FREEDOM〜自由の世界へ〜

第九章 父の想い

２

「でも……お前の親としては、本当に失格だと思っているんだけどな、リク。少なくとも今は……不穏な動きを始める貴族が出てきた今だけは、どうしても混乱を招くわけにはいかない。お前は男でいる必要があるんだ。分かってくれ」

 「は……はい」

 貴族という言葉を聞いて、リクの頭の中に「ミクに気を付けろ」というウィリアムの言葉が反芻しました。

 「でも、この件が片付いて、バリーニャの国内が落ち着いたら……リク。お前が自分を偽らずに生きることができるようにするつもりだ。つまり、国民にお前を女領主として受け入れてもらうことを考えようと思っている。だから、お願いだ。もう暫く待ってくれ」

リクは驚きました。
いつも自分に厳しく、怖いだけだったミルトンが、そんなことを考えていたなんて、思ってもいなかったのです。

それと同時に、リクの瞳に熱い涙がじわっと湧いてきました。
リクは、自分をこんなにも拘束し、苦しませてきた父をずっと恨んでいました。
でも、ミルトンは一国の領主。
 領土を統治することには想像を絶する困難が伴うに違いありません。
 自分の愛娘、リクを男として育てるのは苦渋の決断だったのです。

 初めて父、ミルトンの本音を聞いたリクの目からは、思わず涙が溢れました。

 「お父様……ありがとうございます。そんなことを考えて下さっていたなんて……『私』は全く知らずにあんなことを言ってしまって。
 『僕』は『その日』……お父様がバリーニャ国を本当に平和な国にするその日まで、ハーレンスト家の後継ぎとして恥じることのないよう、精一杯頑張ります」

リクの目から、堪え切れない涙が次々と溢れました。

 「こらこら、泣くんじゃない。お前はいつか、この国で初めての女領主になるんだから」

そんなリクを、ミルトンは温かく見つめます。



 （どんなに嫌なことがあっても、私は負けない。
だって……私はいつの日か、バリーニャを統治する女領主になるんだから）

 初めて父の優しさに触れたリクは、そう固く決意したのでした。