気まぐれ令嬢と微笑みの調停役〜お兄様もいるよ！

愛と冒険の日々

ルシアンのマイブーム

ルシアンが静かにグラスを手に取り、瑞々しい果実の香りを楽しむ姿は、どこか絵画のようだった。彼の手の中で揺れる液体は、鮮やかなオレンジ色。絞りたてのフレッシュジュースだ。

「最近、妙にこれにハマってるんだよね」と、微笑みながら口に運ぶ。クラリスがそれをじっと見つめているのに気づき、彼は軽く首を傾げた。「どうかした？」

「ルシアン、あなた…ジュースを飲んでるだけでなんだか格好つけてるわね。どうせなら私にも作りなさいな。美味しいかどうか、判断してあげるわ！」

「君に頼まれたら断れないけど、僕の技術を試される気がするよ」と軽く笑いながら、ルシアンは再び果物を手に取った。慎重な手つきで、果実を切り分け、ゆっくりと絞り始める。クラリスが「ほら、早く！」と急かすたびに、彼はわざと動きをスローダウンさせる余裕まで見せる。

ガイウスはその様子を椅子に座りながら眺めていた。「おいルシアン坊主、飲み物一つでそんな真剣になるなんて面白いな。だが、クラリスの舌を満足させられなかったら…覚悟しとけよ？」

「僕の努力をプレッシャーで台無しにしないでくださいよ」とルシアンは苦笑しながら、最後のひと絞りを終えた。できあがったジュースはクラリスの前にそっと置かれる。鮮やかな色とフルーティーな香りに彼女の目が輝いた。

「さあ、飲んでごらん」とルシアンが促すと、クラリスは慎重にグラスを持ち上げ、一口味わう。そして、満面の笑みを浮かべた。

「これはなかなかね！ルシアン、あなた、やればできるじゃない！」

その言葉を聞いて、ルシアンは肩の力を抜いて笑った。「ありがとう。けど、それならもう少し優しく急かしてくれたら助かるかな」

「次はもっと違う果物を使いなさいね」と、クラリスは早速次の注文を始める。ルシアンは少し呆れながらも、彼女のリクエストに応えようと果物を探し始めた。

一方で、ガイウスは「俺の分も頼むぞ」と手を挙げる。「だが、もっと力強いやつをな！」

「兄妹そろって要求が高すぎるよ」とルシアンは苦笑しながらも、彼らの楽しそうな顔に、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。



午後の陽が差し込む庭園で、クラリスはいそいそと動き回り、テーブルクロスを整えたり、クッションをふわふわに叩いたりと忙しそうだ。その手際の良さに驚くべきか、むしろ微笑ましく思うべきか――ガイウスとルシアンは庭の隅で控えめに様子を見守っていた。

「ルシアン、そこに座って待ってて！今日は特別なサプライズよ！」
クラリスが目を輝かせながら、特等席にルシアンを誘導する。彼は半ば強引に椅子に押し込まれ、微笑を浮かべつつも「ありがとう。でも、何のサプライズかは聞かない方が良さそうだね」と、控えめな言葉を添える。

クラリスは満足そうに頷くと、「お兄様、準備はいいわね？」と振り返り、声を張り上げた。
「任せておけ！」と気合いの入った声が響き渡り、ガイウスが山盛りの果物の前に立つ。
テーブルには、オレンジ、リンゴ、キウイ、パイナップルといった色とりどりの果物が所狭しと並んでいる。その後ろには、やや控えめに置かれたミキサーがひとつ――明らかに不要な存在と化している。

「それじゃ、行くぞ！」
ガイウスは果物を片っ端から豪快に掴み、素手で皮をむき、握りつぶし、果汁を絞り出し始めた。腕力に任せたその作業は、もはや調理というより力比べの域に達している。

「……さすがガイウス様、腕力の無駄遣いが素晴らしいですね」
ルシアンは目を細めて微笑みながらも、少し顔が引きつっている。果汁が飛び散るたびに、彼の整った顔には小さな緊張が浮かぶ。

一方、クラリスはその光景を見て拍手しながら、「お兄様、最高よ！素晴らしいわ！」と感激しきりだ。ガイウスの額に汗が光り、彼は満足げに「さっすが俺の腕だな！」と自賛する。やがて彼が、できあがった野性味あふれるミックスジュースをルシアンの前に差し出した。

「ルシアン、できたぞ。飲んでみろ！」
ガイウスの笑顔は豪快そのものだったが、ルシアンは目の前の飲み物をじっと見つめ、僅かに眉をひそめる。ジュースは確かに鮮やかな色合いだが、微妙に果肉が浮いており、原型を留めた果実の欠片まで混ざり込んでいる。

「……ありがとう。きっと愛情がたっぷり込められているんだね」
彼は作り笑いを浮かべながら、コップを両手で持ち上げた。クラリスが期待に満ちた目でじっと見つめているのを無視するわけにはいかない。

一口含むと、予想以上の酸味と甘味が複雑に絡み合い、味覚が一瞬混乱する。「……とても、力強い味だね。まさにお二人らしいジュースだ」
ルシアンはやや言葉を選びながら感想を述べた。クラリスは「でしょう？完璧よね！」と満足げに胸を張る。

その後、クラリスは「次は私も挑戦するわ！」と意気込んでいたが、ルシアンはそっと席を立つタイミングを探り始めた。