝心の演奏者がどうにも見つからない。クラリスはソファに腰掛け、腕を組んで不満げにため息をついた。「なんで誰も見つからないのよ。私がこんなに素敵な企画をしたのに!」

ルシアンはその様子を見て、静かに口を開いた。「クラリス、そんなに肩を落とさないで。少しだけなら僕が弾けるかもしれないよ。」

「ルシアン、あなたが?」クラリスは目を丸くして彼を見た。

「うん、そんなに期待しないでほしいけど……」ルシアンは照れたように笑い、ピアノの前に向かった。

屋敷の大広間に置かれた黒いグランドピアノ。その鍵盤にルシアンの指がそっと触れる。クラリスが息を呑む中、柔らかな音色が静かに部屋中に響き渡った。

それは単なる演奏ではなかった。ルシアンの繊細な指遣いから紡ぎ出される旋律は、美しく、優しく、聴く人の心を包み込むようだった。クラリスは思わず目を輝かせ、その場にじっと座り込んでしまう。

演奏が終わると、屋敷に集まっていた招待客たちも拍手喝采を送った。ガイウスすら驚きの表情を隠せず、「ルシアン坊主、お前、こんな腕があったのか!」と声を張り上げた。

クラリスはルシアンのもとへ駆け寄り、「すごいわ、ルシアン!こんな才能があるなら、もっと早く教えてくれればよかったのに!」と目を輝かせて訴えた。

ルシアンは微笑んで肩をすくめる。「君が退屈していたからだよ。少しでも楽しんでくれたなら、十分さ。」

その柔らかな言葉にクラリスは満面の笑みを浮かべ、「最高の音楽会だったわ!」と叫ぶのだった。ガイウスも「よし、これからは毎回ルシアンに頼むか!」と冗談を飛ばし、賑やかな夜はさらに盛り上がりを見せた。





午後の柔らかな日差しが庭の芝を照らし、テーブルに並べられたカップやティーポットがきらりと光を反射していた。クラリスはおしゃれな椅子に腰を下ろし、ふわりと広がるドレスを整えながら紅茶を一口すする。

「お兄様、私たちの庭ってやっぱり素敵よね」と、いつものように自慢げに微笑んだ。「あの噴水も、黄金の輝きが午後の光によく映えるわ」

ガイウスは彼女の向かいで大きなティーカップを片手に、「ああ、お前がしつこく作らせた甲斐があったな」と笑いながら答えた。「でもな、昔の庭も悪くなかったと思うぞ」

「昔?」クラリスは紅茶を置き、首を傾げた。「お兄様、そんなの覚えてるの?」

「ああ。小さい頃の庭、覚えてないか?父上と母上が手入れしてくれてたんだ。もっと簡素だったけど、あれはあれで温かい感じだった」

その言葉に、クラリスの表情が少しだけ柔らかくなる。「……そういえば、覚えているような気もするわ。母様が花壇の手入れをしているのを、私が邪魔してたの」

ガイウスは大きく頷き、懐かしむように目を細めた。「そうそう。お前が花を引っこ抜こうとして、母上に叱られてたっけな」

「そんなことしてたの?」クラリスは目を丸くし、少しだけ顔を赤らめた。「でも、父様も母様も優しかったわよね」

「優しかったな。父上はあんまり家にいる時間は長くなかったけど、帰ってくると必ずお前に土産話をしてくれたじゃないか」

クラリスは目を伏せ、ほんの少しだけ寂しそうに笑う。「ええ、でも、最近は全然戻ってこないわね。遠い国で何をしているのかしら?」

「国の大事な仕事だから仕方がないさ」ガイウスは彼女を慰めるように言いながら、カップを置いて背を伸ばした。「俺たちがしっかりしていれば、父上と母上も安心して働けるだろう?」

「それはそうだけど……」クラリスは少し不満そうに唇を尖らせた。「でも、私はたまには顔を見たいわ」

ガイウスは妹の頭に軽く手を置き、優しい声で言った。「きっとそのうち帰ってくるさ。それまでは俺がいるだろう?だから安心しろ」

その言葉に、クラリスはようやくふっと微笑んだ。「お兄様、やっぱり頼りになるわね」

「当たり前だろう。俺はお前の兄なんだからな」

そのとき、ルシアンがトレイに新しいティーポットを載せてやってきた。「どうやら話が盛り上がっていたみたいだね。何の話をしていたんだい?」

「私たちの両親のことよ」とクラリスは即答した。「ルシアンは知らないでしょうけど、私の母様はすごく美しくて優雅だったのよ」

「父上も立派な人だったぞ」とガイウスが付け加えると、ルシアンは穏やかに微笑んでティーポットを置いた。「それは素敵なご両親だね。きっとまたすぐに帰ってこられるさ」

その優しい言葉に、クラリスは紅茶を見つめながら静かに頷いた。「ええ、そうね。次に帰ってきたら、もっと素敵な庭を見せてあげるんだから」

3人の穏やかなティータイムは、どこか懐かしさと希望に包まれていた。
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