気まぐれ令嬢と微笑みの調停役〜お兄様もいるよ！

ルシアン、また振り回される

レディの矜持

午後の柔らかな陽射しが部屋のカーテンを通して差し込む中、クラリスは優雅にソファに座り、足元にはふわふわのクッションがいくつも散らばっていた。小さなティーカップを手にしながら、突然思いついたように口を開く。

「ねえ、ルシアン。あなたのお家ってどんな感じなの？」

問いかけられたルシアンは手元の書類から顔を上げ、微笑を浮かべた。「僕の家かい？うーん、君のお屋敷ほど華やかじゃないけれど、それなりに落ち着いたところだよ」

「ふうん」クラリスは興味深そうに身を乗り出し、「それで、家族はどんな人たちなの？私の知らないことばかりだわ」

ルシアンは肩をすくめながら答える。「兄が3人いるんだ。どの人も大人で、落ち着いた性格だよ。多分、君が想像するより地味な家族だと思う」

「3人も？」クラリスは目を輝かせた。「会ってみたいわ！どんな人たちなのか興味があるもの」

その言葉に、ルシアンの微笑が少しだけ苦笑じみたものに変わる。「やめておいたほうがいいと思うよ。彼らは君とは話が合わないと思うし、きっと君のような賑やかな人をどう扱えばいいのか困惑するだろうから」

クラリスは一瞬きょとんとしたが、すぐに顔を膨らませた。「それってどういう意味？私が子供だって言いたいの？」

ルシアンは「そうは言っていないよ」と穏やかに否定しつつも、その反応を少し楽しんでいる様子だった。しかし、クラリスの隣で黙っていたガイウスが声を張り上げた。

「クラリスが子供なわけがないだろう！」と胸を張りながら妹をかばう。「クラリスは立派な大人のレディだ！なあ、クラリス？」

「さっすがお兄様！」とクラリスはにっこり笑い、得意げに胸を張った。「そうよ、私はお兄様のおかげでどんな話題だってこなせる立派なレディなんだから！」

ルシアンは苦笑いを浮かべつつ、口元を押さえた。「そうだね。君の自信には敵わないよ」

「でしょう？」クラリスは満足げに紅茶を一口飲み、「じゃあ、やっぱりいつかそのお兄様たちに会わせてちょうだいね」と念を押した。

ルシアンは困ったように小さくため息をつきながらも、微笑を浮かべたまま返事を濁した。「そのときが来たら考えてみるよ」

ガイウスはそんなやり取りを見て、さらに胸を張る。「心配するな、クラリス。お前ならどんな相手でも魅了できるさ！」

クラリスはその言葉に満足げに頷き、部屋に再び穏やかな空気が戻った。ルシアンは心の中で「さて、もし本当に会うことになったら大変だな」と密かに頭を抱えていた。





昼下がりの柔らかな光が差し込むリビング。ルシアンが静かに書類に目を通していると、クラリスが颯爽と現れた。いつもとは違う雰囲気に気づき、彼は顔を上げる。

「どうかしら！」クラリスは自信満々に胸を張り、ドレスの裾を軽く持ち上げてくるりと回ってみせた。

その姿は確かに華やかだが、足元に目をやると彼女はかなりの高さのピンヒールを履いている。足元がおぼつかないのか、少しふらついているのが見て取れる。

「今日は一段と背が高いね」ルシアンは微笑を浮かべながら軽く茶化した。

「ええ、そうよ。これで私の年上の威厳を存分に感じられるでしょう？」とクラリスは得意げに言い放ったが、次の瞬間ヒールがカーペットに引っかかり、よろけた。

ルシアンは慌てて駆け寄り、彼女を支える。「威厳もいいけれど、転ばないように気をつけた方が良いんじゃない？」

「大丈夫よ！これは計画通りだから！」クラリスはなんとか体勢を立て直し、プライドを守ろうと頑張った。

彼女はさらに、気取った口調で続けた。「私はとても…えっと…『傍若無人』な存在なのだから！」

その妙な表現に、ルシアンは一瞬目を丸くしたが、すぐに口元を隠して笑いをこらえる。「……君が言いたいのは『泰然自若』とか『威厳を持った』という意味かな？」

「そ、そう、それよ！」クラリスはすぐに訂正されたことを気にしないふりをして、話題を変えようとした。「それに見て、このメイク。私は自分でも完璧にできるのよ！」

改めて彼女の顔を見たルシアンの表情が微妙に固まる。派手すぎるアイシャドウ、塗りすぎたチーク、そして唇のラインが左右非対称になっている。どう見ても「完璧」とは言い難かった。

「本当に君らしいね」ルシアンは優しく言葉を選びながら、無邪気な彼女を傷つけないように答えた。「でも、少し手を加えるともっと素敵になるかもよ」

「手を加える？」クラリスは怪訝そうに彼を見た。「私のこの努力の結晶を否定するつもり？」

「そんなことないさ。ただ、ほら、少しだけ…」と言いながらルシアンは手を伸ばし、彼女の頬に付いたチークの濃い部分を指先で軽くなじませた。「ほら、これでより自然になった」

鏡を見たクラリスは一瞬不満そうな顔をしたが、次第に笑顔になった。「まあ、ルシアンにしては上出来ね」

「ありがとう、クラリス」彼は微笑みを浮かべつつ、そっとため息をついた。

「でも、見てなさい。次こそはもっと完璧な威厳を見せてあげるんだから！」クラリスは決意を新たに、再び胸を張った。

その無邪気な姿に、ルシアンはいつも通り微笑みながら心の中でつぶやいた。「君がそのままでいてくれるだけで、十分魅力的なんだけどね」