気まぐれ令嬢と微笑みの調停役〜お兄様もいるよ!

ねむたん

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ルシアン、また振り回される

騒動続きの日々

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昼下がりの庭でティータイムを楽しんでいたクラリスが、新聞を握りしめて突然立ち上がった。

「街で仮装祭りですって!私が一番素敵な仮装をしなくちゃ!」

彼女の目は輝いている。何か新しい刺激があるたび、こうして無邪気に飛びつくのがクラリスの常だった。

「仮装か!」隣でティーカップを置いたガイウスが、豪快に笑う。「なら俺の甲冑を貸してやる!立派な戦士の仮装ができるぞ」

「そんなの、重くて歩けないじゃない!」クラリスはすぐさま却下し、ガイウスを一蹴する。「もっと華やかで、目を引くものじゃないと!」

「そうだな」ガイウスは甲冑を抱えて少し拗ねたように頷いた。

ルシアンは隣で苦笑いを浮かべながら、「クラリス、少し落ち着いて考えた方が良いんじゃない?」と提案する。

「落ち着いてなんていられないわ!」クラリスは腰に手を当て、自信満々に言い放つ。「私の仮装が一番でないと、意味がないもの!」

その後、屋敷中を巻き込んでの仮装作戦会議が繰り広げられた。ガイウスの戦士案はもちろん、ルシアンが提案した優雅なドレス姿の妖精案も即座に却下され、最終的にクラリスは一つの大胆なアイデアを思いついた。

「例の熊の毛皮、使えるんじゃないかしら?」

「おいおい、本気か?」ガイウスは目を丸くした。「あれは俺が仕留めた大物だぞ。仮装にはちょっと迫力がありすぎるんじゃないか?」

「それが良いのよ!」クラリスは笑顔で宣言した。「他の誰もこんな仮装はできないわ。私が一番目立つこと間違いなし!」

こうして迎えた祭りの日、クラリスはガイウスの仕留めた巨大な熊の毛皮を身にまとい、堂々と街に登場した。頭付きの毛皮が覆うその姿は、確かに圧倒的だった。

通りを歩くたび、人々の注目を集める。だが、注目だけでなく騒動も招いた。

「ひっ、熊だ!」

通行人が叫び、慌てて逃げ出す。

「違います!仮装です!」ルシアンが冷静に訂正しようとするが、混乱はなかなか収まらない。

さらに、クラリスは毛皮の長い裾を踏んでバランスを崩し、危うく転びかけた。

「危ない!」すかさず駆け寄ったルシアンが彼女を支え、息をつく。「君らしいけど、本当に手がかかるよ」

「でも、どう?すごく目立ってるでしょう?」クラリスは何事もなかったかのように笑顔を浮かべる。

「確かに目立ってるけど、君の仮装が注目されてるのか、それとも騒動のせいなのか…」ルシアンはため息混じりに小声でつぶやいた。

最終的に祭りが終わるころには、街中の人々がクラリスの仮装を「一番インパクトのある出し物」として称賛し、彼女は満足げに胸を張って屋敷に戻った。

「私、やっぱり最高だったわ!」

その言葉に、ガイウスは豪快に笑いながら肩を叩き、ルシアンは微笑みを浮かべて心の中でそっとつぶやいた。「君が楽しめたなら、それで良いけどね」





ある日クラリスは、煌びやかな宝石が並ぶショーウィンドウに見入っていた。しばらく前から気になっていた新作のアクセサリーが、まさに目の前に並べられていたのだ。

「これは素敵…」クラリスは指でガラスを軽くなぞりながら、心の中で次々と選択肢を考えていた。どれもこれも魅力的で、彼女の視線は次々に動く。

そのとき、店の扉が突然乱暴に開き、何かとおもったクラリスが店内を見回した瞬間、突如として数人の泥棒が押し入ってきた。

「金品を出せ!」

男たちの鋭い目つきに、客たちは一斉に驚き、縮こまった。だが、クラリスはその状況をものともせず、むしろ眉をひそめ、腕を組んだ。

「私の宝石を盗むなんて、許せないわ!」

その言葉とともに、クラリスはまるで無敵のヒロインのように足早に泥棒を追いかけ始めた。店内に響く高いヒールの音が、異様な緊張感を一層際立たせる。

「クラリス、待て!」

ガイウスの声が遠くから聞こえたが、クラリスは耳を貸さない。彼女の眼差しは真剣そのものだ。泥棒が逃げる先に向かって、一歩ずつ力強く進んで行く。

犯人に突進するクラリスに慌てたガイウスが駆けつけ、男たちの一人の頭を鷲掴んで取り押さえた。

「こいつら、俺に任せろ!」

彼の力強い声が響き、瞬く間に泥棒たちは制圧される。ガイウスは笑みを浮かべながら、胸を張った。

「さすが兄様!」

クラリスはその姿に満足げに微笑み、ガイウスの力強さに改めて心を打たれた。

「君、無茶しすぎだろ、クラリス…」

ルシアンはクラリスに駆け寄り、怪我がないか見聞し胸を撫で下ろした。「無事で良かったけど、次からは少し考えて行動した方が…」

その後、事件は無事解決し、店主が深く感謝の意を込めてクラリスに特別な宝石をプレゼントしてくれた。クラリスはその宝石を手に取り、満足げな笑みを浮かべる。

「ありがとう!これ、私にぴったりだわ!」

クラリスは嬉しそうに宝石を手にして、その美しさにうっとりと見入った。その横で、ルシアンはまた無茶をしないように見ておかないと、と思いながら微笑んだ。
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