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22,公園デート?①

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 心地好い風が吹き抜け、ソルセは少しだけマスクをずらすと、その空気を吸い込んだ。
 芽吹く緑が薫り、花の蜜が香水のように匂う。

「いい写真、たくさん撮れそうだね」
「はい」

 ジュヌも、ソルセの動作を真似て春の空気を吸う。それを見つけたソルセは内心で、必死に後ろをついてくる子鴨のようだと思った。

 ソルセとジュヌは第二ミッションのため、スタッフに車を出してもらい、フォトスポットやピクニックの場として若者のなかでも人気の高い緑地公園を訪れていた。緑に溢れ、のびのびと見て回れそうだ。
 ホワイトのバケットハット被り、更にダイヤ型のマスクで顔を隠すソルセにならって、ジュヌもマスクをした。なにせ話題のオーディション番組に参加する二人だ。誰に知られているかも分からない。いままで堂堂と顔を晒して生きてきたジュヌにとっては、少し慣れない習慣だと思った。

 しかし、ソルセがハットを被るのは、どうやらそれだけが理由ではないらしい。

『そういえば、日焼け止め塗った?』

 車での移動中、唐突にソルセに問われ、首を傾げた。そうするとソルセは信じられないものを見るような目をして、ジュヌに日焼け止めクリームを押し付けたのだった。

「日焼け止めなしで外に出るなんて……本気?」
「え、そんなに引かなくても」
「いや、引いてるわけじゃないんだけどさ。驚いちゃって」

 確かにソルセは、その名前・雪世《ソルセ》のような雪色の透き通った肌をしている。てっきりそれは生まれつきのものだと思っていたが……。

(兄さんの肌が綺麗なのって、こういう細かい努力だったんだ)

 思い起こしてみれば、居室の洗面台にはソルセのヘアケア用品と共にさまざまなスキンケア用品が並んでいたのを思い出す。
 間近で見て一切の痛みも荒れもない、髪と肌……あの触れたときの滑らかさは、すべてケアの賜物ということか。

「どうしたの? 変な顔して」
「いや……兄さんと同じ日焼け止め、買おうかなと思って」

 危うい。あの夜の感触を思い出しかけて、ジュヌは慌てて意識を日焼け止めへと向ける。


「よかった。アイドルのたまごとして、スキンケアは大事だよ」
「は、はい……あっ、そうしたら兄さんとおそろいのものができますね!」

 ごまかしたその先にあったのは、そんな些細な喜びだった。当然それを聞いたソルセは、ハットとマスクの狭間から覗かせた眉根をわずかに寄せる。

「おそろいって……まあ、いいよ。この日焼け止めは本当におすすめだから……美容成分も入っているし、紫外線のカットも……」
「に、兄さん、あの、スタッフさんは?」

 意外とスキンケアについて話したがりなのだろうか。熱が入りはじめたソルセの意識を、やんわりと引き寄せた。

「ああ……スタッフさんは二時間後に迎えにきてくれるって。これからどうするの?」
「……はい。とにかく、いろいろ撮ってみようかと」
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