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23,公園デート?②

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 そしてジュヌは、あらゆるものに向かってシャッターを押した。
 澄んだ空に浮かぶ綿雲、傷跡のような樹の幹、鮮やかに咲き誇る躑躅、停められた自転車の後輪、ぱっと見なにを表現しているのか分からない前衛的なモニュメント……。

 瞬間を写し取っていくのは、意外と楽しく感じた。それと言うのも、当然ながら――。

(兄さんが隣にいてくれるから、なんだけど)

 ソルセとはすでに、半月近く共同生活をしている。けれど基本的に、そこにはほかの練習生の姿があった。いままさに、ソルセの存在を独占しているのはジュヌなのだ。

「ここさ……」
「はい」

 そんな独占欲にまみれた感情に心を浸しかけた刹那、並んで歩くソルセが、ぽつりと零した。ほぼ同時に、ピクニック客の子供が楽し気な笑い声をあげる。

「実はここ……来てみたいと思ってたところなんだよね」
「そうだったんですか?」

 場所についてはスタッフに相談し、いくつかピックアップされたなかで、特におすすめだというこの公園に決めたのだ。言わば偶然の選択だった。

「高校から練習生やってたからさ、のんびり出かけるって……してこなかったんだ。アイドルになってからも、毎日必死だったし」

 ソルセの視線が、遠く大河に架けられた橋梁を見ている。

(兄さんは……いま、どんなことを思っているんだろう)

 それが知りたくて、ジュヌは思わず、その心を覗くごとくシャッターを押した。――そして瞬間、一際強い突風が吹き抜ける。

「あっ……!」

 白いバケットハットが風に攫われる。
 ソルセの銀髪が惜しげなく陽の光を受けて、プラチナに輝いた。いつも通りに一つにまとめた毛先も風になびき、馬の尻尾のごとく揺れる。

 一連の様子があまりに美しくて、ジュヌの魂は抜かれるようだった。

「ああっ、ジュヌっ! 手伝って!」

 しかしソルセのその声に、我を取り戻す。そうして二人で、攫われた帽子を追いかけはじめた。

「兄さん、そっちです!」
「うん! あっ、また飛ばされた」

 そんな風に声を掛け合ってバケットハットを追いかける。この時間が、ジュヌは楽しくて仕方がなかった。

「ははっ、もう……ひどいなあ」

 気がつけば、並んで走るソルセが目を細め、マスク越しに笑い声を漏らす。
 あまりに自然に、楽しそうに笑うソルセから、ジュヌはまた視線を逸らせそうになかった。

「はあっ、はあ……ああ、やっと追いついた」

 風に運ばれる帽子はやがて、ふわふわと生い茂る芝生の上を転がっていく。
 ソルセの白い指先がそれを摘まみ上げると、表面についた埃や砂をぽんぽんとはたいた。

「はあ、ほんと……漫画みたいに転がっていくんだから」

 拗ねたように言うソルセは息を整えながら、改めてハットを被る。陽を受けて輝くプラチナの髪は、すっかり隠されてしまった。
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