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しおりを挟むリリアの叫びが響いた翌日、学園の空気はまるで一変していた。王子フェリクスの婚約破棄の宣言とリリアの爆発的な訴えは、一夜にして学園中の話題となり、生徒たちの間で様々な憶測が飛び交った。
「王子があんな場で婚約破棄をするなんて、信じられないわ。」
「それだけじゃないわ。リリア嬢のあの涙。もう我慢の限界だったのね。」
「でも、リリア嬢だって中流貴族の立場で、断ることなんてできなかったんじゃない?」
「王子の身勝手さが、結局すべてを壊したのよ。」
生徒たちはそれぞれの見解を口にしながらも、誰もが共通して感じていたのは、王子の行動が引き起こした混乱だった。そしてその余波は、学園内にとどまらず、社交界全体に広がりつつあった。
王子の婚約破棄とリリアの涙は、瞬く間に宮廷や貴族社会の耳にも届いた。王子が公爵令嬢カトリーヌとの婚約を破棄し、中流貴族の娘リリアを「真実の愛」と称して持ち上げていることは、多くの貴族に衝撃を与えた。
「公爵家の令嬢との婚約を破棄するなど、前代未聞だ。」
「国の安定を揺るがしかねないわ。何を考えているのかしら、王子は。」
「リリア嬢も気の毒に。巻き込まれる形で社交界の批判を浴びることになるだろう。」
さらに、婚約破棄を公然と宣言されたカトリーヌ・ベルフォールへの同情が広まり、彼女の毅然とした態度に賞賛が集まっていた。
「さすがはベルフォール家の令嬢だ。あの場で冷静さを保つとは。」
「カトリーヌ嬢の立派さが、王子の未熟さを際立たせているわ。」
リヴィエール伯爵家でも、この出来事は重く受け止められていた。夕食後、家族全員が集まり、この話題について意見を交わしていた。
「王子が公の場で婚約破棄を宣言するなど、もはや愚行としか言えんな。」
伯爵が厳しい口調で語る。彼の顔には明らかな苛立ちが浮かんでいた。
「リリア嬢も、王子の好意に困惑していたのでしょうね。それを断ることもできず、あのような形で感情を爆発させるなんて……気の毒に思います。」
伯爵夫人は悲しげな表情でつぶやいた。彼女の視線はセリーヌに向けられている。
「セリーヌ、君も学園でこれ以上巻き込まれないよう注意するんだ。王子の周囲にいる者は、今や貴族社会全体から厳しい目を向けられている。」
「……分かっています、父様。」
セリーヌは静かに答えたが、その胸には複雑な感情が渦巻いていた。リリアの涙と叫びは、彼女にとっても衝撃だった。そして、アランが王子に寄り添う姿が、彼女の心にわだかまりを残していた。
学園では、王子とリリアの姿は見られなかった。王子は宮廷からの呼び出しを受け、リリアは体調不良を理由に登校を控えているとのことだった。
「セリーヌ、ちょっとおしゃべりしようよ。」
ジュリアがいつものようにセリーヌを誘った。彼女の明るさは変わらないが、その目にはどこか気遣う光があった。
「この騒ぎ、しばらく収まりそうにないわね。でも、正直言って、あの王子の行動は擁護できないわ。」
「……そうね。」
セリーヌはぼんやりと答えながら、窓の外に目をやった。リリアがあの場で声を上げたのは、彼女自身のためでもあり、王子に対する静かな反抗だったのだろう。セリーヌはその勇気を羨む気持ちすら覚えた。
「セリーヌ、君はどう思うの?」
ヴィクトールが軽い口調で問いかける。
「どう……って?」
「もし君がカトリーヌ嬢の立場だったら、あんな冷静にいられたと思う?」
「分からないわ。でも……あの毅然とした態度は、誰もが真似できるものじゃないと思う。」
セリーヌの言葉に、ジュリアとヴィクトールは静かに頷いた。
混乱の中で、セリーヌの心にはある種の覚悟が芽生え始めていた。自分自身の立場、そしてこれからの未来を、家族とともに守らなければならない。そのために、今は冷静さを保つしかないのだ。
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