終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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土間の中で、俺たちは息を潜めた。

外では、まだ鈴の音が鳴り続けている。ゾンビの動きは遅いが、集団で押し寄せると厄介だ。幸い、土間周辺の防備は固めた。今のところ、直接襲われる心配はない。

それでも、息苦しい沈黙が空間を支配する。誰もが耳を澄ませ、外の気配を探っていた。

……ガリ……ガリ……

「……今の、何の音だ?」

安田が小声でつぶやく。

「わからねぇ……」

藤木がわずかに顔を上げる。

……ウゥ……ア゛ァ……

旅館の奥から、ゾンビのうめき声が聞こえてきた。

「……侵入されたか」

斉藤が低くつぶやく。

「数は?」

「わからん……でも、大群じゃなさそうだな。せいぜい、二体か三体か」

俺たちは視線を交わした。

「どうする? ここでじっとしてるか、それとも……」

高橋がスコップを握りしめる。

「今は無闇に動かないほうがいい。入口の補強はしてあるし、やつらがこっちに気づいていないなら、このままやり過ごすべきだ」

藤木が冷静に判断する。

「うめき声の距離を考えると、まだ土間までは来てねぇな」

「となると、どこか別の場所でさまよってるってことか……」

俺は唾を飲み込みながら、耳を澄ませる。

ゾンビの声は旅館の中をゆっくりと移動しているようだった。

……ガリッ……ガリ……

「なぁ、この音……」

「やつら、扉か何かを引っ掻いてるな」

田辺さんが低くつぶやく。

「どこかの部屋に入り込んで、出られなくなってる可能性もあるな」

「……それなら、無理に対処しなくてもいいんじゃね?」

安田が安堵したように言うが、藤木は表情を引き締めたままだった。

「問題は、これがどう影響するかだな」

「どういう意味?」

「もし、あいつらの声や動きが外のゾンビを呼び寄せたら……」

誰もが息をのんだ。

「その時は、こっちにも来る可能性があるってことか……」

「とりあえず、今は静かに待つしかない」

俺たちは武器を握りしめたまま、暗闇の中でじっと耐えた。

旅館の中のどこかで、ゾンビがうごめく音だけが響いていた。

背後から、ずるり……と何かが這いずるような音がした。

一瞬、誰もが固まる。

「……なんだ?」

安田が恐る恐る振り返る。

ずるっ……ずるっ……

嫌な音が続く。

「まさか……」

俺は嫌な予感を抱きながら、井戸の方へ目を向けた。

闇の中、井戸の縁に白い手がかかっている。

「……!!」

誰かが息をのんだ。

手が井戸の縁を掴み、泥まみれの顔がゆっくりと這い上がってくる。

ゾンビだ。

「井戸から……!? なんでだよ……!」

藤木が低く唸る。

ゾンビは這い出しながらも、異様にスムーズに動いている。通常のゾンビなら、もっと鈍重なはずなのに——

「こいつ、動きが速ぇ!」

高橋が叫ぶ。

井戸から這い上がったゾンビは、まるで生前の身体能力をそのまま残しているかのような俊敏さだった。腕の筋肉は異常に発達しており、普通のゾンビよりも明らかに機敏だ。

「生前、スポーツマンか何かだったんじゃねぇか……!?」

斉藤が叫ぶ。

「そんなのありかよ!」

安田が慌てて後ずさる。

「囲め! まずはこいつを抑えろ!」

俺が叫ぶと、全員が一斉に武器を構えた。

ゾンビは歯をむき出しにしながら、俺たちに向かって突進してくる。

「くそっ、速い!」

「捕まえろ!」

藤木と高橋が両側から刺股でゾンビを押さえ込もうとする。しかし、ゾンビは俊敏に身を捩り、簡単には捕まらない。

「野郎……!」

俺はスコップを手にし、足元を狙って横から払った。

バシッ!

ゾンビの足が崩れ、バランスを崩す。

その隙に——

「今だ!」

高橋と藤木が再び刺股を使い、ゾンビの胴体を押さえつけた。

「抑えた!」

「縛るぞ!」

田辺さんが用意していたロープを使い、素早くゾンビの手足を縛り上げる。

「暴れるなよ……!」

安田がロープを締め上げると、ゾンビは激しくのたうち回った。だが、四肢を縛られたことで自由を奪われ、次第に動きが鈍くなった。

「……これで、とりあえずは大丈夫か?」

藤木が荒い息を吐く。

「でも、問題はこいつがどこから来たかだよな」

俺たちは、泥にまみれたゾンビを見下ろした。

「……こいつ、井戸の中から来たってことは——」

「井戸の底がどこかに繋がってるってことか……?」

誰もが黙り込んだ。

旅館の井戸。

それが、外の世界と繋がっている可能性。
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