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あたらしい日々
しおりを挟む食堂で働き始めてから、日々が本当に充実していた。朝、目を覚ますとき、私はいつも新しい一日が始まることにワクワクしていた。最初は不安もあったけれど、今ではこの小さな食堂が私の居場所のように感じられるようになった。
キッチンでの仕事は忙しいけれど、それがとても楽しい。お客様に笑顔で料理を運びながら、私は自分の気持ちがどんどん軽くなっていくのを感じていた。チャールズと過ごしていた時は、どれだけ私は無理をしていたのだろう。彼の冷たい言動に耐えながら、無理に笑顔を作っていた自分が、今では信じられない。
食堂のスタッフはみんな親切で、温かい人たちばかりだ。特にリーダーのエマさんは、仕事が終わった後でも私に声をかけてくれることが多い。彼女は私が困っているとすぐに気づいて、さりげなく手を貸してくれる。そんな優しさに触れるたび、私は少しずつ心を開いていった。
「エリザベス、今日はお疲れ様。」エマさんは優しく微笑んで言った。「来週のメニューのアイデア、ちょっと一緒に考えてみない?」
私は嬉しくなって、軽く頷いた。「はい、喜んで!新しいメニューに挑戦するの、楽しそうですね。」
その後も、食堂は忙しく、ランチタイムやディナータイムにはお客様が次々とやって来る。私はその中で、慣れた動きで食事を運び、注文を受け、笑顔を振りまいていた。心の中で、私がこの場所でこんなにも自然に生き生きとしていることに、驚きとともに嬉しさがこみ上げてきた。
以前の私は、チャールズとの関係に縛られ、無理をして笑っていた。彼の冷たい目に耐えながら、笑顔を作ることがどれほど辛かったか。でも、今はそのすべてが無駄だったように感じる。私が笑顔でいることに、もう誰かの期待や無理解を背負うことはない。この場所では、私はただの私として、自由に過ごしている。
ランチが終わった後、少し休憩を取っていたとき、常連のお客様が声をかけてくれた。
「おお、今日は元気そうだね!」その人は毎週のように来て、少しおしゃべりをしていく常連の男性だった。
「はい、おかげさまで。」私は笑顔で返した。「ここで働き始めてから、本当に毎日が楽しいんです。」
「それは良かったな。」そのお客様はにっこりと笑った。「君の笑顔が見られるだけで、ここに来る価値があるよ。」
その言葉に、私は心から感謝した。そう、私は今、自分のために生きているんだ。以前のように、誰かの期待に応えなければならないというプレッシャーから解放され、ただ自分のペースで生きることができる。それだけで、こんなにも心が軽く、幸せな気持ちになれるのだ。
午後のシフトが終わると、私は少しだけ食堂の近くの公園を歩くことにした。風が心地よく、太陽の光が柔らかく肌を照らしている。歩きながら、ふと空を見上げると、まるで新しい未来が広がっているように感じた。
以前の私は、ただひたすらに彼との関係を維持しようと必死だった。けれど、今はそうではない。私は私自身を大切にして、私が選んだ道を歩いている。それが、こんなにも素晴らしいことだと、心から実感していた。
その日の仕事が終わると、私は静かに夜の街を歩きながら、ふと思った。これから先、どんな困難が待っていようとも、私はもう一人で歩いていける。その力が、少しずつ自分の中で育ってきたことに気づいていた。
食堂で働く日々が、私にとってどれほど大切なものになったか。そこには、もう過去の痛みや冷たい視線はない。ただ、新しい自分を見つけるための明るい場所が広がっている。それが、今の私にとって何よりも幸せなことだった。
その日、食堂が忙しくない午後のひととき、私はカウンターで注文を取っていた。静かな空気の中、ドアが開く音が聞こえた。振り向くと、そこに立っていたのは—チャールズだった。
一瞬、心臓が跳ね上がる。まさか、この場所に来るなんて…。私は一瞬、言葉を失い、ただただ彼を見つめていた。
「エリザベス…」彼は、少しぎこちない表情で私の名前を呼んだ。以前のように堂々としていた彼の姿はどこにもなく、どこかしら落ち着かない様子だった。
その瞬間、私の胸の奥で何かがかき乱されるような気がした。冷たい、無視された、裏切られたという感情がまた蘇ってきて、心が揺れ動くのを感じた。でも、今はもうそんな気持ちに縛られることはない。私は自分の心の中で、彼を失ってもどうにかなったことを実感していたから。
「何の用ですか?」私は冷静に言った。
彼は少し躊躇いながら、口を開けた。「その…エリザベス、君に話があるんだ。」
私は彼の顔を見つめ、何も言わずに待った。チャールズはしばらく黙ったままで、何かを考えているようだった。それでも、やがて彼は決心したように口を開いた。
「俺が悪かった。あの時、君をあんな風に扱ってしまった。君の気持ちを無視して、あまりにも自分勝手だった。君がどれほど辛かったか、今になってようやく分かる…。」
その言葉を聞いた瞬間、私は心の中で何かが震えた。彼が本当に反省しているのか、それともただ自分を正当化しようとしているだけなのか、私はまだ分からなかった。でも、彼の姿勢がどこか不安げで、普段の強気な態度が消えていることに気づいた。
「だから、エリザベス…」チャールズは一歩踏み出し、私に向かって少し顔を近づけた。「もう一度、俺とやり直してくれないか?」
その言葉に、私は驚きとともに冷たい風が吹き抜けるような感覚を覚えた。彼は、私がまだ彼を求めていると思っているのだろうか。過去のように、私が彼に依存していると思っているのだろうか。
「そんな簡単に、戻れるわけないでしょう。」私は冷静に言い放った。「あなたがどれだけ後悔しても、私がどれだけ苦しんでも、それはもう終わったことなの。」
チャールズは一瞬、言葉を失ったように黙り込んだ。しかし、すぐに再び口を開けた。「でも…エリザベス、君が離れていくなんて思ってなかった。婚約したとき、俺は君がどんなことをしても俺を選んでくれると思っていたんだ。君がどれだけ傷ついていても、どれだけ冷たくしても、君は俺のところに戻ってくるだろうと思っていた。」
その言葉に、私は思わず目を見開いた。婚約という名の絆に、彼は完全に慢心していたのだ。その信頼が、私をどれだけ傷つけたのか、彼には全く分かっていなかった。
「あなたが私をどれだけ軽視していたか、どれだけ無視していたか、あなたは覚えていないの?」私は、冷たい目で彼を見つめた。「あなたが私に誠意を示さず、私の気持ちを無視したから、私は今ここに立っているの。」
チャールズは少し顔をしかめ、何度も言葉を繰り返すように口を開けた。「でも、俺は本気で君とやり直したいんだ。過去を悔いている…もう君を失いたくない。」
その必死さが、どこか私を引き寄せようとする力になっていた。私はその言葉をどう受け止めていいのか分からなかった。彼が本当に反省しているのか、それとも単に自分の欲求を満たそうとしているのか、まだ私には判断がつかなかった。
私は静かに息を吐き、しばらく無言で彼を見つめた。心の中で、過去の記憶がよみがえり、感情が激しく交錯する。だが、私は一歩引いて、静かに言った。
「あなたが本気で反省しているのなら、時間をかけて、私に証明していけばいい。すぐに戻れると思っているなら、そんな甘い考えは捨てて。」
チャールズは私の言葉を聞いて、一瞬表情が固まった。それでも、彼はただ黙って頷いた。どこか、それができるという自信がない様子だった。
「分かった。」彼は小さく言った。「時間がかかるかもしれないが、俺は待つよ。」
私は少しだけ視線を逸らし、無言でカウンターの方に目を向けた。彼が去っていくのを見送ると、ふと深く息をついた。これから先、彼が本当に変わるのか。それとも、このまま過去の自分に縛られていくのか…。
私にはまだ、それを決める時ではなかった。ただ、私は今、私自身の道を歩んでいくことを選んだだけだ。
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