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第一章 偽の自分
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夕陽がオレンジ色に輝きながら、彼方の地平線へ沈もうとする帰り道。
「ねぇ、何を召喚しようとしてたの?」
ミクは隣を歩くリクに尋ねます。
「えっ?」
「だって、あの音色。攻撃するような音じゃなかった。何処か、寂しげで切ない旋律で……誰かを呼んでるような、というよりは、誰かに助けを求めているような音だった」
ミクの蒼く澄んだ瞳に吸い込まれそうになって、リクは目を逸らしました。
「ねぇ、何を呼んでたの?」
ミクはリクの目を覗き込みます。
「……フリーダム」
「えっ?」
「自由の神、フリーダム……」
すると、
「プッ……」
ミクは突然吹き出しました。
「あはははは!」
「どうしたの?」
リクは、笑い出すミクを不思議な顔で見つめます。
「いや、だって。あんな『偽りの音色』を奏でてたあなたから、その言葉が飛び出すなんて、思わなくて。あなたがあの音色で召喚してたのは、『偽りの自分』よ」
「『偽りの自分』……」
「そう。『自由』とは程遠い、『偽りの自分』。『本当の自分』を奥に封印した、悲しくて寂しげな……あっ、そうか。だからこそ、あなた、『自由の神』に助けを求めていたのね!」
(やはり、ミクには心を見透かされる……)
リクは思います。
生まれた時から、ハーレンスト家の後継ぎとして『偽りの自分』を強要されてきました。
『偽りの自分』が教えこまれた『笛術』で奏でることができるのは、所詮『偽りの音色』。
それがどれほど上達しても、自由の神『フリーダム』など呼び出せるはずもなかったのです。
「あなた、やっぱり面白いわ。誰もが羨むハーレンスト家のお坊っちゃんなのに、『偽りの自分』を奏でて『自由の神』に助けを求める。まるで、自分の肩書きも、富も、全てを捨て去りたいみたい」
「ミクさんは……」
リクは思わず口を開きました。
「ミクさんは、何を召喚しようとしてたの?」
リクには分かっていました。
さっきの優美な音色。
誰もがうっとりと聞き入るその旋律は、何よりも深く、途轍もなく大きい『希望』を呼ぶ音に聞こえたのでした。
「私? 私はね……」
ミクは、蒼く澄んだ美しい瞳をそっと細め、蒼々と広がる海を見つめました。
「ポセイドン」
「ポセイドン?」
ミクは頷きます。
「海の神、ポセイドン」
ミクの首元で、サファイヤが蒼々と輝きました。
「海の全てを支配し、海の生命全てを司る……。今まで誰も支配できていなかった『海』は、だからこそ凄く『怖い』ものだけど……何よりも大きい『希望』を持ってる。そんな気がするの」
そう語るミクは、途轍もなく大きな『希望』に満ち溢れ、蒼々と光り輝いて見えたのでした。
「ねぇ、何を召喚しようとしてたの?」
ミクは隣を歩くリクに尋ねます。
「えっ?」
「だって、あの音色。攻撃するような音じゃなかった。何処か、寂しげで切ない旋律で……誰かを呼んでるような、というよりは、誰かに助けを求めているような音だった」
ミクの蒼く澄んだ瞳に吸い込まれそうになって、リクは目を逸らしました。
「ねぇ、何を呼んでたの?」
ミクはリクの目を覗き込みます。
「……フリーダム」
「えっ?」
「自由の神、フリーダム……」
すると、
「プッ……」
ミクは突然吹き出しました。
「あはははは!」
「どうしたの?」
リクは、笑い出すミクを不思議な顔で見つめます。
「いや、だって。あんな『偽りの音色』を奏でてたあなたから、その言葉が飛び出すなんて、思わなくて。あなたがあの音色で召喚してたのは、『偽りの自分』よ」
「『偽りの自分』……」
「そう。『自由』とは程遠い、『偽りの自分』。『本当の自分』を奥に封印した、悲しくて寂しげな……あっ、そうか。だからこそ、あなた、『自由の神』に助けを求めていたのね!」
(やはり、ミクには心を見透かされる……)
リクは思います。
生まれた時から、ハーレンスト家の後継ぎとして『偽りの自分』を強要されてきました。
『偽りの自分』が教えこまれた『笛術』で奏でることができるのは、所詮『偽りの音色』。
それがどれほど上達しても、自由の神『フリーダム』など呼び出せるはずもなかったのです。
「あなた、やっぱり面白いわ。誰もが羨むハーレンスト家のお坊っちゃんなのに、『偽りの自分』を奏でて『自由の神』に助けを求める。まるで、自分の肩書きも、富も、全てを捨て去りたいみたい」
「ミクさんは……」
リクは思わず口を開きました。
「ミクさんは、何を召喚しようとしてたの?」
リクには分かっていました。
さっきの優美な音色。
誰もがうっとりと聞き入るその旋律は、何よりも深く、途轍もなく大きい『希望』を呼ぶ音に聞こえたのでした。
「私? 私はね……」
ミクは、蒼く澄んだ美しい瞳をそっと細め、蒼々と広がる海を見つめました。
「ポセイドン」
「ポセイドン?」
ミクは頷きます。
「海の神、ポセイドン」
ミクの首元で、サファイヤが蒼々と輝きました。
「海の全てを支配し、海の生命全てを司る……。今まで誰も支配できていなかった『海』は、だからこそ凄く『怖い』ものだけど……何よりも大きい『希望』を持ってる。そんな気がするの」
そう語るミクは、途轍もなく大きな『希望』に満ち溢れ、蒼々と光り輝いて見えたのでした。
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