気まぐれ令嬢と微笑みの調停役〜お兄様もいるよ！

愛と冒険の日々

凄腕占い師、クラリス

ガイウスが陽の光を受けて堂々とした足取りで廊下を歩いていると、クラリスの部屋から不穏な気配を感じた。ドアの向こうから聞こえる高らかな声に眉をひそめる。

「お兄様！ ルシアン！ 私、気づいてしまったの！」
いつになく自信たっぷりな声が響き渡り、ガイウスは面白そうだと肩をすくめながら部屋の扉を押し開けた。すると目に飛び込んできたのは、テーブルの上に鎮座する怪しげな水晶玉と、黒い布を纏い妖艶なポーズを決めるクラリスだった。

「私は未来が見えるわ！」
クラリスは水晶玉に手をかざしながら、いかにも真剣な表情を作り、そう言い放つ。

ガイウスは吹き出しかけたが、なんとか笑いを飲み込む。「おいクラリス、その格好は一体なんなんだ？」
「見てわからないの？ 占い師よ！ 私、今まで気づかなかったけれど、未来を読む才能があるみたいなの！」

ちょうどその時、ルシアンが廊下を歩いてきて、部屋の様子を覗き込んだ。「…何が始まったんだ？」と困惑したように眉を上げる。

「ルシアン！ちょうどいいわ、座りなさい！」クラリスはルシアンを指差し、逃げ場を与えない。「あなたの未来を占ってあげる！」

「僕の未来ですか…？」ルシアンは微笑を浮かべつつも、ちらりとガイウスに助けを求める視線を送る。だがガイウスは腕を組み、「ほら、占ってもらえよ」と面白そうに笑うばかりだ。

ガイウスはソファに腰掛けたまま豪快に笑う。「未来が見える？おいおい、面白いことを言い出すな。で、何を見たんだ？」
「お兄様に訪れる危険な冒険、そしてルシアンの大いなる成功よ！」
クラリスは水晶玉に手を翳しながら、まるで本物の占い師のように力を込める。「あたらしい友達の影も見えるわ！」

「……僕ですか？」
その隣で、ルシアンが困ったように笑みを浮かべた。微かに眉を上げつつも、彼女の勢いに流されることに慣れている様子だ。「それは楽しみだね。でも、どういう成功なのかは教えてくれる？」
「それはまだ秘密。未来が訪れて初めて明らかになるのよ！」
自信満々のクラリスに、ルシアンは肩をすくめる。それを見たガイウスがさらに笑い声を重ねた。

「なるほどな、何が起きるか楽しみにしておこうじゃないか。占い師殿！」
ガイウスが妹の肩を軽く叩くと、クラリスは得意げにうなずいた。

そんなやりとりの最中、外からかすかな鳴き声が聞こえたのは偶然だったのだろうか。

「何かしら、この声……」
クラリスが水晶玉を放り出して立ち上がる。声の正体を確かめるべく窓辺へ駆け寄ると、庭の木陰に何かが動くのが見えた。

「これは……！」
クラリスはドアを開け、スカートを翻しながら庭へと駆け出す。

木陰には、茶色い小さな犬が震えていた。短い足と丸い目が愛らしいが、毛は土埃で汚れている。クラリスはその場にしゃがみ込み、優しく手を伸ばした。

「まあ、なんて可愛い子なの！あなた、どうしてこんなところにいるの？」
犬は怯えながらも、クラリスの声に惹かれるように一歩近づいた。

背後からやってきたガイウスが腕を組んで見下ろす。「まさか、飼う気か？」
「決まってるじゃない、お兄様。まずは飼い主を探すのよ！」
クラリスは胸を張り、犬を抱き上げると、きっぱりと宣言した。

「じゃあ、僕が聞き込みに行ってみるよ」
ルシアンが微笑みながら進み出た。「この子の毛並みを見るに、高貴な犬種というより、商人や一般家庭で飼われている犬かもしれない。貴族街よりも商店街を当たる方がいいと思う」

「まあ、さすがねルシアン！任せたわ！」
クラリスは犬をルシアンに託し、まるで自身の手柄のように誇らしげだ。

商店街では、賑わう通りの中でルシアンが手際よく聞き込みを始めた。犬を抱えた姿が目立つのか、人々の注目を集めながら話を進める。
そしてある店先で、必死に周囲を探している一人の商人に出会った。

「この犬に心当たりはありますか？」
ルシアンが問いかけると、商人は驚いた表情を見せた後、大声で泣き出した。

「この子だ！うちの可愛い子が帰ってきた！」
商人は駆け寄り、犬を抱きしめると、涙を流しながら頬擦りをした。犬も嬉しそうに尻尾を振り、飼い主の顔を舐めている。

ルシアンが戻ると、クラリスは水晶玉を撫でながら彼を迎えた。

「やっぱり私の占い、当たったでしょ？」
「確かに、成功したと言えるかな」
ルシアンは犬の飼い主が大喜びだった様子を伝えた。クラリスは得意げに笑い、ガイウスも「さすがだな！」と感心した様子を見せる。

「でも、予言はまだまだ続くのよ！」
クラリスの占い師ごっこは、さらに盛り上がりを見せるのだった。