選ばれぬことを願った令嬢

ねむたん

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淡いグリーンのクロスがかけられたガーデンテーブルの上には、
焼きたてのスコーンとレモンのタルト、それに季節の果物が美しく盛られていた。

「やっぱりリリーが焼くと、素朴なのにちゃんと品があるのよね」

イザベルがスコーンをほぐしながら満足げに言うと、リリーは「えへへ」と笑って首をすくめた。

「ちょっと焦げちゃったけど……見た目はイザベルが並べ直してくれたから」

「おだてたらまた焼いてくれるでしょって計算よ」

「わかってたの!?」

エレノアは二人のやり取りに口元を緩めながら、カップに紅茶を注いでいた。

少し遅れてやってきたマルグリットは、わざわざ紅茶の香りを嗅いでから静かに腰を下ろす。

「……なんで毎回こういうくだけた雰囲気になるのかしら」

「くだけさせてるのはあなたの参加を受け入れてる私たちの度量の広さ、ってことにしておけば?」

イザベルが軽口を返しても、マルグリットは鼻を鳴らしただけだった。
それでもティーカップを受け取る仕草は、以前より少しだけ柔らかくなっている。

「ところで、エレノア。あれから、アルフォンス様とは?」

リリーがそっと問いかけると、イザベルとマルグリットも自然と視線を向けた。

「ええ……先日、正式に婚約が公表されたの」

静かな言葉に、リリーの顔がぱっと明るくなる。

「よかった! ふたりが並んでると、なんていうか……絵本の中みたいだもん」

「そうね。奇跡的に色味が釣り合ってる」

「色味ってなに」

イザベルが楽しげに笑いながら首を振る。

「それで……お家の方は?」

エレノアは一瞬だけ言葉を飲み込んだ。
けれど、うそをつく必要はないと自分に言い聞かせる。

「兄は黙認してくれているわ。父も、表向きは反対していない。……でも」

カップをソーサーに置いた音が、少しだけ乾いていた。

「義母は、表情を見ればわかるの。何も言わなくても、明らかに不満なのよ」

「……クラリッサも?」

「ええ。彼女のご機嫌は、最近ずっと……最低」

語尾に笑みを混ぜたつもりだったが、それができたかどうかはわからなかった。

マルグリットが、しばらく無言のまま紅茶を口に運ぶ。
イザベルは眉を寄せず、ただ自然に言葉を繋いだ。

「それで? あなたはどうするの」

エレノアは小さく息をついた。

「……義母もクラリッサも、私に何も求めてはいないわ。ただ邪魔に感じてるだけ。
 でももう、自分の意志を曲げて従うつもりはないの。アルフォンスと約束したもの。ちゃんと、自分の意志で歩くって」

その言葉に、リリーが「うん」と力強く頷き、イザベルは満足げに微笑んだ。

マルグリットはしばらく何も言わなかったが、やがてカップを静かに置くと、ふっと呟いた。

「……あなたの強さは、そういうところね」

その声音は、あくまで素っ気なかった。
けれど、そのまなざしは、前よりずっとまっすぐエレノアを見ていた。

こうして新しい季節のはじまりに、四人の輪が、ゆっくりと形になっていくのだった。

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