「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」

ねむたん

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夜会の余韻が残る静かな夜、リリエットは寝室の窓辺に佇んでいた。

星の光が静かに降り注ぐ中、彼女の心は穏やかでありながらも揺れていた。

クラウディオが他の令嬢たちの誘いを断り、ただ自分だけを見つめていたこと。

彼の腕の中で踊りながら感じた、久しぶりのときめき。

それは決して過去の甘い夢ではなく、現実のものだった。

――でも、それだけで信じるには、まだ足りない。

彼の変化を認めながらも、長い間積み重なった感情のしこりは、そう簡単には消えなかった。

翌朝、食卓の席には家族が揃っていた。

母が優雅に紅茶を口にしながら、リリエットの表情をじっと見つめる。

「昨夜の夜会、素敵だったでしょう?」

問いかけに、リリエットは少し戸惑いながらも頷いた。

「ええ、とても……」

「クラウディオ様と、とてもお似合いだったわ」

その言葉に、リリエットは思わず視線を落とした。

――私は、本当に彼と釣り合っているのかしら。

「お前の気持ちはどうなんだ?」

エドガーが重く口を開いた。

リリエットは、兄の真剣な瞳を見つめる。

「……まだ分からないの。だけど、もう少し彼を見ていたいと思うわ」

その言葉を聞いて、エドガーは静かに頷いた。

「無理はするな」

「ええ、分かってるわ」

母も父も、それ以上は何も言わなかった。





学園では、クラウディオの変化がより顕著になっていた。

学業も剣術も、以前にも増して優れた成績を収め、学園内での評価はますます高まっていた。

彼はこれまで以上に完璧だった。

だが、それ以上に変わったのは、リリエットへの態度だった。

以前のように冷たく距離を置くことはなく、かといって急に親密になるわけでもない。

彼は、慎重に、そして誠実にリリエットと向き合おうとしていた。

それが、リリエットの心を少しずつ揺らしていく。

「リリエット、今日はサロンに行かないか?」

ある日、クラウディオがそう提案した。

驚いたが、断る理由はなかった。

「……ええ」

クラウディオのエスコートでサロンへと向かう。

そこには、彼がわざわざ手配したという純白の花々が華やかにテーブルを飾り、リリエットが好きなデザートも用意されていた。

「これ、あなたが?」

「君が好きだと言っていたからな」

彼はそう言って、さりげなく花に触れた。

――こんなふうに私の好きなものを覚えてくれているなんて。

それが、かつての彼にはなかったものだった。

それでも、まだ完全には信じられない。

「クラウディオ様は、私のことを知ろうとしているのね」

リリエットはそっと言った。

「……今まで、知ろうとしなかったからな」

「後悔してるの?」

クラウディオは静かに頷いた。

「もちろんだ」

その言葉が嘘ではないと、リリエットは感じた。

「……ちゃんと考えてくれて、嬉しい。ありがとう」

彼はその言葉だけで十分だと言うように、ただ微笑んだ。
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