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幸せな日常
しおりを挟む翌日の食堂は、いつも通りの賑やかな雰囲気が漂っていた。朝の光が窓から差し込むと、店内は心地よい温かさに包まれ、常連客たちがいつもの席に座っている。その中でも、メアリーはすぐに私を見つけて、手を振りながら近づいてきた。
「おはよう、エリザベス!」メアリーがにっこり笑って声をかけてきた。
「おはよう、メアリー。」私は笑顔で応じながら、カウンターに向かって歩き出した。朝の挨拶を交わすと、常連客たちも軽く手を振ったり、声をかけてくれる。
「昨日、お花を買いに行ったんだって?」カウンターに座っていたオスカーさんがニヤリとしながら声をかけてきた。
「はい、メアリーと一緒に。」私は少し恥ずかしそうに答えた。
「おお、二人でお花か。」オスカーさんが頷きながら、少し意地悪そうに続けた。「どんな花を買ったんだ?」
「ミントの鉢植えと、メアリーはバラを。」私は自分の花を思い出して、にっこり笑った。「小さなミントだけど、これから育てるのが楽しみです。」
「ミントか、良いねぇ。」オスカーさんは興味津々で聞きながら、近くにいたエマさんにも話しかけた。「エマさん、あなたも花が好きだろ?ミントってどうなんだ?」
エマさんは、少し考え込むようにしてから答えた。「うーん、私はやっぱりヒマワリが好きかな。大きな花がぐんぐん育つ感じが好きで。」
「あぁ、ヒマワリね。陽気で元気な花だもんね。」オスカーさんは感心した様子で頷きながら、私に向き直った。「エリザベスが選んだミントも、静かに育っていく感じが良さそうだね。」
「そうなんです。」私は嬉しそうに頷きながら、話を続けた。「なんだか、育てるのが楽しみで。最初はちょっと不安だったけれど、最近少しずつ成長しているのを見ると、すごく愛着が湧いてきて。」
その言葉に、常連客たちはあたたかい反応をしてくれた。
「成長する過程を見守るって、いいよねぇ。」エマさんが言った。「私も小さい頃、お母さんと一緒に花を育てたのを思い出すわ。」
「お母さんと一緒にね。」オスカーさんがしみじみとした表情を浮かべながら、少し懐かしげに言った。「お前もそんなふうに、あたたかい記憶を育てるんだな、エリザベス。」
その言葉に、私は少し照れくさくなりながらも、心の中で嬉しく感じた。
「でも、バラってやっぱり豪華でいいわよね。」エマさんがメアリーのことを思い出して、にっこりと笑った。「どう?メアリーはあのバラをどうするつもり?」
「彼女は飾る予定よ。」私は笑いながら答えた。「バラが大好きだから、すごく喜んでたわ。」
「なるほど、飾るのが楽しみね。」オスカーさんがうなずきながら、少し冗談っぽく言った。「でも、バラに手を出したら、私みたいに棘でやられるんじゃないか?」
「オスカーさん、それは余計なお世話です!」エマさんが軽く笑いながら言うと、オスカーさんは大げさに肩をすくめた。
「いやいや、そんなつもりじゃ。」オスカーさんは手をひらひらと振りながら、みんなを笑わせた。
その後、私たちはみんなで楽しそうに話し続け、食堂は和やかな雰囲気に包まれた。メアリーも加わり、花の話題は尽きることなく続いていった。オスカーさんの冗談やエマさんの昔話が混じりながら、私の心も次第に軽くなっていった。
「花を買うのって、なんだか心がほっこりするわね。」メアリーがぽつりとつぶやいた。
「本当に、そうね。」私は心から同意した。「あの小さな鉢植えが、どんどん大きくなったら、もっと楽しくなるんだろうな。」
食堂の中で、皆がそれぞれの思いを共有しているのを感じながら、私は少し幸せな気持ちになった。こうして、日常の中で少しずつ絆が深まっていくのを実感できる瞬間が、私にはとても大切に思えた。
その日、仕事が終わると、食堂には穏やかな夕暮れの光が差し込んでいた。店内はもう少しで閉店を迎える時間帯で、少しずつ常連客たちも帰り支度を始めていた。私は最後の片付けをしていると、ふと厨房のドアが開く音がした。
振り返ると、ジョンがニコニコしながら顔を出していた。
「お疲れ様、エリザベス。」ジョンがいつものように優しい笑顔を向けてきた。
「お疲れ様です、ジョン。」私は少し疲れた顔をして答えながら、最後の皿を拭いていた。
「今日はちょっと遅くなっちゃったね。もう終わりかな?」ジョンが言いながらカウンターに近づいてきた。
「はい、もうすぐ片付けも終わります。」私はそう言って、棚に食器をしまいながら答えた。
「それなら、食事でも一緒にどうかな?」ジョンが少し恥ずかしそうに言った。普段はあまり積極的に誘うことがないジョンの表情が、ちょっと照れくさそうに見えた。
「食事ですか?」私は少し驚いたけれど、心の中ではその誘いが嬉しくてたまらなかった。
「うん。せっかくだから、エリザベスにもゆっくり食事を楽しんでほしいと思って。」ジョンは少し照れながらも、真剣な眼差しで私を見つめていた。「今日は仕事も長かったし、外に出てリラックスしたいでしょ?」
その言葉に、私は思わず微笑んだ。ジョンの気遣いが嬉しくて、心が温かくなるのを感じた。
「ありがとうございます。」私は少し恥ずかしそうに答えた。「でも、正直言うと、もうちょっと片付けをしてからでないと…。」
「もちろん、無理にとは言わないよ。」ジョンはすぐに手を振りながら言った。「でも、もし時間ができたら、少しだけでも一緒に行こう。」
その言葉に、私は心の中で少し考えた。ジョンと過ごす時間が、だんだんと心地よくなってきていたけれど、それでも少し気を使ってしまう自分がいた。過去の出来事がどうしても頭をよぎって、すぐには踏み出せない気持ちがあるのだ。
「わかりました。」私は少しだけためらいながらも、ジョンに微笑んだ。「ちょっとだけ待っていてくださいね。片付けを終わらせて、すぐに行きますから。」
ジョンは嬉しそうに頷いて、カウンターの椅子に腰を掛けた。「ありがとう、エリザベス。待ってるよ。」
その後、私は急いで片付けを終わらせると、ジョンが待っているカウンターに向かった。ジョンが席を立って、私に微笑みかけてくれると、その笑顔が一層輝いて見えた。
「準備はできた?」ジョンが軽く声をかけると、私は頷きながらジョンの後ろに続いた。
「はい、行きましょう。」私は少しドキドキしながらも、そのままジョンと一緒に店を出た。外の空気はひんやりとしていて、夕方の街並みが静かな美しさを持っていた。
「今日はどこに行くのがいいかな?」ジョンが歩きながら聞いてきた。
「そうですね…」私は少し考えてから答えた。「最近、あまり外に出ていなかったので、どこでもいいですよ。」
「それなら、近くの小さなカフェに行こうか。」ジョンが提案してきた。「静かで落ち着いた雰囲気だから、ゆっくり話すにはぴったりだよ。」
「いいですね。」私は微笑みながら答えた。「それでは、行きましょう。」
ジョンと一緒に歩くその時間が、少しずつ心を和らげていくようだった。歩くたびに、私は少しずつ彼との距離が縮まっていくのを感じていた。それでも、まだ心の中で踏み出せない部分があることにも気づいていた。
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