沈みゆく赤い島

ねむたん

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1章

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 森からの帰り道、海斗と七海が家に戻ると、玄関の空気がいつもと違っていた。

 母がキッチンで何かを煮込みながら、ちらちらと窓の外を気にしている。父は珍しく家にいて、黙ったままテーブルに腰かけていた。

 その険しい顔つきの父親に、七海が「ただいま!」と元気よく声をかけた瞬間、ピクリと肩を動かした。

「おかえり。…もう暗くなるから、今日は外に出ないでおけ」

 父が短く言い放つと、七海は首をかしげた。

「え、なんで?まだそんなに暗くないよ?」

「いいから、今日は出ないで」

 母が振り返り、いつもは優しい顔にほんの少し険しさをにじませて言う。

「何それ、変なの。どうせ何かあるんでしょ?教えてよ!」

 七海はムッとして詰め寄るが、母はそれ以上口を開かなかった。ただ、少し動揺したように目をそらし、鍋の中をかき混ぜるだけだった。

 海斗は部屋にランドセルを置きに行くふりをして、父の横を通りながらそっと聞いた。

「親父、何かあったのか?」

「…お前たちが心配するようなことじゃない。ただ言う通りにしろ」

 父の声は低く、断固としたものだった。

 その空気に、海斗はそれ以上聞くことができず、仕方なく部屋に向かった。


 夕食の席でも、家族の会話はほとんどなかった。母が皿を並べる音だけが響く中、七海がついに耐えきれずに言い放った。

「ねえ、私たちに隠し事してるでしょ?そういうのズルいよ!」

 父は箸を止め、じっと七海を見つめた。だが、結局何も言わずに再び食事を続ける。

 母がため息をついて言った。

「七海、そんなに気にしないの。お父さんもお母さんも、ただお前たちを守りたいだけなのよ」

「だからって、何も教えてくれないの?」

 七海が反論しようとするが、海斗が横から静かに言った。

「やめとけよ。多分、大人の事情だろ」

 その一言で、七海は口をつぐんだ。だが、納得したわけではなかった。


 食事を終えた後、七海は自分の部屋の窓から外を眺めていた。夜の島は静かで、いつもと変わらないように見える。だけど、遠くの港に人影が見える気がした。

「…何かあるんだよね」

 七海は小さな声で呟いた。

 隣の部屋では、海斗がベッドに寝転びながら考え込んでいた。

「親父とお袋があんなに緊張してるなんて…一体何が起きてるんだ?」

 兄妹それぞれが、静かな夜の中で不安を抱えていた。島で何かが起きている――それだけは確かだった。

 夜が更け、家中が寝静まった頃、海斗は布団の中で目を覚ました。どこからか微かに聞こえる物音に気づいたのだ。窓の外を見ると、かすかな光が遠くの港の方で揺れているのが見えた。

「何だ…?」

 海斗は布団から起き上がり、そっと窓を開けて耳を澄ました。人々のざわめきのような音が風に乗って届いてくる。

 隣の部屋の七海も、どうやら眠れていなかったらしい。ふいに部屋の扉が開き、七海がそっと顔を覗かせた。

「お兄ちゃん、起きてる?」

「うん。外、なんか変だ」

 海斗は窓を指さした。

 七海が窓際に寄ると、二人は揃って遠くの光に目を凝らした。

「あれ、何してるんだろう…こんな時間に集まるなんて変だよね?」

「さあな。でも親父たちが隠してるってことは、俺たちに見せたくないことなんだろ」

 海斗は窓を閉じながら、小声で呟いた。

「七海、お前も寝ろよ。変に外に出たら怒られる」

「でも気になるじゃん!」

 七海は小声で抗議したが、海斗の真剣な顔に押されて仕方なく頷いた。

「わかったよ。でも明日になったら絶対に聞くから!」

「そうしろ。今はとにかく寝よう」

 七海が部屋に戻ると、海斗も布団に潜り込んだ。しかし、頭の中には、父と母の緊張した表情や、窓の外の光景がぐるぐると渦巻いていた。
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