終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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山を下ると、開けた土地にぽつぽつと建物が現れた。

「……人の気配が少ないな」

藤木が窓の外を見ながら呟く。

「まぁ、都会ほどじゃないにしても、ゾンビがいるんだから当然か」

安田が肩をすくめる。

町の通りにはゾンビがちらほらと徘徊していた。まだ大規模な崩壊が起きているわけではないが、どの家の窓もカーテンが閉め切られ、まるで人の気配を消すように静まり返っている。

「どこか使えそうな建物は……」

斉藤が周囲を見回し、小学校の方向を指さした。

「学校って、もしかしたら避難所になってるかもしれないな」

「確かに。水道とかあるし、集まるには適してるかも」

俺はハンドルを切り、小学校へ向かった。

近づくにつれ、校門の前に数人の人影が見えた。

「誰かいる」

「……避難してた人たちか?」

車を減速しながら、様子を伺う。

彼らもこちらに気づいたのか、警戒しながらじりじりと距離をとっている。

俺たちは慎重に車を停め、ドアを開けた。

「おい、大丈夫か?」

藤木が声をかける。

すると、ひとりの中年の男が、疲れ切った表情で近づいてきた。

「……あんたたち、ここに避難してきたのか?」

「いや、違う。状況を知りたくて来たんだ」

「そっか……まぁ、もうここはダメだな」

男は大きく息を吐いた。

「どういうこと?」

「俺たち、さっきまであの小学校にいたんだ。最初は安全だった。でも、中の様子がどんどんおかしくなってきたんだよ」

「おかしく?」

「……リーダー気取りの奴が出てきてさ」

男の言葉に、俺たちは顔を見合わせる。

「リーダー?」

「ああ。最初はただの避難者のひとりだったんだけどな……声がでかくて自己主張の強いやつが、少しずつ周りを支配し始めたんだ」

「それ、まさか……」

「アイツは、自分の周りに人を集めて、女たちを侍らせてるんだよ」

「……」

全員、顔を曇らせた。

「他の避難者は反発しなかったのか?」

「最初はな。でも、食料の分配とか避難生活のルールを作るとか、そういう話を持ち出して、気づけばそいつが仕切るようになってた」

「……独裁者か」

藤木が低く呟いた。

「しかもな……」

男は言いづらそうに顔を伏せる。

「内部で、もうパンデミックが始まってる」

「……は?」

「誰かが感染してたんだ。隠してたのか、気づかなかったのか……気がついたら、校舎の中で何人か発症してた」

「マジかよ……」

安田が息を呑む。

「それで、あんたたちは逃げたってわけか」

「ああ。中に残った奴らがどうなったかはわからない。でも、もう安全じゃないのは確かだ」

「……なるほどな」

俺は考え込む。

「このあたりで、他に安全な場所は?」

「さぁな。どこも同じようなもんだろ。俺たちはこれから山のほうに移動するつもりだ」

「そうか……」

彼らの顔には疲労と絶望の色が滲んでいた。

「……小学校に行くのは、やめといたほうがいいぜ」

男は最後にそう言い残し、仲間とともに歩き去っていった。

「……どうする?」

安田がこちらを見た。

「小学校の中に入るのは危険だな」

俺たちは、小学校の校舎をじっと見つめた。

「……やっぱり、人がいないほうに行ったほうがいいな」

藤木が腕を組んで言った。

「小学校みたいに、人が集まる場所は問題が起きやすい。独裁者気取りが出てくるのも、感染が広がるのも、結局は人が密集してるからだろ」

「となると、もっと人気のない場所か……」

斉藤が顎に手を当てて考える。

「山の中を探ってみよう。小学校を避けるなら、まだ手をつけられてない場所があるかもしれない」

俺は車を再び走らせ、山道へと戻った。

舗装された道を外れ、林道へと進む。途中、いくつかの施設が目に入った。

まず目にしたのは、山の中腹にある神社だった。

「神社か……」

安田が窓の外を眺めながら呟く。

「悪くはないけど、建物が開けてるのがな……」

藤木が冷静に判断する。

「防御が甘いし、食料を確保するのも難しそうだ」

「まぁ、立ち寄るにはいいかもしれないけど、拠点には向いてないな」

次に見かけたのは、小さな発電所の施設だった。

「発電所か……」

斉藤が興味深そうに言う。

「電気が使えれば最高だけど、管理者がいなきゃ意味ないし、そもそも立ち入りできるかどうかもわからないな」

「それに、発電所は人目につく場所が多い。長く留まるには向かないか」

俺たちはさらに先へ進んだ。

次に見かけたのは、山間の小さな農村だった。

「ここは……?」

高橋が興味深そうに窓の外を見やる。

古びた民家が数軒並び、田畑が広がっている。しかし、どの家も窓が閉じられ、人の気配はない。

「ここに人は?」

「もう逃げたか、引きこもってるか……」

田辺さんがぼそっと呟く。

「けど、畑があるのは魅力的だね。食料の確保はしやすそう」

「確かにな……」

「ただ、家屋が点在してるのが問題か。ゾンビが散らばってると対処が難しくなる」

「それに、もしこの村の住民がまだ生き残ってて、外から来た俺たちを受け入れる気がなかったら……?」

「……そうだな。慎重に考えないと」

俺たちは少し悩んだが、最終的にはもう少し奥へ進むことにした。

そして、しばらく山道を走り続けた先に、ダムの管理施設を見つけた。

「ダムか……」

安田が息を呑む。

「ここなら、もしかして……」

「使えそうだな」

藤木が頷いた。

「管理施設がしっかりしてれば、壁があってゾンビの侵入を防ぎやすい。ダムの水を利用できれば、水の確保も問題ない」

「それに、ダムの近くって人が少ない。少なくとも、避難者同士の争いは避けられるだろう」

「食料はどうする?」

「周辺の森や川を活用するしかないな。でも、今までの旅館よりはずっと安定するんじゃないか?」

俺たちはしばらく施設の様子を観察した。

「……よし、ここを拠点にするか」

俺は決断した。

ダムの管理施設が、次の避難場所になる。
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