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しおりを挟むアラン・ド・モントレイユは最後まで婚約解消に反対していた。彼は伯爵家からの申し立てに対し、婚約を維持することがセリーヌのためでもあると主張したが、伯爵家がそれを受け入れることはなかった。
「リヴィエール家からの正式な申し立ては、正当な理由に基づいている。それに、伯爵家の名誉に関わる問題だ。」
アランの父である公爵は、書状に記された「伯爵家の名誉に関わりかねない」という一文に目を留め、沈黙の末に頷いた。
「公爵家として、この問題を長引かせることは得策ではない。」
こうして、アランとセリーヌの婚約解消は正式に成立した。伯爵家からの申し立てを公爵家が受理する形で決着がついたが、その過程でアランの反論が採用されることはなかった。
婚約解消が成立した翌日、セリーヌはいつもの学園の中庭でジュリアと再会した。その顔には、これまでの重圧から解放されたかのような穏やかな笑顔が浮かんでいた。
「セリーヌ!」
ジュリアが彼女を見つけると、満面の笑みで駆け寄ってきた。そして、彼女の手をぎゅっと握りしめる。
「本当に終わったのね。ずっと頑張ってきたセリーヌが、ようやく自由になったわ!」
「ええ、本当に。父様たちが間に立ってくれたおかげよ。」
セリーヌは静かに微笑みながらも、目元には感謝と安堵が溢れている。ジュリアはそんな彼女を見つめ、心からの言葉を紡いだ。
「ねえ、セリーヌ。これからは、もっと自分を大事にしていいのよ。」
「ありがとう、ジュリア。あなたがいてくれたから、ここまで耐えられたわ。」
二人はお互いの手を握りしめながら笑い合った。その笑顔には、これまでの苦しみから解放された喜びが満ちていた。
そこに、ジュリアの婚約者であるヴィクトールが現れた。彼は両手を広げ、からかうような口調で言った。
「おお、晴れて自由の身になったリヴィエール嬢!これで貴族界の独身男性たちが君を奪い合う時代が始まるわけだね。」
ジュリアが彼の脇腹を軽く肘で突きながら、呆れたように言う。
「もう、ヴィクトールったら。そんなふうにからかうんじゃないの!」
「からかってるんじゃないさ、真面目に言ってるんだよ。セリーヌにはそれだけの価値があるってことさ。」
ヴィクトールは軽口を叩きながらも、セリーヌに向ける眼差しには、どこか真摯な思いが込められていた。
セリーヌはそんな二人のやり取りに微笑みを浮かべながら、小さく首を振った。
「ありがとう、ヴィクトール。でも今は、自分自身を取り戻すことが最優先だと思っているわ。」
その言葉に、ヴィクトールは大げさにうなずきながら笑った。
「素晴らしい!じゃあ、君が自分を取り戻すのを僕たちが全力で応援するってことで決まりだね。」
これまで重くのしかかっていた婚約という鎖から解放されたセリーヌは、久しぶりに心からの笑顔を浮かべることができた。そして、その笑顔を見たジュリアとヴィクトールもまた、彼女の未来を祝福していた。
セリーヌの新たな一歩が、ようやく始まったのだ。
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