敗北魔王の半隠遁生活

久守 龍司

文字の大きさ
9 / 40

9.ランクアップ可能な魔王

しおりを挟む
次の部屋は部屋というよりむしろ廊下のようだった。もう俺はどこから来たのかがあやふやになりはじめている。角が天井に確実に当たるのでずっとかがんでいるので早く出たい。
最初の部屋にいた人を皆殺しにした騒音で、この次の部屋もざわめきが起こっていた。さっきの部屋よりも人が多いようだ。人口密度が高いな。
廊下部屋には誰もいなかったので、そのまま次の部屋に突入する。

よくもまあこのせせこましい空間に10人も。人間族、人間族、ゴブリン、猫人族、そして鳥人族。
鶏頭のこの人が金貨100枚か。何人かは既に武器を取り出し、こちらに突きつけている。

「あ、あんたは……冒険者ギルドの……不良!」
この声は誰だと思えば、人間族の一人は俺がカツアゲした柄の悪そうな男だった。世間は狭い。

「冒険者か。だがおれ達を倒そうもんならバックにいる魔族様が黙ってねえぞ」
金貨100枚は腕組みをし、勝ち誇ったように言った。魔族。魔族と言ったか? コミュニケーションを取るのが苦手な俺は黙ったまま始末しようと思っていたのだが、自分に関係のある言葉が出てきたので思わず訊いてしまった。

「魔族と関わりがあるのか」
鶏の口がニヤリと歪み、自信ありげに語った。

「どうせ生きて帰れねえんだ、教えてやるよ。おれ達はな、セバルドで得た金の一部を魔族様に渡す代わりに他の盗賊団が活動できないようにしてもらってんだよ。魔族様は人のことなんざどうでもいいだろうが、金のこととなるとそうはいかねえ。たかが冒険者一人くらいすぐに消されちまうぞ?」
長々と述べてもらった。
魔族は金の亡者らしい。なぜ金に執着するのかは分からな…………いや、なんとなく分かる気がする。既得権益を損ねられたら、その元凶を絶ちに来るというわけか。だからといって見逃すわけもないが。顔を見られているわけだし、もう何人も殺してるし。
最後に、魔族魔族と語るので俺が魔族であるというアピールをして何か情報を聞き出そうと思う。

「どうせ生きて帰れないだろうから教えてやる」
うまいこと返したと思いながら帽子に手を掛け、屈んだ姿勢のまま脱ぎ、長い角を晒した。
俺も魔族だ。どうだ恐れ慄くがいい。
と思ったら逆に金貨100枚は笑い出した。
なんだ。お前達はすぐに笑って。なにもおかしくない。

「ふっ、そんな変な角生えてる長耳族とか見たことねえな。ありがとよ、面白えもん見せてもらったぜ。死にな!」
は?
恥ずかしくてむかついたので、攻撃を受ける前に金貨100枚の頸を捻り切って殺し、勢いで他も全員殺した。


やや道に迷いながら家屋の外に出ると、アレーナとクエレブレは待っていたようだった。クエレブレはなんともなさそうで襟巻きになっていたが、アレーナが二の腕を怪我しているみたいで心配だ。

「俺の方は金貨100枚含めて片付けた。アレーナ、怪我してるみたいだけど。洗って薬を塗ろう」
「これくらい平気。あっさり終わったね。ところで、シェミハザ様表情暗いよ? そっちの方が心配」
感染症になるかもしれないし平気とは言っても信用ならないので、後で治癒魔法士を呼ぼう。
病状が暗い理由は恥ずかしいことがあったからだが、話しておいた方がいいと思うので二人(ドラゴン族の数え方が人と同じかは知らない)にさっきのやり取りの内容を明かした。

「なるほど。彼らの背後には魔族がいるというわけですね。しかしながら、シェミハザ様の角を見ても何も思わなかったことを鑑みれば、恐らく彼らは直接魔族に会ったことはなかったのでしょう。ともあれ、魔族が実際に襲ってくるとなれば大変興味深……いえ、脅威的ですね」
「こっちはその魔族が誰なのかも分からないんで、対策の取りようもないな」
「それもそうね。ねえ、ひとまずは衛兵を呼ばない? アタシ達は血塗れ、扉の向こうは死体だらけなんだよね」
アレーナとクエレブレは、戦い方のせいもあってか腕や腹などしか汚れていなかった。そういえば、怪我している上に返り血は不味いと本に書いてあった。早く処置しよう。俺はゴブリン討伐の時と同じく頭から足先まで血をぐっしょり被っている。戦い方が派手すぎるんだろう。
そういえば、盗賊達は金を魔族に渡していると言っていたな。

「盗賊団なら金持ってそうだな」
「この後衛兵を呼ぶからすぐバレてお縄にかかっちゃうよ。やめてね」
死体から追い剥ぎしようと何気なく行ったところ、一瞬で意図を見破ったアレーナに制止され、クエレブレにも苦笑された。

「我々、シェミハザ様が犯罪者にならないように見守らなければなりませんね」



「首領の討伐報酬である金貨100枚に加えて、他にも賞金首がいたのでその分も加算して金貨306枚が今回の報酬です。お疲れ様でした」
衛兵が到着した後、返り血を浴びに浴びた俺達(特に俺)は衛兵の詰所で血を落とすことができた。ついでに治癒魔法士にアレーナを治してもらうこともでき、俺は胸を撫で下ろした。
その後は冒険者ギルドで報告をしたのだが、金貨100枚さん以外にも賞金首が結構混じっていたらしく、目標金額にあっさり到達してしまった。賞金稼ぎは名前の通り稼げるのでメインにして冒険者活動をやっていきたい。

「アレーナさんは現在赤ランク、シェミハザさんは現在黒ランクでいらっしゃいますが、今回の盗賊団殲滅でランクアップが可能です。シェミハザさんに関しては、一つランクを飛ばして昇格できますよ」
そういえばランクアップというものがあるんだった。俺は赤ランク、アレーナは青ランクになるということか。

「やった! 青ランクは実質最高位なの。体を張っただけあるね」
「そうか、俺も赤ランクに……赤以上って昇格試験があるんでしたっけ」
グレアムさんは、黄ランクまでは昇格基準が曖昧で、受付の裁量で決められると言っていた。つまり、赤ランクからは基準がはっきりと定まっているということだろう。

「はい。赤ランクへの昇格は教官について合宿という形になっております。詳しくは後ほど説明いたします。青ランクの昇格については、青ランク相当のモンスターを単独で倒すというのが条件です」
俺は合宿か。楽しいかもしれない。
アレーナは同格のモンスターを倒さなければならないようだ。時間的に俺よりはあっさり終わりそうだが、もし失敗したら。

「クエレブレ」
アレーナを守ってくれないかと頼もうとしたが、やんわりと断られた。

「私はあくまでシェミハザ様にお仕えしているので。それに申し上げた通り、シェミハザ様が犯罪者になることを抑止するため、ついて行きたいと思っているのですよ」
「いいのよ。そうやって守ってもらってランクアップしても自分のことじゃないみたいだから。駄目なら死ぬだけ」
アレーナが決めたことなら仕方がない。彼女の力を信じるしかないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

処理中です...