18 / 19
楽しいダブルデート
しおりを挟む紫藤様からの提案で実現した遊園地でのダブルデート。日下部様と私、そして紫藤様とたけるくん――四人でのお出かけは、私にとって初めての経験で、朝から緊張しっぱなしでした。
めずらしく動きやすさを重視したファッションの日下部様の新鮮なお姿に、ますます動揺してしまいます。
「夢見様、そんなに硬くならないで。今日はみんなで楽しむための日なのですから。」
紫藤様が柔らかく微笑み、隣で気楽そうなたけるくんが大きく伸びをしました。
「そうだぞ、ひな。こういうときは思いっきり楽しむのが一番だって。」
最初に向かったのは、お化け屋敷。私はあまり得意ではありませんが、紫藤様が「たまにはスリルも楽しみましょう」と誘ってくださり、頑張ることにしました。
薄暗い通路に一歩足を踏み入れると、すぐに背後からたけるくんが声をかけてきます。
「ひな、大丈夫か?こわいんじゃないのか?」
「だ、大丈夫です!」
強がってみたものの、近くから突然「うわあ!」と飛び出してきた仕掛けに、思わず声を上げてしまいました。その瞬間、日下部様が静かに私の手を取ります。
「大丈夫、僕がいるから。」
優しく落ち着いた声に、私は少しだけ安心しましたが、隣でたけるくんがまた茶化します。
「おーお、王子様だなあ。ひなもお姫様扱いでうらやましいよ。」
「たけるくん……!」
恥ずかしさで顔が赤くなる私を見ながら、日下部様が軽く咳払いしました。その少し鋭い視線に、たけるくんは「はいはい、邪魔しませんよ」と肩をすくめました。
次に向かったのは、遊園地の目玉であるジェットコースター。高さとスピードにおいて絶叫必至のアトラクションです。
「夢見様、これは一緒に乗りましょうね。」
紫藤様が満面の笑みで私を誘います。一方で、たけるくんと日下部様もペアになり、私たちは隣同士の席に分かれました。
乗り込んだ瞬間から、怖さと期待で手に汗がにじみます。
「夢見様、楽しみですわね!」
「は、はい……たぶん……!」
緊張して答えた次の瞬間、急降下――。風を切るスピードに思わず叫び声を上げた私とは対照的に、後ろのたけるくんの声が響きます。
「うおおお!すげえなこれ!王子様、余裕か?」
「……まあ、悪くないね。」
どこか落ち着いた調子で答える日下部様に、たけるくんが「さっすが!」と笑い声を上げました。その余裕ぶりが、やっぱり日下部様らしくて素敵だと感じてしまいます。
スリルを楽しんだ後は、みんなで休憩を取ることに。売店でそれぞれ好きなソフトクリームを買いました。
「夢見さん、ミルク味が好きなんだね。」
日下部様が優しく微笑みながら、自分のストロベリー味を見せます。
「ミルクとストロベリー、合いそうですね……。」
私がそう呟くと、彼は「じゃあ一口交換する?」と言ってストロベリーのソフトクリームを差し出しました。驚いていると、横でたけるくんが茶化します。
「お、ひな、まさか間接キスか?」
「た、たけるくん!」
私が慌てる隣で、日下部様は微笑んで、静かに言いました。
「たけるくん、それくらいにしておこうか。」
その低い声には、少しだけ拗ねたような響きがあって――私はまたもや顔を赤くするしかありませんでした。
最後に向かったのは観覧車。偶然というにはあまりにも自然な流れで、日下部様と私、紫藤様とたけるくんに分かれることに。
ゴンドラの中、二人きりになった瞬間、胸が高鳴る音が聞こえそうでした。日下部様は窓の外を眺めながら、柔らかな声で話しかけてくれます。
「今日は本当に楽しかったね。夢見さんと一緒にいられると、すごく幸せだよ。」
「私も……ありがとうございます……。」
緊張しつつも心からの気持ちを伝えると、彼がこちらを振り返って微笑みました。その表情が、これまで見たどんな光景よりも美しく感じられて――観覧車の中で過ごした時間は、私にとって何よりも特別なものとなりました。
14
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
冷徹文官様の独占欲が強すぎて、私は今日も慣れずに翻弄される
川原にゃこ
恋愛
「いいか、シュエット。慣れとは恐ろしいものだ」
机に向かったまま、エドガー様が苦虫を噛み潰したような渋い顔をして私に言った。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
白い結婚のはずでしたが、いつの間にか選ぶ側になっていました
ふわふわ
恋愛
王太子アレクシオンとの婚約を、
「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で破棄された
侯爵令嬢リオネッタ・ラーヴェンシュタイン。
涙を流しながらも、彼女の内心は静かだった。
――これで、ようやく“選ばれる人生”から解放される。
新たに提示されたのは、冷徹無比と名高い公爵アレスト・グラーフとの
白い結婚という契約。
干渉せず、縛られず、期待もしない――
それは、リオネッタにとって理想的な条件だった。
しかし、穏やかな日々の中で、
彼女は少しずつ気づいていく。
誰かに価値を決められる人生ではなく、
自分で選び、立ち、並ぶという生き方に。
一方、彼女を切り捨てた王太子と王城は、
静かに、しかし確実に崩れていく。
これは、派手な復讐ではない。
何も奪わず、すべてを手に入れた令嬢の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる